「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

試合増を目指すリーグと体力限界の選手 サッカー界の収益拡大政策の課題

2018 9/11 16:15Takuya Nagata
リーガエスパニョーラ,FCバルセロナⒸゲッティイメージズ
このエントリーをはてなブックマークに追加

Ⓒゲッティイメージズ

スペインリーグが北米で公式戦開催?選手側が猛反発

8月16日、スペインリーグが北米でのプロモーションを視野に入れ、スポーツイベント事業を行う米国のRelevent社と15年間のパートナーシップの契約をかわしたことを発表した。

その計画の一つとして、バルセロナやレアルマドリー等の公式戦を開催する案が明らかになり、大きな論争を巻き起こしている。新たな市場の開拓がリーグ側の意図だが、選手側は大きな負担となる長距離移動が強いられる海外での公式戦開催に猛反発。クラブ側も概ね選手と同意見だ。

現状、欧州クラブの試合が他の大陸で行われるのは、プレシーズンツアーかクラブワールドカップだ。プレシーズンツアーではシーズン前からチーム行動の時間を取ることで、結束を深めるという効果が望めるが、一方で、長距離の移動が多く、シーズンへ向けての体作りが出来ないとの声も上がっている。

クラブワールドカップは、南米王者と欧州王者が中立地の日本で世界一を決めるトヨタカップとFIFAクラブ世界選手権が統合されて誕生した大会だ。現在では、各大陸王者や開催国枠などで試合数が大幅に増えた。

シーズンの真っただ中で、中2~3日のトーナメント大会に長期遠征する難しさ、リスクの高さは、選手もクラブも肌をもって感じているところだ。

世界王者になる事は重要だが、国内リーグや欧州チャンピオンズリーグは、それ以上に落とせない。その現状がある中で、さらに、国内で済むはずのスペインクラブ同士の公式戦を、移動を強いて北米で行うというのは、道理的にも選手は納得しがたい。

以前イングランドプレミアリーグでも同様の提案がなされたが、反発が大きく実現しなかった。

他の競技に目を向けると、アメリカンフットボールのNFLが海外で公式戦を開催しているが、海外への普及効果があることや、元々アメリカは長距離移動が一般的なことから支持を取り付けやすいとう背景もあるだろう。

サッカーは、ほぼすべての国々に普及しており、北米には5大スポーツの仲間入りを果たしたともいわれる人気上昇中のメジャーリーグサッカー(MLS)がある。

移動にかかる負担を無視して優先するメリットがあるとは思えない。

市場拡大と選手コンディションのバランス

サッカーの市場拡大による選手のコンディションへの影響は大きな課題だ。

2003年、FIFAコンフェデレーションズカップで、カメルーン代表のマルク=ヴィヴィアン・フォエ(享年28歳)が準決勝コロンビア戦の最中に、心臓発作で帰らぬ人となり、選手の体調にスポットが当たった。

それ以降、様々な配慮がなされているが2026年ワールドカップでは、出場国をこれまでの32から48に拡大することが既に決まっている。

国際サッカー連盟(FIFA)同様に、欧州サッカー連盟(UEFA)も拡大路線をとっている。2016年の欧州選手権では、出場国を従来の16から24に拡大し、今季からUEFAネーションズリーグを新設した。これは従来の親善試合にかわるもので、勝者には、ワールドカップか欧州選手権の出場権が与えられることから、軽視することが出来ないものとなった。

しかし、ここにも既に綻びが出始めている。記念すべきネーションズリーグの開幕戦、ポルトガル対イタリアの試合について、クリスチアーノ・ロナウド(33歳)が出場見合わせを願い出ているという。その直前にある親善試合クロアチア戦だけならまだしも、UEFAの公式戦を休ませて欲しいというのは、今までにないケースだ。

本人は現時点で理由を明言していないが、ワールドカップを戦い疲弊しており、新しいクラブで結果を出すことに必死で、年齢的にも体力の限界というのが、本音ではないだろうか。

質落ちては本末転倒、今後の展開は慎重に

名選手が試合を休みたがってしまっては、大会のステータス低下は避けられない。

ワールドカップも今までは、ほとんどの代表チームにとって出場することが大きな意味を持つ大会だった。2026年からは、一定の水準にいる代表チームは参加するのは簡単で、決勝トーナメントからが本番といった考え方になるだろう。

大会の拡大は、新興国には歓迎され、増収が見込めるが、大会のクオリティが低下することは否めない。質が落ちて大会の価値が下がり、本末転倒にならぬように、今後は慎重なかじ取りが求められる。