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メッシ不在も戦術で圧倒したバルセロナ エル・クラシコを5-1で快勝!

2018 10/30 07:00中山亮
スアレス,FCバルセロナ,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

クラシコ前のチーム状況

古くから世界各地でプレーされているサッカーではその地域ごとに様々な言葉・表現が存在する。

スペインで使われているそんな言葉の1つが「マニータ」。本来は子供の手を表す言葉だが、そこから5本指の5、つまり5得点を表し、歓喜の完勝、屈辱の完敗を表す表現となった。

全世界が注目する公式戦239回目となる2018-19シーズン最初のエル・クラシコは5-1とマニータ(5本の指)でメッシ不在のバルセロナがレアル・マドリードを下した。

強豪チームには数多くの代表選手が所属していることもあり、ワールドカップ明けのシーズンはどうしても波乱が多くなるものだが、2018-19シーズンのラ・リーガも大混戦。

ホームでエル・クラシコを迎えるバルセロナは何とか首位をキープしているものの第5節ジローナ戦からの4試合を3分1敗と苦しみ、前節第9節の首位決戦セビージャ戦では勝利したものの、メッシが骨折で離脱するというアクシデントにも見舞われた。

一方のレアル・マドリードはさらに深刻。開幕前にジダン監督と長年チームを支えたC・ロナウドがチームを離れ大きな変化が起こった。

スペイン代表をワールドカップ直前まで指揮したロペテギ監督を引き抜き、開幕から第5節までは勝ち点を重ねていたが、第6節にセビージャに敗れて以降前節までの4試合を1分3敗と大ブレーキとなり、順位もEL圏外となる7位。

大きなトラブルを発生させてまで獲得したロペテギ監督の進退問題が巻き起こる中でエル・クラシコを迎えた。

バルセロナに翻弄されるレアル・マドリード

メッシを骨折で欠くバルセロナは、右WGにラフィーニャ、左WGにコウチーニョ、中央にスアレスが入り、中盤にはアルトゥール、ラキティッチ、ブスケツが入るCLインテル戦と同じ4-3-3。

一方のレアル・マドリードはカルバハルが負傷離脱中ということで右SBにはナチョを起用。C・ロナウドがいなくなった前線には左にイスコが入り右にベイル、中央にはベンゼマ。中盤はこのチームを支えるモドリッチ、クロース、カゼミロの3人が入る4-3-3でスタートした。

調子を落としていたとしても、長年のライバル関係もあり、エル・クラシコとなるとそれまでの状態とは全く異なるチームへと変貌することもあるのだが、この試合でのレアル・マドリードは苦しんでいるチーム状態そのもの。立ち上がりから攻守においてバルセロナに翻弄される。

その要因となったのはバルセロナのポジショニングだった。

バルセロナのWGは「踵でタッチラインを踏む」と言われるほど左右に大きく開き攻撃の幅を作ることが多いのだが、この日のバルセロナの両WGは中へポジションを取り、SBが高い位置を取る。

エル・クラシコ,フォーメーション,powerd by footballtactics.net

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これによりレアル・マドリードの中盤3人に対してバルセロナは瞬間的にとはいえ中盤に5人を配置。ベンゼマがブスケツのところに下がったとしても3対4。レアル・マドリードは数的不利を作られてしまう。

ならばとレアル・マドリードのSBも中へ動きWGへとついて行くが、これもバルセロナは想定内。今度はレアル・マドリードのSBがいなくなったスペースにバルセロナのSBが飛び出していく。

前半はこの形でレアル・マドリードの右サイド、ナチョの外側をジョルディ・アルバが上がっていく形でバルセロナがチャンスを量産。コウチーニョの先制ゴール、エル・クラシコ初のVARによるPKとなったスアレスをヴァランが倒したプレーも同じ形から生まれたものだった。

レアル・マドリードはバルセロナのポジショニングに対して守備のスタート地点が定まらずプレッシャーをかけられなかったことで、守備側が常に複数の選択肢を突きつけられる状況となっていた。

レアル・マドリード起死回生の一手

2-0のスコア以上の劣勢に追い込まれていたレアル・マドリードは、このままではラチがあかないということで後半開始から大胆な変更を行う。

PKを与えてしまったCBのヴァランに代えてサイドでプレーできるL・バスケスを投入。カゼミロを最終ラインに下げ、L・バスケスは右サイド、前線はベイルとベンゼマ、中盤はクロース、モドリッチ、イスコの3人となる3-5-2へとシステムを変えた。

エル・クラシコ,フォーメーション,powerd by footballtactics.net

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この変更により前半の内容が嘘のようにレアル・マドリードが息を吹き返し、前線からのプレッシングが機能。あまりの変化に戸惑うバルセロナに対し、後半開始からわずか5分後の50分にマルセロのゴールで1点を返すと、さらにその直後にはモドリッチのシュートがポストを叩く決定機を創出。いつ追いついてもおかしくない展開となる。

こうなった要因はレアル・マドリードがシステムを変えることでマッチアップをはっきりとさせたこと。

ベンゼマとベイルの2トップはバルセロナのCBと対峙、L・バスケスとマルセロのWBはJ・アルバとS・ロベルトのSBと。ナチョ、カゼミロ、S・ラモスの3バックはバルセロナの3トップとガッチリとかみ合い、バルセロナの中盤3人に対してレアル・マドリードの中盤も3人と局地的な数的不利が生まれなくなった。

エル・クラシコ,フォーメーション,powerd by footballtactics.net

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マッチアップをはっきりとさせたことでレアル・マドリードの選手達は高い位置から思い切ってバルセロナの選手に対してアプローチを仕掛けられるようになったのだ。

さらに上回るバルセロナ

しかしこれで試合が決まらないのが世界最高レベルの戦いとも言われるエル・クラシコ。

レアル・マドリードがマッチアップをあわせて前線からプレッシングを仕掛けているということは、レアル・マドリードの最終ラインとバルセロナの前線はスペースがある状態で数的同数になっているということ。

これを把握したバルセロナは、インサイドハーフがサイドでSBやWGとポジションチェンジをすることで少しの時間を作ると、前半のボールを保持する戦い方から早いタイミングで前線にボールを入れる戦い方へと変化。レアル・マドリード陣内に一気にボールを運ぶ場面を作り始める。

すると75分、サイドの低い位置でアルトゥールとJ・アルバがプレスをかわし途中出場のデンベレにボールを付けると一気にカウンター。最後は後半途中から前線へとポジションを変えたS・ロベルトのクロスにスアレスが頭で合わせてゴール。試合を再びバルセロナの下へと戻した。

ここからは、同じパターンでバルセロナがゴールを量産。

83分にはスアレスがハットトリックとなるチーム4点目を決めると、87分には途中出場のヴィダルもゴールを奪いマニータを達成。

5-1の大差でバルセロナが239回目のクラシコを制し、通算成績はバルセロナの94勝、レアル・マドリードの95勝、引き分けが50となった。

前半に見せたバルセロナの戦い方も見事だったが、その後レアル・マドリードが打った一手も見事。そして試合が動く中でもさらにそのレアル・マドリードの手を上回るバルセロナの戦い方も見事な、非常にクオリティの高い一戦だった。