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【2017年夏】セリエA強豪クラブの課題と補強通信簿

2017 11/10 12:24dai06
ヴィンチェンツォ・モンテッラ監督
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復活を狙う本気の補強、ミラン

ACミラン(以下、ミラン)の2017年夏の補強はセンセーショナルだった。

オーナーが変わったミランは、セリエAの名門たる誇りと実力を取り戻すべく、本気の補強を連発させた。これまでは「0円補強」とも揶揄される、移籍金の発生しない交渉や、少額の移籍金で済む交渉ばかりを成功させていたミラン。だが、この夏は全く違う。

獲得した選手でスタメンを揃えられるほど、即戦力レベルばかりを獲得。彼らが獲得に投じた移籍金額は、総額で約290億円を超える。ちなみにセリエA20クラブで使った移籍金総額は約1300億円といわれており、前年は約920億円である。
これだけでも、この夏のセリエAの市場は活性化していたことがわかるが、このうちの約20%はミランだ。彼らがいかに大きな買い物をしたのかがわかるだろう。

そんなミランが獲得した選手のうち、注目すべきはアンドレ・シウバ選手の獲得だろう。彼は総額約47億円でミランにやってきた。
ポルトガル代表やレアル・マドリードCFで活躍する、クリスティアーノ・ロナウド選手の後継者として有名でポテンシャルの高さに疑いの余地はない。
パワー、スピード、テクニック、どれをとっても平均以上で、高い位置だけでなく2列目に下がってプレーすることもできる。リーグ戦での出だしは良くなかったが、代表では好調なため順応できさえすればゴールの量産が期待できる。

中盤には世界でも屈指のFK技術を持つ、ハカン・チャルハノール選手が加入した。鋭くえぐるような弾道で蹴り込まれるFKはとても鮮やかで、観る者を魅了する。中盤でゲームを作ることもできる、非常に器用な選手だ。退団した本田圭佑選手の背番号10を引き継いでいる。

ディフェンス陣にはユヴェントスFC(以下、ユヴェントス)からレオナルド・ボヌッチ選手(以下、敬称略)を獲得した。ユヴェントスでは鉄壁の守備陣の一角として活躍していたが、待遇に満足できず移籍を決断したようだ。
後方からのロングフィードや空中戦での勝負強さ、そして彼のキャプテンシーがもたらすメリットはミランにとって大きいはずだ。大改革を敢行したミランの柱にふさわしい選手だろう。

新戦力のフィットに時間はかかっているようだが、クラブの戦術や理念にかみ合いさえすれば、再び強いミランができあがるはずだ。

鉄壁の守備はどうなる?ユヴェントス

ユヴェントスは、リーグの連覇をかけてこの夏も大きく動いた。リーグ戦では好調であっても、CLでは満足いく結果に至っていない。よって、補強においては選手層を厚くするとともに、ワールドクラスの獲得が求められる。

まず、主力であり世界でも屈指のアタッカー、パウロ・ディバラ選手(以下、敬称略)の引き留めに成功したのは評価すべき点だろう。彼にはネイマール選手を失ったFCバルセロナ(以下、バルセロナ)が迫っていたとされ、危機的状況にあった。若く優秀な彼を失えば、チームの攻撃の基盤がなくなってしまう。

新しく獲得した選手には、ドゥグラス・コスタ選手、ブレーズ・マチュイディ選手らがいる。前者はFCバイエルン・ミュンヘンでの出場機会に満足できず、ユヴェントスにやってきた。サイドから切り込むスピードと切れの良さには光るものがある。
後者はパリ・サンジェルマンFCからやってきた。豊富な運動量で中盤を走り回り、ボールの繋ぎ役になれる選手で、強固な中盤の選手層をより厚くするだけでなく、ゲームにアクセントをつけられるはずだ。後半終了間際に投入すれば、クローザーとしてもプレーできるだろう。

一方、手放してしまった選手のなかには、レオナルド・ボヌッチ選手(以下、敬称略)がいる。ミランに渡ってしまったボヌッチは、ユヴェントスの守備陣に大きな風穴を開けた。ユヴェントスだけでなくイタリア代表でも名物だった、BBCの3バックはユヴェントスではもう見られない。
ミランからはマティア・デ・シリオ選手を獲得したが、彼の本職はボヌッチの抜けたCBではない上に、そのクオリティには一抹の不安が残る。

CBにはベネディクト・ヘーヴェデス選手の名前も加わったが、旧BBC時代のような安定感をもたらせるかは、シーズンを戦ってみないとわからない。

期待も不安も入り交じるのが、この夏のユヴェントスの移籍市場だった。

レジェンドと主力の流出で危機的状況か、ローマ

ASローマ(以下、ローマ)は危機的な状況にある。レジェンドのフランチェスコ・トッティ選手は現役を退き、クラブにかけられる期待や責任は、同じくクラブのレジェンドであるダニエレ・デ・ロッシ選手(以下、敬称略)の肩にかかっている。
しかし、そのデ・ロッシも30代半ば、プレーでチームを支えるには段々と無理が利かなくなってくるだろう。チームには、これから10年近くにわたって支えられるだけの力を持つ選手の獲得が求められる。

だが、補強は遅々として進まず、獲得に成功する選手の名前にも、ワールドクラスといえるような名前はなかなか出てこなかった。その一方でアントニオ・リュディガー選手やモハメド・サラー選手といった主力はどんどんと流出し、戦力のダウンは明らかだった。

幸いなことにユヴェントスへの移籍がかなわなかったパトリック・シック選手の獲得には成功。ゴール感覚に優れる彼がフィットすれば、昨シーズン(2016-17)のリーグ得点王(29ゴール)であるエディン・ジェコ選手(以下、敬称略)に次ぐ活躍が期待できる。
できればそのタイミングが早いことを願いたい。

1強時代に終止符を打つか、ナポリ

近年のSSCナポリ(以下、ナポリ)は非常に良いゲームをしている。選手間の連携や戦術の円熟度が高まり、試合をコントロールできることが増えた。

ゴンサロ・イグアイン選手の退団で成績がぐらつくかに見えたが、ドリース・メルテンス選手がトップの位置で覚醒。2016-17シーズンは、前述のジェコに次ぐ28ゴールを挙げた。
サイドでは、ロレンツォ・インシーニェ選手(以下、敬称略)やホセ・カジェホン選手らスピード感のある選手の活躍も顕著で、彼らに隙を見せればあっという間に切り込まれてしまう。
ナポリの生え抜きであるインシーニェには、バルセロナからの関心も囁かれたが守り切ることに成功している。

できればドゥバン・サパタ選手に代わる、攻撃のバックアッパーを手に入れたかったが、それに見合うだけの選手は獲得できていない。
しかし、このまま現有戦力を保持し、チームのより一層完成度を高めていけば、ユヴェントスの1強時代を終わらせることができるかもしれない。

定まらぬ方向性と選手層、インテル

出だしは好調のインテルナツィオナーレ・ミラノ(以下、インテル)だが、ライバルであるミランと比べれば今夏の補強は物足りない印象を受ける。

SBにジョアン・カンセロ選手、ダウベルト・エンリケ選手、中盤にはボルハ・バレロ選手を加えるなど、必要な部分に必要な選手の獲得に成功したのは評価できる。
その一方でジェイソン・ムリージョ選手やエベル・バネガ選手ら主力を売却、あるいはレンタルで複数人放出しており、補強し切れていない。
そんな状況下で、日本の長友佑都選手が最古参として所属しているのは大変喜ばしいことなのだが……。トレーニングの面でも、インテルに多大な貢献をしている彼には、更なる活躍を期待したい。

長いシーズンを戦い抜くには、勝ち点を積み上げられるための戦術の方向性と選手層がなくてはならない。変わり続ける顔ぶれのなかで、頭一つ抜け出てくるような選手は現れるのだろうか。