「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

名古屋に現れた縦パスマスター ジョアン・シミッチ

2019 2/28 11:00中山亮
サッカーボール,ⒸSPAIA
このエントリーをはてなブックマークに追加

ⒸSPAIA

風間戦術のキーポイントは「縦パス」

誤解を恐れずに言うとパスで最も重要なのは縦パス。理由は単純、相手ゴールへ向かっていくパスだからだ。

そして最も難易度の高いのも縦パス。相手が守っているところに向かってパスを出すからだ。

J1開幕節の9試合に出場した選手246人中、最も縦パスを出したの49本を記録した名古屋グランパスの8番ジョアン・シミッチだった。 「止める・蹴る」「目を合わせる」など独特な言葉で表現する風間監督のサッカーのキーポイントは縦パスだ。

昨季、最下位に低迷していた名古屋が8月に入り快進撃を見せるきっかけとなったのが、中断期間に川崎Fから加入したエドゥアルド・ネットからの縦パス。エドゥアルド・ネットとジョーやガブリエル・シャビエルらの前線の選手が「目を合わせ」同じスペースを認識し、そこに正確な「止める・蹴る」で縦パスを送ることで攻撃が加速し爆発的な得点力に繋がったのだ。

しかし今季開幕前にそのエドゥアルド・ネットが怪我で長期離脱。名古屋にとって難しい状況で開幕を迎える事になるかと思われたが、2月に入って獲得したジョアン・シミッチが開幕戦から大活躍。エドゥアルド・ネットの穴を埋める以上の存在感で、アウェイでの鳥栖との試合で0-4の快勝へと導いた。

縦パスマスター、ジョアン・シミッチ

開幕戦を見ていて、ジョアン・シミッチのプレーで最初に目につくのはボールを受ける上手さだろう。

前線まで上がってくるようなことはほとんど無く、長い距離をスプリントするプレーはほとんど見られないが、常に小さく動くことでポジショニングを調整。スプリント数は7回と少ないほうだが、走行距離ではチーム2位の11.510kmを記録している。

そして縦パスのタイミングが変幻自在。タメを作ってから送る場合もあれば息もつかせぬ速さのワンタッチ、ツータッチで一気に縦パスを入れる場合もある。

早いタイミングで縦パスを入れることができるということは、スペースを見つけるのが早いということもあるのだが、特筆すべきはその準備。常に顔を上げた状態でプレーしており、味方からボールを受ける際のトラップの時に身体の向きを変えながら視野を確保している。トラップと次のパスを出す準備が同じ動作の中で行われているのだ。

縦パス一辺倒となると、どうしても相手に読まれやすくなるので、横パスやサイドに大きく展開するパスを織り交ぜるのだが、ここぞというタイミングでは一気に縦パスを入れてくる。

鳥栖が5バックの布陣を取り、金崎が中盤にまで戻される機会が多かった影響もあるだろうが、ジョアン・シミッチを捕まえられず、また思わぬタイミングで出てくる縦パスにかなり手を焼いていた。

この試合でジョアン・シミッチが出した縦パスの中でも圧巻だったのが名古屋の3点目となった相馬へ通した縦パス。

中盤の浮いた位置でボールを受けると左斜め前にいるジョーの方向に身体を向けながらタメを作り、相馬が縦に抜け出したタイミングで身体の向きと全く異なる方向へとパス。元レアル・マドリードのグティが得意としていたパスで鳥栖守備陣を完全に欺いた。

元々はブラジルの名門サン・パウロの下部組織出身で、ブラジルU-20代表でもプレー。サン・パウロ時代は元ブラジル代表エルナレスの後継者として期待され、2017年にはイタリアセリエAで躍進をみせるアタランタへと移籍したジョアン・シミッチ。年齢も25歳。まだまだこれから成長していくだろう若さである。

アタランタでは残念ながらガスペリーニ監督の戦術に馴染めずポルトガルへと移籍することとなったが、開幕戦で見せたように風間監督率いる名古屋では彼のプレーがチームを引き上げ、またチーム戦術が彼のプレーを引き上げることになる可能性が高そうだ。