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クリスティアーノ・ロナウドが辿った勝者の軌跡と2つの涙

2017 8/17 16:20dai06
Cristiano Ronaldo
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涙のEURO

涙のEURO。2016年、フランスの舞台でこのドリブラーは涙を流していた。いきなりの負傷交代。母国ポルトガルを背負う大きな背中からは、やるせなさが滲み出ていた。キャプテンマークを泣く泣く長年の友人であるナニ選手に託した。
思えばこの12年前。2004年大会のEUROでも涙を流していた。 昔から大きな期待と共に、ロナウド選手は歩んできたのだ。故に彼にのしかかる精神的な重圧も大きかったことと思う。それは今も昔も変わらない。 彼の歩む道は勝利への道。彼の歩いた後には栄光があり、彼の歩む先にも栄光が期待されていた。

スポルティングが生み出す、名立たるサイドアタッカー

ロナウド選手は1997?2002年シーズン、ポルトガルの強豪スポルティングのユースに在籍していた。彼がこのクラブを選んだのは母の勧めだった。母の大好きなクラブだったのだ。 ロナウド選手はスポルティングで徐々にステップアップ。サイドでの爆発的な突破力は観る者の目をくぎ付けにさせた。まだ若く荒削りではあったものの、確かにヨーロッパ全土で通用するであろう、大器の片鱗を見せ始めていたのだ。
スポルティングはロナウド選手の他にもリカルド・クアレスマ選手や、ナニ選手といった名立たるサイドアタッカーを生み出している。 それは現在も同じ。ジェルソン・マルティンス選手など、偉大な先輩たちの後を追う後輩が続いている。 ロナウド選手はこのスポルティング時代から、非常に練習熱心だった。常にボールを追いかけ、ドリブルを繰り返し、己の持ち味を高めることに妥協を許さなかったのだ。
サッカー選手には「天才」と呼ばれる選手が何人か居る。ロナウド選手もこの天才に間違いなく入ると思われるが、彼はまさに「努力の天才」だ。30歳を超えてもなお、彼はトレーニングを怠らない。

開かれたプレミアリーグの道、7番の始まり

2003?2009年のシーズンはプレミアリーグの強豪、マンチェスター・ユナイテッドに在籍した。同クラブの名将、サー・アレックス・ファーガソン監督、ユナイテッドのレジェンドであるロイ・キーン選手やファン・ニステルローイ選手らが獲得を希望。 様々なクラブから関心が寄せられていたものの、無事ユナイテッドへの移籍が決定したのだ。
この時彼が付けた番号があの「7番」だ。ユナイテッドの7番は名選手中の名選手しか付けられない特別な番号だった。カントナ選手やベッカム選手らの歴史に、ロナウド選手も名を連ねることになったのだ。 ユナイテッドのキャプテンであるウェイン・ルーニー選手とも、この時に友人関係を構築した。
プレミアリーグには多くのスター選手がひしめいている。加入当初はボールロストが多く独善的であるといった見方もされたが、そんなことはお構いなし。場数を踏む毎に磨かれる技術は、多くの選手を凌駕するようになった。2007?2008シーズンには、リーグ31得点で得点王になった。

白い巨人が招いた怪物、クリスティアーノ・ロナウドという男

2009?2010シーズンからは、スペインのレアル・マドリードに移籍。当時約140億円とも言われる金額は世界を大いに驚かせた。 レアル・マドリードは白い巨人と呼ばれる偉大なクラブだ。 常に勝利が求められるこのクラブでは、あらゆるプレーが最高峰であり、それが当たり前。彼はその期待に応える。
ボールを託せば、確実に相手を抜き去る突破力は最高レベルにまで高まっていた。 相手選手と対峙した時放つのは、殺気にも近い圧倒的な勝者としてのオーラ。ドリブル技術もさることながら、彼の持つこの不思議な力が相手選手を委縮させ、突破を容易にしているようにも見える。
このオーラは今までの大きな期待に応えきたことによる「確固たる自信」が源だろう。彼は周囲からの大き過ぎる期待を胸に、練習、試合に臨んできた。その自信が彼を支えてきたのだ。レアル・マドリードが連れてきたのは、本物の化け物。クリスティアーノ・ロナウドという男だった。

2015?17シーズンのプレースタイルの変化、迫りくる老い

スポーツ選手たるもの、彼による老い、プレーの質の衰えからは逃れることはできない。 それはロナウド選手も同じだ。 特に2015?2017の2シーズンでは、その衰えが隠せなくなってきている。 彼の代名詞である華麗かつ大胆なドリブル突破は鳴りを潜め、彼の戦場はサイドから中央へと移りつつあるのだ。
これはスタミナの衰えが原因しているのだと思われる。ドリブル技術の高さは、今でも健在。しかしながら、試合90分を通しての100%の実力発揮は難しくなっているのだろう。次第にドリブルの精度は落ち、プレーも荒っぽくなっている。 そのため、より直接的にゴールに絡もうとしている様子。中央へと位置取りをする機会を増やしたのは、ドリブラーとしての働きよりも、ストライカーとしての活躍を増やすためだろう。
幸いなことに彼は、ドリブルだけが持ち味ではない。機を見てゴール前に抜け出す嗅覚、高い打点から繰り出される豪快なヘディング。一見、軽く振りぬいただけに見える、敵のゴールを突き刺すかのようなミドル。実に多彩な得点方法を持っているのだ。ストライカーとしての活躍も可能だろう。

叩くは後輩の背中、鳴らすは勝利のゴング

涙を流してピッチを去ったEURO2016フランス大会の決勝戦、相手は開催国フランス。負傷交代だったはずが、彼はピッチ際で味方選手を叱咤していた。 痛む脚を引きずりながらも、味方の惜しい場面には頭を抱え、不甲斐ない場面には唖然とする。彼が見せる仕草は常に全力であり、当事者としての意識の表れだった。彼を自己中心的だと罵る人が居る。仲間思いの欠片もないと呆れる人も居る。
しかし、彼は常に勝利を求めてきた選手。自身に求められる期待、そして自身が成し遂げたいことへのこだわりは人一倍強い選手だ。 フランス相手にリードを奪う中、疲れと脚の痛みを訴えたラファエル・ゲレイロ選手がピッチの際へやって来た。その背中をロナウド選手は、まだ行けると言わんばかりに叩いた。その瞬間の眼は厳しくもあり、また優しくもあった。
彼は自己中心的な選手ではない。常に勝利を追い求め、自分に妥協を許さない。しかしながら、共に勝利に向かって歩む仲間も思いやる姿勢にも揺らぎはない。 彼の強い意志は周囲に波のように広がり、チームを奮い立たせる。
試合終了後、彼が流した涙は嬉し涙だった。12年前の雪辱を果たし、ポルトガル代表は栄光の瞬間を迎えたのだ。 クリスティアーノ・ロナウドという男は、これからも勝利を追い求める。勝利の女神が彼に微笑み続ける限り、彼もまたピッチで笑い続けることだろう。