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聖者の行進はただ前へ、トッテナム・ホットスパーFCを徹底解説

2017 8/17 16:20dada
tottenham
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トッテナム・ホットスパーFCと一人の騎士

トッテナム・ホットスパーFC(以下スパーズ)は、英国ロンドンの北部を本拠地とするクラブだ。愛称を「スパーズ」と呼び、プレミアリーグ内でも徐々に力を付けているクラブの一つとなっている。トッテナム・ホットスパーFCという正式名称には、「トッテナム」という地区の名前とホットスパーという一人の騎士の名前がモデルになっている。
この騎士は正式名をヘンリー・ホットスパー・パーシーといい、中世の英仏戦争で活躍した騎士だ。スパーズを創設したパブリックスクール(英国の私立中等学校)の学生らは、この騎士の名前をクラブ名として使い始め、それが現在に至っている。
パーシーは常に前線を駆け回り、敵を倒していた勇敢な騎士だ。
今も彼はスパースサポーターから愛されており、彼の一族の居城「Alnwick Castle(アニック城)」も現存している。ちなみにアニック城は映画『ハリー・ポッター』シリーズのホグワーツ魔法魔術学校のロケ地にもなっている。

スパーズの名選手たちと伸び悩み

スパーズには得点を量産するストライカーが大勢在籍してきた。1979-80シーズンに鮮烈なデビューを飾ったグレン・ホドル選手、現在歯に衣着せぬ物言いで有名な解説者ギャリー・リネカー選手、変幻自在の攻撃をみせたテディ・シェリンガム選手らがその代表例だろう。
彼らは皆スパーズの中心選手として常に攻撃を牽引してきた。ただ、スパーズは高い攻撃力とは裏腹に、守備は不安定だった。いくら得点を重ねようと失点が重なれば当然順位は上がらない。スパーズに長年必要なのは中盤の安定感であり、安定した成績を残し始めたのは2000年代に入ってからだ。

変わりつつあるスパーズ、クオリティは一線級に

スパーズは2000年代に入ってからプレミアリーグの上位に食いつくようになる。2005-07シーズンには2年連続でリーグ5位を記録しクラブには自信が伴うようになった。プレミアリーグには「ビッグ5」と呼ばれる強豪クラブがいるが、彼らに追いつけるということを結果で示したのだ。
2010-11シーズンにはオランダのテクニカルな中盤、ラファエル・ファン・デル・ファールと選手を獲得。MFながらリーグでは13得点を記録、高いパス配給能力だけでなく得点力でも大きく貢献した。このシーズンにスパーズはリーグ4位にのし上がる。また同シーズンには2013年にレアル・マドリードに移籍することになるギャレス・ベイル選手も急成長を遂げた。ベイル選手はウィングの位置でプレーするのが当たり前になっているが、元々はサイドバックの位置でプレーしていた。強力なスプリントが持ち味で後方からいきなり現れる彼の爆発力には、多くのDFが苦労させられた。結果、彼はプレー位置をより攻撃的な方面へシフトさせていき、ウィンガーとして世界最高峰の選手となった。

相次ぐ流出、培われたクオリティとの別れ

足りないとされていたスパーズの中盤。しかし、ファン・デル・ファールト選手やベイル選手、ルカ・モドリッチ選手らによりそのクオリティは格段に向上した。前線の選手だけが走り続ける時代は終わりを告げ、ボールがピッチ全体で回るようになったのだ。サポーターも手応えを感じ始めたことだろう。ただ、この新しい時代もすぐに終わりを迎える。2013-2014シーズンに流出の嵐が起きるのだ。スパーズは前シーズンにレアル・マドリードにモドリッチ選手を売却していたが、白い巨人の触手はベイル選手にも伸びる。約120億円といわれる額で彼を売却。さらには主力のスコット・パーカー選手やキャプテンのウィリアム・ギャラス選手など、チームの顔の選手がどんどんと流出していった。サポーターは各紙が報じる相次ぐ移籍報道に振り回された。
着実に育ってきた中盤のクオリティだけでなく、チームの柱であった選手も失ったシーズンとなった。シャーウッド監督は解任され、後任にはマウリシオ・ポチェッティーノが決まった。

ポチェッティーノが吹きこんだ新しい風

スパーズに新しく就任したポチェッティーノ監督は、アルゼンチン人で現役時代はDFとして活躍した。エスパニョールで多くのシーズンを過ごし、監督業も馴染みの古巣からのスタートとなった。スパーズではハリー・ケイン選手やデレ・アリ選手。エリック・ダイアー選手などを見出し一流の選手として育て上げた。彼ら3選手はいずれも貴重な英国人の選手だ。国内選手を大切にしたがるプレミアリーグのクラブにおいて、彼ほどのクオリティある選手を1つのクラブで育て上げたことは評価すべきだろう。2015-2016シーズンにはリーグ3位を記録した。2017シーズンにはワニャマ選手も加わりエリック・ダイアー選手との中盤コンビが形成された。彼らは相手選手のボールを絡めとっていき、前線のデレ・アリ選手にパスを供給、デレ・アリ選手はハリー・ケイン選手にキラーパスを送ることも、自身で飛び出すことも得意としている。ハリー・ケイン選手は「ハリケーン」と表現されるほどの高い攻撃力を有している。機を逃さすことなく、確実にゴールを量産していく。

これからも歌う、聖者の行進を

思えばスパーズはこれまでにも多くのタレントを有してきた。しかしそんなタレントたちはさらなる高みを目指して、他のクラブに買われていく。
前述のハリー・ケイン選手やデレ・アリ選手も、活躍するごとにその流出が危惧された。進まない契約の延長交渉にサポーターも恐れ、他のクラブは狙いを絞りつつある。そんな中、2016年9月にデレ・アリ選手が、12月にはハリー・ケイン選手が契約の延長交渉にサイン。2022年までチームに留まることに決まった。この瞬間サポーターは胸をなで下ろし、これからもスタジアムで見られることに歓喜した。スパーズのスタジアムはホワイト・ハート・レーンだ。このスタジアムでは「聖者の行進」がチャント(応援歌)として歌われる。サポーターが高らかに歌うこの歌は、これからもスパーズで戦う選手たち、そしてトッテナムの街にこだまする。
プレミアリーグのタイトルという夢に向かって、選手とサポーターはこれからも一体となって行進を続けていくことだろう。