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【苦悩する天才】フィリペ・コウチーニョ過去と未来

2017 10/13 10:05dai06
フィリペ・コウチーニョ選手
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ブラジルが生んだ天才、フィリペ・コウチーニョ

フィリペ・コウチーニョ選手(以下、敬称略)は、1992年6月12日にブラジルのリオデジャネイロで生まれた。
このリオデジャネイロを本拠地とする名門クラブ、CRヴァスコ・ダ・ガマ(以下、ヴァスコ・ダ・ガマ)のユースに所属すると、一気に頭角を現した。16歳にして「次代のブラジルを背負う選手」といった評価を受け、多くのクラブが彼の獲得を計画。
最終的に彼を射とめたのは、セリエAのインテルナツィオナーレ・ミラノ(以下、インテル)だった。インテルが彼の獲得のために支払った金額は、約6億円ほどとされている。

インテルはコウチーニョを獲得したものの、セリエAの年齢制限により試合に出場させることができなかった。結果的に彼は古巣のヴァスコ・ダ・ガマに留め置かれた。
2010年の夏からやっと正式にインテルの一員になると、少しずつ出場機会を得るようになり、2011年5月にはFKで移籍後初ゴールを飾った。
しかし彼が加入した前後のインテルは、セリエAの連覇に別れを告げ、改革の真っ最中だった。若いコウチーニョに出場機会を約束することはできず、2012年の冬の市場でRCDエスパニョール(以下、エスパニョール)にレンタルに出される。
スペインのサッカーはブラジル人選手の気質にも合いやすいとされ、コウチーニョはリーグ9試合のうちに4ゴールを挙げた。しかも当時のエスパニョールを率いていたのは、若手選手の扱いに長けるマウリシオ・ポチェッティーノ監督だ。彼はコウチーニョの才能を見抜いていた。

エスパニョールはコウチーニョを買い取ることを希望したが、コウチーニョはインテルに復帰することを選んだ。
彼はこの時、「アンドレア・ストラマッチョーニのサッカーの哲学が好きなんだ。彼はいつでも選手と対話する姿勢がある。彼の指導で成長できるといいね」と語った。

中盤もサイドもこなすコウチーニョのプレースタイル

コウチーニョは中盤でもサイドでもプレーできる選手だ。

ドリブルにおいては、非常に敏捷性が高くスペースを見つけるのがとても上手い。相手選手に囲まれていようとも、数ステップで相手を引き付けた後に一気に加速、あるいは身体を反転させて包囲を破る。
ボールの扱いがとても柔らかく、味方からのパスも足元で綺麗に収め、ドリブルを開始する。前述のドリブルスキルを活かして、相手選手を引き付けて味方の攻撃経路を確保、そこに鋭いパスを送ることもできる。

このコウチーニョの動きは、さすがブラジル人選手といったところだ。しかも彼は自身のプレーに驕ることがない。切り込めるところには自ら切り込み、味方にチャンスメイクできる時にはすんなりとボールを渡す。この球離れの良さこそ、コウチーニョを評価すべきポイントかもしれない。

ダイヤの原石を得る者と失う者

コウチーニョは2013年冬の市場で、リヴァプールFC(以下、リヴァプール)に移籍した。移籍金の額は約14億円ほどとされている。

当時のリヴァプールはブレンダン・ロジャーズ監督が指揮を執っており、不調を脱しつつあった。コウチーニョを迎え入れるとボールを繋ぐサッカーを展開。
常にボールを保持し自分達のペースに持ち込んだ。 球離れの良いコウチーニョは、トップ下での起用にも難なく応えた。プレミアリーグ特有の激しいフィジカルコンタクトには、持ち前の身のこなしでひらりとかわす。
ルイス・スアレス選手(以下、敬称略)やラヒーム・スターリング選手(以下、敬称略)とフィットし、連携力も磨き一気に成長した。

どうやらインテルは、ダイヤの原石を非常に安く売ってしまったようだ。過渡期にあったインテルの懐事情がわからないでもないが、インテルもといセリエAには、コウチーニョのような観客を楽しませられる選手こそ必要だったはずだ。低迷するセリエA人気復活の礎になったいたかもしれない。

苦悩の移籍市場、2017年夏の悲劇

コウチーニョはリヴァプールで名声を得て、ワールドクラスの選手となり、FCバルセロナ(以下、バルセロナ)から関心が持たれるようになる。
バルセロナの中盤にはアンドレス・イニエスタ選手(以下、敬称略)がいるが、彼は30代を迎えており後継者を必要としている。イニエスタとコウチーニョのプレーは近似しているため、すんなりとフィットするだろうという見方も強まっていた。球離れの良さもバルセロナの哲学に合っている。

そして2017年夏の移籍市場。事態は急展開を迎える。
バルセロナの攻撃陣MSNの一角、ネイマール選手(以下、敬称略)が約290億円でパリ・サンジェルマンFCに引き抜かれてしまう。ネイマールは、メッシ引退後のエース候補筆頭だっただけに、バルセロナは大打撃を受けたといえる。

ネイマールの放出で大金を得たバルセロナ。どんな選手もすんなりと手に入れることができるはずだったが、ネイマールの移籍金の額は市場全体の価格を高騰させた。どの選手を獲得するにも高額の移籍金を必要とし、選手に価値を付けるクラブが続出した。

そういった状況下で、コウチーニョはイニエスタの後継者というよりは、ネイマールの後継者として名前が挙がるようになる。しかし、リヴァプールはバルセロナからの度重なるオファーを拒否。コウチーニョがトランスファーリクエスト(移籍志願)を提出し、その直後にクラブがそれをはねのける事態にまで発展した。

バルセロナは130億円以上の金額を用意していたようだが、すでにウスマン・デンベレ選手やパウリーニョ選手を高値で獲得した背景もあり、コウチーニョ獲得交渉から身を引いた。リヴァプールの意思も非常に固かった。

噛み締める悔しさ。コウチーニョの未来

トランスファーリクエストを出すということは、所属元のクラブと袂を分かつ覚悟決めたことを意味する。
移籍することはかなわず、市場が閉幕してしまった今、コウチーニョはどんなことを考えているのだろうか。

リヴァプールはコウチーニョというダイヤの原石を手に入れ、好条件で取引きできるチャンスがあったにも関わらず、それを良しとはしなかった。リヴァプールはタイトルに飢えている。しかし、タイトルには飢えつつも、スアレスやスターリングに高値を付けてきた。近年ではクラブを買い取るというよりは、選手を育ててクラブを売却するという見方も強まっている。
タイトルを本当に狙うのであれば、売却を安易に許さない姿勢が重要であるため、コウチーニョ売却の断固拒否はその姿勢が強く表れた結果だろう。リヴァプールは間違いなく上を狙えるクラブだ。

コウチーニョはリヴァプールでのプレーを前に、8月末にブラジル代表としてプレーした。
エクアドル戦においては、味方との連携から素晴らしいゴールを決め、まくったユニフォーム噛み締めながらピッチを走った。さらには仲間から祝福を受けながら、泣いていた。移籍市場での悔しさが滲み出た印象的なシーンだった。

移籍市場が閉まった以上、コウチーニョはリヴァプールでプレーしなくてはならない。リヴァプールの様子を見るに、彼を必要としていることは明らかだ。あとはコウチーニョがその期待に応えられるかどうかだろう。

2018年にはワールドカップも待っている。モチベーションをなんとか向上させて、大会を迎えてもらいたい。そしてもし移籍するのであれば、リヴァプールに素晴らしい置き土産を残していってもらいたいものだ。