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【2017年夏】プレミアリーグ強豪クラブの課題と補強通信簿

2017 10/13 10:05dai06
プレミアリーグ
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王者チェルシーとジエゴ・コスタの憂鬱

2016-17シーズンのプレミアリーグを、圧倒的な強さで制したのがチェルシーFC(以下、チェルシー)だった。
アントニオ・コンテ監督(以下、敬称略)の敷いた3バックの布陣は、攻撃でも守備でも圧倒的な勝負強さを披露し、プレミアリーグに新たな風を巻き起こした。

その一方で全体的な層の薄さに悩まされ、チャンピオンズリーグを戦わなくてはならない2017-18シーズンの補強は、必要不可欠であった。
さらに得点を量産するスペイン代表FW、ジエゴ・コスタ選手(以下、敬称略)とコンテの不仲は公となり、コスタはストライキ状態になってしまった。

この夏のチェルシーはいくつものタスクを携えて臨んだ。
そのなかで獲得したアルバロ・モラタ選手の獲得は、今のところ成功と言えそうだ。
チェルシーが大金をはたいて買ったフォワードというと、フェルナンド・トーレス選手(以下、敬称略)、前述のコスタなどが挙げられる。しかし、「チェルシーが獲得するスペインのフォワードは、何らかの問題を抱える」といったジンクスも囁かれる。モラタの場合は、コスタのようなメンタル的な問題を抱えるというよりは、トーレスのように得点を挙げられないことを不安視されていた。

しかし、開幕から順調に得点を重ねており、4試合で3得点。プレミアリーグ初挑戦にしては、十分な出来だ。前線からの守備貢献にも目を見張るものがある。

薄かったセンターバックにはアントニオ・リュディガー選手、ウィングバックにはアンドレア・ザッパコスタ選手、中盤にティエムエ・バカヨコ選手、ダニー・ドリンクウォーター選手らを加えた。

なんとかチャンピオンズリーグを戦えそうなメンバーを加えたチェルシーだが、コンテとクラブのフロントの間では意見の食い違いがあるようで、スピード感のある補強とはいかなかった。今後より一層コンテの手腕が試されそうだ。

コンパクト補強でも破壊力は抜群!マンチェスター・ユナイテッド

マンチェスター・ユナイテッドFC(以下、ユナイテッド)の補強は、非常にコンパクトに収まった。

必要な箇所に惜しげもなく大金を投じ、チームの柱となるメンバーを揃えることに成功した。監督であるジョゼ・モウリーニョ監督(以下、敬称略)の持つカリスマ性も、選手の獲得成功を支えた。

特にチェルシーも動向を探っていたロメル・ルカク選手の獲得と、同じくチェルシーの中盤を引き締めていたネマニャ・マティッチ選手の獲得は評価すべき点だ。結果的にライバルの補強の妨害と戦力ダウンに成功している。しかも彼らはチームに問題なくフィットし、すでにユナイテッドに欠かせない存在となっている。

不振のシーズンが続いてきたユナイテッドにとって、チームの主軸となる選手と監督の存在は必要不可欠だ。彼らとモウリーニョであれば、栄光の時間を取り戻すことも可能だろう。モウリーニョの「2年目で優勝」のジンクスも強力だ。

プレミア制覇は決定事項?マンチェスター・シティ

マンチェスター・シティFC(以下、シティ)は、2016-17シーズンに迎え入れたペップ・グアルディオラ監督の下で、新たな時代を築こうとしている。

クラブにもたらされたグアルディオラ監督(以下、敬称略)のメソッドは、彼が必要とする選手と彼のメソッドに適応しようと努力する選手でしか機能しない。足元の技術に長け、ゲームメイク力もあり、とにかく貪欲な選手が必要だ。そしてそういった一流の選手と一流の選手で巻き起こる競争力を彼は重視する。

この夏はカイル・ウォーカー選手やメンディ選手、ダニーロ選手らの加入でサイドバック陣を一気に入れ替えた。
さらにはゴールキーパーにエデルソン選手、前線にはベルナルド・シウバ選手にドゥグラス・ルイス選手らを加え、この夏で投じた移籍金の総額は約310億円にまで膨れ上がった。
昨夏に獲得したレロイ・ザネ選手、ガブリエル・ジェズス選手(冬に合流)も好調で、多くの有望な選手達がしのぎを削っている。

毎年のように補強を続けるシティだが、メジャーなタイトルに飢えており、クラブとしてはタイトルの奪取、ブランド力の向上が目下のミッションだ。
グアルディオラが希望した補強も比較的スムーズに成功していることもあり、クラブは彼に全権を託している。彼はその期待に応える必要があるだろう。

前述のユナイテッドを含め、マンチェスターの2クラブに勢いのあるシーズンはとても白熱する。2017-18シーズンの優勝候補筆頭だろう。

ヴェンゲル勝負のシーズン、アーセナルの補強

アーセン・ヴェンゲル監督(以下、敬称略)は、アーセナルFC(以下、アーセナル)の監督を退任することなく、新シーズンに臨むことになった。
彼に向けられる目は依然厳しく、リーグ上位に食い込むことができなければ、シーズン途中の解任もあり得ない話ではない。

そういった状況下でアーセナルにやってきたアレクサンドル・ラカゼット選手は、プレミアリーグに適応できておらず、まだまだ実力を発揮しきれてはいない。
フランスでは抜群のスピードと得点感覚を披露しており、その優れたポテンシャルに疑いの余地はない。美しく攻撃的なパス回しを展開するヴェンゲルのサッカーの下では、フィニッシャーとして最高の人材となり得る。

彼の一振りが、アーセナルとヴェンゲルの未来を良くも悪くも左右するだろう。

スタジアムの引っ越しでどうなるトッテナム

トッテナム・ホットスパーFC(以下、トッテナム)は、新しい本拠地となるスタジアムを建設中で、2017-18シーズンはウェンブリースタジアム(ロンドン北西部)を仮の本拠地としている。

この出費で補強にも多額の資金を投入することは難しいと目され、実際に市場が開いても沈黙を守り続けた。

その沈黙を破り8月半ばにやっと獲得したのが、DFのダビンソン・サンチェス選手だった。彼はコロンビア代表で、高い身体能力と正確で強力なプレッシングが売りの有望株だ。投じられた移籍金は約55~60億円だ。

前線にはデレ・アリ選手やハリー・ケイン選手らが健在で、相変わらず高い得点力を発揮している。 結果的に、今夏の補強は少なかったが、現有戦力と若手選手を上手く組み合わせていけば、十分上位を狙っていくことができるだろう。マウリシオ・ポチェッティーノ監督の采配があれば問題ないはずだ。

コウチーニョを守り切ったリヴァプールFC

リヴァプールFC(以下、リヴァプール)は、フィリペ・コウチーニョ選手(以下、敬称略)に寄せられたFCバルセロナからのオファーを断り続け、彼の保持に成功した。近年逸材を放出し続けていたリヴァプールが、タイトルを狙うクラブであることを示した形だ。

しかしトランスファーリクエスト(移籍志願)を提出していたコウチーニョにとっては、彼の希望とは違った結果となった。そうなると、モチベーションの維持が難しいと想像される。これまで通りの質の高いプレーができるかどうかわからない。
その上クラブは、アーセナルでいまひとつだったアレックス・オックスレイド=チェンバレン選手に約50億円もの大金を投じた。そのことに疑問を投げかける声も少なくない。

ただ、その一方で昨シーズンを支えたサディオ・マネ選手同様に、サイドを切り崩せる選手としてモハメド・サラー選手を獲得している。プレミアリーグでのプレー経験がある彼は、持ち前のスピードを遺憾なく発揮し、すぐチームにフィットした。

コウチーニョが自分の意向通りにはならなかった、その悔しさをバネにプレイで爆発しさえすれば、リヴァプールの攻撃陣はかなり破壊力のあるものとなるだろう。