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大分トリニータが3勝1敗で3位 新スタイルのパスサッカーで快進撃

2019 3/29 11:00中山亮
サッカーボールⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

普通ではないパスサッカー

2019年のJ1序盤戦、ここまでの4試合でサプライズを起こしているのは昇格組ながら3勝1敗の勝ち点9で3位と大躍進を見せている大分トリニータだろう。

ボール支配率56.0%、横浜FMと並ぶリーグ5位となる1試合平均570本以上のパスを記録していることからもわかるように、大分トリニータのサッカーはパスサッカーだ。しかしこのパスサッカーは他のチームと全く異なる特徴を持っている。

パスサッカーといえば、ミドルサードでパスをつなぎボールを支配することで相手を押し込み、アタッキングサードでもパスを繋ぎながら相手のディフェンスを崩すというスタイルが一般的だ。むしろそれこそがパスサッカーであると言っても過言ではない。

だから、パスサッカーのパスが集中する場所はアタッキングサードやミドルサード。主役は中盤の選手である。

ところが、大分のパスサッカーはその常識を覆す。

エリア別で分けると、アタッキングサードのパスは84.5本/試合でリーグ15番目の少なさ。第4節までの最多は攻撃的なパスサッカーでJ1を連覇した川崎Fの207.3本/試合だが、そのわずか40%に過ぎない。

逆にディフェンシブサードのパス数は218.5本/試合でリーグトップ。これは2番目に多い神戸の163.0本/試合を50本も上回る。

大分は自陣で多くのパスをつなぐ、従来にないパスサッカーを行っているのだ。

前代未聞のGKのパス数

大分の常識を覆すパスサッカーはあるポジションの選手のパス数でも確認できる。

近年は足下でのプレーも求められるようになったとはいえ、やはりチームで最もパス数が少ないポジション。それはGK。ここまでの4試合で全GKのリーグ平均パス数は22.0本となっている。

そんな中、大分のGK高木が記録しているパス数はなんと53.5本/試合。驚くことにこれは今季のリーグ戦で1人の選手が90分プレーした時の平均パス数45.0本/試合をも上回る数字で、GKで2番目にパス数が多い飯倉(横浜FM)の33.8本/試合と比較してもその多さが際立っている。

なぜこれほどの差が出るのか。

大分の戦術とは

GK高木がこれだけのパス数を記録している理由は実際の試合を見るとすぐにわかる。大分はGKがペナルティエリアの外でフィールドプレーヤーかの様にパス回しに参加しているのだ。
大分のディフェンシブサードでパスをつなぐサッカーは緻密な計算で成り立っている。

大分の布陣は3-4-2-1もしくは3-1-4-2。基本となっているのは3バックだ。パスサッカーを行う上で3バックのメリットとなるのは守備側の2トップに対して数的有利を作ることができること。これでディフェンシブサードでのボール保持を安定させている。

なので4バックのチームも2トップの相手に対してボールを保持する時はMFの1人を最終ラインに下げ3バック化することが多い。

近年では3バックでのボール保持に対し守備側がMFを1人前に出すことで同数でプレッシングをかける形を取るチームも増加しているが、そうなると攻撃側もMFを1人下げる形で対応することになる。

しかし、後ろに人数をかけるということは逆に言えば前線の人数が減るということ。その結果、単にミドルサードやアタッキングサードにボールを送ったとしても、そこでは常に数的不利の状況が生まれているのだ。

これを打開するためにミドルサードやアタッキングサードでも短くパスをつなぎ、ボールを保持し続けることで相手を動かし、局面ごとに優位な状況を作るというのがパスサッカーの一般的な考え方である。

しかし、前代未聞のパス数からもわかるように大分が守備側のFWよりも多い人数を確保するために使うのはGK。大分はGKをフィールドプレーヤーの様にプレーさせることで、ピッチ上をフィールドプレーヤー10人対フィールドプレーヤー10人+GK1人という状況にしてしまうのだ。

もちろん、このやり方ではディフェンシブサードでのパス回しに失敗すると即失点につながるリスクがある。しかし、そこでディフェンシブサードでのパス回しを妨害しようと奪いに行くことこそが大分の思う壺。守備側が高い位置でボールを取りに行けば行くほど守備側のゴール近くでフリーの選手が生まれてしまうことになるのである。

この仕組みから生じているのがここまでで紹介した、あまりにも多いディフェンシブサードでのパス数とあまりにも少ないアタッキングサードでのパス数だ。

ディフェンシブサードでGKも加えてパスを繋ぐことで相手をおびき寄せ、誘いに乗って出てきたところをフリーの選手が少ないパス数でボールを運びフィニッシュに持っていく。

だからこそ大分のゴールシーンはディフェンシブサードでのボール保持から始まっているにもかかわらず、カウンターの様な形になっているものがほとんどなのである。

そしてその中で抜群のプレーを見せているのが、今季がキャリア初のJ1ながら5得点で現在リーグ得点王の藤本。背後を取る一瞬の動き出しで勝負できる選手なので前線にスペースがある状況は得意中の得意。まさに大分のサッカーにフィットしている選手だといえる。

ここまで鹿島、磐田、横浜FMといった名門クラブを撃破してきた大分。既に他のJ1クラブにも油断できない存在となっている。

(※数字は非公式)