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【ワンダーボーイ】アレクシス・サンチェス少年が見つけた光

2017 10/13 10:05dai06
アレクシス・サンチェス選手
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貧しかった少年時代を乗り越えて

アレクシス・サンチェス選手(以下、敬称略)は、1988年12月19日生まれのFWだ。
生まれも育ちもチリの北部トコピジャ。トコピジャは起伏が激しい乾燥地帯で、人々が暮らすのには厳しい地域だ。貧しい家庭も多く、生活に苦労している人々が多い。サンチェス自身も父親のいない貧しい家庭に育ち、かなり苦労したようだ。
それでも地元の人々には「アルディージャ(リスの意)」と呼ばれて親しまれており、ストリートサッカーに精を出した。時には得意技の宙返りを大人に披露し、小銭を稼ぐこともあったようだ。アルディージャの愛称からも、とても愛想の良い子どもであったことが窺える。

15歳の頃には、地元のクラブであるCDコブレロアの下部組織に加入。練習後にはアルバイトをしながら腕を磨き、2005年、16歳の頃にはプロの選手になった。
代表ではU17の南米大会で活躍し、2006年にはセリエAのウディネーゼ・カルチョが共同保有権を獲得。チリの名門であるCSDコロコロや、アルゼンチンの名門であるCAリーベルト・プレートを渡り歩きながら、世界のどのリーグにも通用する選手となる。

彼の適応力の高さを、多くのクラブが評価し獲得を狙った。
2011年夏に複数のクラブが移籍先として名前が挙がるも、最終的に彼をものにしたのは、FCバルセロナ(以下、バルセロナ)だった。言わずと知れた、世界最高峰のクラブだ。移籍金はボーナス込みで約42億円。バルセロナは満を持してサンチェスを迎え入れた。

バルセロナでの活躍とサンチェスのプレースタイル

バルセロナに渡ったサンチェスは、持ち前の高い攻撃センスを披露した。加入した2011-12シーズンはポジション争いに苦しむなかで、公式戦41試合に出場し15得点を記録。
生え抜きであるリオネル・メッシ選手やペドロ・ロドリゲス選手、ダビド・ビジャ選手(いずれも以下、敬称略)らと厚みのある攻撃陣を形成した。

当時のバルセロナは、ジョゼップ・グアルディオラ監督(以下、敬称略)の下で高水準のポゼッションサッカーを披露していた。サンチェス自身も攻撃だけでなく、優れたゲームメイク力を発揮し重要な選手に成長した。

彼はボールを持てば足に吸い付くようなドリブルを披露した。身体の反転や相手を抜く仕草には無駄がなく、スルスルと前へ攻め上がることができる。
ゴール前に迫れば前述の通り味方に綺麗なパスを送ったり、自身で果敢にシュートを狙っていく。しかもそのシュートはコントロールした場合には鋭く曲がり、思い切り振り抜けば勢いよく飛んでいく。
コースの選定もとても上手く、ドリブルで相手を引きつけた方向とは逆の方向にシュートを放つことも可能だ。

幼い頃から活躍して得た「ワンダーボーイ」の愛称は、ここにきて本物になった。不遇の少年時代を経て、サンチェスはバルセロナで光を見た。

ネイマールに振り回されるバルセロナとサンチェス

2013年夏にネイマール選手(以下、敬称略)がバルセロナに加入。前評判の優れていたネイマールの加入は、多くのバルセロナサポーターの歓喜した。選手起用においても彼は重宝されるようになり、結果を出し続ける。かつてバルセロナに所属した同胞のロナウジーニョ選手同様に、鮮やかなドリブルスキルと攻撃センスを披露しスタメンに定着する。

サンチェスは再びポジション争いを強いられるようになり、ネイマールとも激しい火花を散らした。結果的にこの勝負はネイマールに軍配が上がり、サンチェスは2014年夏にアーセナルFC(以下、アーセナル)に移籍することになる。

なお、このネイマールと2014年夏に加入したルイス・スアレス選手も高いクオリティを発揮し、MSNを形成する。MSNの攻撃は誰にも止めることができないほど高い評価を受けるが、このさなかでペドロがポジションを奪われる。結果的に彼はチェルシーFCへと移籍せざるを得なくなった。

世界でも屈指のクラブであるバルセロナが、攻撃陣を刷新し続けるのは当然のことだ。しかし、サンチェスにしてもペドロにしても、他のクラブからすれば喉から手が出るほど欲しい選手だ。彼らがバルセロナで残した結果は決して悪いものではなかった。ただMSNのクオリティがそれよりも上をいっていたのだ。

しかし、2017年夏にネイマールを失ったバルセロナは後釜探しに苦労することになる。移籍市場で多くの大物を取り逃がし、サポーターからの批判を招いた。ネイマールで得たものも大きかったが、ネイマールで失ったものもまた大きかったようだ。なんと皮肉なことだろうか。

プレミアリーグにも適応!ヴェンゲルのファーストチョイスに

アーセナルFCに加入したサンチェスは、すんなりとスタメンに定着した。バルセロナでしのぎを削った彼であれば、スタメン定着は間違いないようなものだが、プレミアリーグに適応するとなると話は別だ。激しいフィジカルコンタクトとスピーディーな試合展開についていけない選手は大勢いる。

しかし、サンチェスはどのリーグでも結果を残してきた選手だ。軸のぶれないドリブルスキルは、プレミアリーグにも通用し、大柄なDFと対峙しても物怖じせず向かっていく。ヴェンゲル監督(以下、敬称略)のファーストチョイスとして名実ともにチームにフィットした。

ヴェンゲルが率いるアーセナルは、このサンチェスと前年に加入したメスト・エジル選手(以下、敬称略)らで、改革の時を迎えていた。遠ざかっているリーグタイトルを狙うべく走り始めていたはずだった。

苦しむアーセナルとヴェンゲル、サンチェスは暗雲のなかへ

大型補強を連続させるアーセナルではあったが、リーグタイトルには近付くことができないでいる。格下のクラブに負けることや、ケガ人が続出することもあり、ヴェンゲルの采配を疑問視する声も多い。2017年3月には彼の辞任を求めるデモも発生しており、クラブ関係者には暗雲が立ち込めている。

2017年夏にはサンチェス、エジルともに契約延長に至っておらず、退団が噂されるようになる。特にサンチェスは、かつての恩師であるグアルディオラ率いる、マンチェスター・シティFCへの移籍が確実視された。ただこの移籍は、アーセナルが彼の後釜としたトマ・レマル選手の獲得に失敗し破談になった。

サンチェスは「僕の決意は下しているんだ。後はアーセナルがどう言うのかを待たなくちゃ。クラブ次第だね」と語っており、退団にもやぶさかではなかった。しかも「僕はCLで戦うことを考えており、チャンピオンズリーグで優勝することが小さい頃からの夢だ」とも話している。
2017-18シーズンのアーセナルは、20年振りにCLに出場することができないため、この彼の夢にはそぐわない。

サンチェスとアーセナルとヴェンゲル。3者は今、暗く重い暗雲のなかにいる。ここからどんな光を見出していくのだろうか。サンチェスの実力には疑いの余地がないだけに、できればタイトルを狙えるクラブでの活躍が望ましい。
願わくば、それがアーセナルであることを祈るばかりだ。アーセナルのタイトル獲得、ヴェンゲル政権の続行のカギは、サンチェスが握っているのかもしれない。