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日本代表入りにも期待、リーガ・エスパニョーラで活躍する乾貴士

2017 8/17 16:20Aki
spain soccer
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Ⓒゲッティイメージズ

スペイン紙『マルカ』でベストイレブンに選出された乾貴士

香川選手がドイツのボルシア・ドルトムントでブレイクしたことをきっかけに、現在では数多くの日本人選手がプレーしているヨーロッパの強豪リーグ。イングランドでは岡崎選手、イタリアでは古くは中田英寿さんから長友選手、本田選手と欧州の強豪リーグでも活躍を見せている。
しかしイングランド、ドイツ、イタリアと共に欧州4大リーグと呼ばれるもう1つのリーグ、スペイン リーガ・エスパニョーラではこれまでシーズンを通じて活躍を見せた選手は残念ながらいなかった。 そんなスペインで2シーズン目を迎えているのがエイバルでプレーする乾貴士選手。
2016-2017シーズンの13節にはスペイン最大の新聞である『マルカ』でレアル・マドリードの選手らと並んでベストイレブンにも選出されるなどブレイクの兆しを見せている。 そんな乾選手についてまとめる。

レアル・マドリードとバルセロナだけではないリーガ・エスパニョーラ

スペイン、リーガ・エスパニョーラといえばレアル・マドリードとバルセロナの2大クラブを思い浮かべる方が多いのではないだろうか。実際にリーグ優勝を達成するのは、ほとんどのシーズンでこの2クラブのどちらか。そして両チームで最も目につくのは世界トップのスタープレーヤー達による華麗な個人技だろう。
その為リーガ・エスパニョーラの特徴として最初に思い浮かべるのは華麗な個人技。そしてリーグ全体の印象としてはこの2クラブ以外はそれほど強くないという印象を持っておられる方もおられるかもしれない。
しかしよく考えてみると、この2クラブは各国の強豪チームがあつまるUEFAチャンピオンズリーグでもずば抜けた強さを誇るチーム。 セビージャの3連覇を含めUEFAヨーロッパリーグでは2008-2009シーズンから2015-2016シーズンまでの7年間でスペインのチームが5回優勝しているように、リーガ・エスパニョーラはこの2クラブだけでなくリーグ全体のレベルが四大リーグの中でも一二を争う高さを誇るリーグなのだ。

巧いだけでは通用しない

スペイン代表のメンバーを見ると、ドイツやイングランドなどに比べるとそれほど体格的に優れた選手がいない事に気がつくだろう。しかしその分スペインの選手はいずれもテクニックに優れている。そしてスペインには同じスペイン語を使うという事で言葉の壁が少ない南米出身の選手が多数プレーしており、彼らも体格的に優れている訳ではなくテクニックに優れた選手たちだ。
つまりスペインではテクニックに優れている事があたりまえ、乾選手も

「スペインには巧い選手がたくさんいる。『誰や?』っていう選手がめちゃくちゃ巧かったりするんです」

出典: サッカーダイジェストWeb

と語る様に、日本人選手の特徴であるテクニックや体格差によるアジリティはドイツと異なりスペインでは決してアドバンテージにはならないのだ。 そして「巧い」選手が揃う中で、相手を上回るべく進化していったのは戦術。
その結果、スペインはヨーロッパの中でも攻守における戦術の完成度がおしなべて高くなったのだろう。UEFAチャンピオンズリーグだけでなくUEFAヨーロッパリーグでの好成績も戦術的クオリティの高さによるものといえる。

「巧い」選手だった乾貴士

野洲高校で旋風を巻き起こし、セレッソ大阪時代には香川選手とのコンビは「(『キャプテン翼』の)翼くんと岬くん」とも評された乾貴士選手は、日本を代表する「巧い」選手だ。
そしてその「巧さ」はドイツでも発揮。最初は2部からのスタートだったが、1シーズンに1部に移籍し、本人も念願だったスペイン リーガ・エスパニョーラのエイバルに移籍する。 乾選手が加入したエイバルはリーガ・エスパニョーラで最も小さい規模のチーム。奇跡の1部昇格を果たし、最初のシーズンは降格圏に終わりながらも他クラブの経営問題で何とか1部残留を決める。クラブ史上最大の移籍金で乾貴士選手が加入したのはそんなタイミングだった。
そして加入からしばらくするとその「巧さ」を発揮。チームの調子の良さにも乗ってポジションを確保する。 しかし後半戦に入りチームの調子も下降し始めると徐々に出番が少なくなっていく事に。 乾選手が入っていたポジションには、守備的ミッドフィールダーが本職の選手が入る事が多くなっていた。

「巧い」の先に進んだ今シーズン

昨シーズンはクラブ史上最高となる14位で1部残留を達成した事で、今シーズン開幕前に積極的な補強を敢行。乾選手と同じポジションにも実績ある選手を獲得する。 それにより開幕戦では先発メンバーに名を連ねたもののその後はベンチやベンチ外となることが増えていく。
しかし9節に久々の先発を果たすと、その後は連続して出場を続けることに。ポジションを奪い返す。 その要因となったのは、メンディリバル監督も昨年までは不安要素として考えていた乾選手の守備面を、今シーズンは度々称えているように、これまでも見せてきた「巧さ」だけではなく、攻守に戦術的なプレーができるようになったから。乾選手は「巧い」の先に進む事に成功したのだ。
乾選手がこの「巧い」の先に進む事ができたのは、日頃の練習の賜物。 乾選手は、オフシーズンでも帰国したその日からスペインに戻る前日まで、ほぼ毎日古巣セレッソ大阪の練習場に通い、そしてチームに混ざって練習するほどの練習の虫。 メンディリバル監督の質の高いトレーニングと、彼のサッカーに対する熱意が合わさる事が今の成長に繋がったのだろう。

日本代表に求められる資質

「巧い」の先に進んだプレーを見せている今シーズン乾選手。
この「巧い」の先の資質は、歴代の日本代表で最も戦術的な戦いを行っているハリルホジッチ監督率いる日本代表にうってつけのもの。
実際、ハリルホジッチ監督になり主力選手となった原口元気選手は、浦和レッズでプレーしていたときから「巧い」選手ではあったが、ヘルタ・ベルリンに移籍後ブンデスリーガの中でも戦術的な戦いを行うとして注目を集めているダルダイ監督の下で戦術的なトレーニングを積み「巧い」の先のプレーができるようになった選手だ。
攻撃的なサイドアタッカーは日本代表でも決して層は薄くなく競争の激しいポジションだが、乾選手がこのままエイバルで「巧い」の先のプレーでポジションを不動のものにすることができれば自ずとチャンスが訪れるのではないだろうか。