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J1復帰の大分の特異なパスサッカー 疑似カウンターでアジア王者撃破

2019 3/1 15:00中山亮
サッカーボール,ⒸSPAIA
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低い位置でパスをつなぐ大分

2019年明治安田生命J1リーグ、開幕節で最も大きなインパクトを与えたのは昨季のアジア王者鹿島アントラーズを敵地で下した昇格組大分トリニータだろう。

片野坂監督がこれまでの3年間で作り上げてきたのは、パスを中心としたアタッキングフットボールである。昨季のJ2でリーグ2位のパス数、リーグトップの得点数を記録した。

この開幕戦でも、リードする時間が長かった為パス数こそ鹿島の575本に対し大分は509本と少し下回ることとなったが、パス成功率は80%。そしてボール支配率では鹿島を上回る51%を記録。守備を固め一発のカウンターではなく、アジア王者鹿島に対し大分のスタイルを貫き勝利した。

大分のパスサッカーは一般的なパスサッカーとは異なる特徴を持っている。

当たり前だがパスサッカーのチームはパスをつなぐことで攻撃を組み立てボールを前進させる。その結果最もパス数が増えるのはピッチを三分割したときの中央にあたるミドルサード。中盤でボールを繋ぎながら相手のディフェンスラインの乱れを突いて、相手を押し込みゴールに近づいていく。

パスサッカーの典型例は川崎Fで、最もパス数が多いのはミドルサード、次いで多いのがアタッキングサード。そして最もパス数が少ないのは自陣ゴールに近いディフェンシブサードとなっている。

しかしこの鹿島戦で大分のパス本数が最も多かったのは、自陣ゴールに近いディフェンシブサード。次いでミドルサード。最も少ないのがアタッキングサード。前に行けば行くほどパス数は少なくなる。

プレー比率でいえばディフェンシブサードで半分を超える54.2%ものプレーが行われ、ミドルサードでは34.8%、アタッキングサードでは11.0%だった。

通常こういった、前に行けば行くほどプレー数・パス数が少なくなるのはボールを奪ってから縦に速く攻めるカウンター型のチームが持つ傾向だ。

たとえ成功率が低かったとしても、そのうち1回でも成功すれば得点のチャンスが訪れると考え、どんどん前にパスを送る。なのでそういったチームはパス成功率は下がり、相手に奪われる回数が増えるのでパス数も少なくなる。

しかし大分の場合パス成功率は80.0%、パス数は509本と、むしろパス成功率は高く、パス数も多い。ここに大分の秘密がある。

大分の擬似カウンター

大分は自陣ディフェンシブサードでのパス回しにGKも参加する。

実際にこの試合で鹿島のGKクォン・スンテが13本のパスを記録しているのに対して、大分のGK高木はなんと60本。これは開幕節でGKが記録したパス数としてはダントツ1位。2位の飯倉(横浜FM)が31本だったことを考えるとどれだけ多いかがわかるだろう。ちなみにチームでも3番目に多い。

GKがパス回しに加わわれば、DFラインで常に数的優位を作ることができる。

ただし、GKがパス回しに参加するということはもしそこで奪われてしまうと一気に窮地に陥るリスクがある。しかし、ここで安易にボールを奪いに行くことこそ実は大分が張り巡らせている罠。ボールを奪いに行くということは後ろにスペースを作るという事でもあるからだ。

実際にこの試合でも、3-4-2-1の大分に対し4-4-2の鹿島は安部と遠藤の両SHが大分の3バックの両サイドに対してアプローチをかけに行こうとするが、そうなると大分のWBが空いてしまう。するとこのWBに対して鹿島はSBが前に出て対応。しかしそうなると今度は大分のシャドゥポジションの選手がSBの裏へ。このシャドゥポジションの選手に大して鹿島CBが流れて対応すると広がったCBの間を大分の1トップ藤本が飛び出していくという形を何度も見せた。

つまり大分は、自陣でパスをつなぐことで相手を引き出し、ボールを奪いに来たところでできたスペースを逆に攻めるという擬似カウンターの状況を作っている。

昨季後半戦の名古屋も使った疑似カウンター

この擬似カウンター。実は昨季のJ1でシーズン後半戦に突然勝ち始めた名古屋が行っていた形に近い。

しかし名古屋はこの擬似カウンターをエドゥアルド・ネットと丸山という個人の縦パスに頼っていたのに対して、大分はもっと組織的。相手の陣形や戦い方に合わせて選手の配置や動き方を落とし込み、グループとしてこの擬似カウンターの状態を作っている。

鹿島は4-4-2の布陣から人への意識が高い守備を行う。なのでそれを逆に取るために3バックの両サイドがSHを引き出し、その裏へWB、さらにシャドゥとそれぞれの選手の動きがきっちりと落とし込まれていた。

そして大分はさらに後半途中には選手交代で3-1-4-2へと布陣を変更。前に出てくる鹿島に対して配置を変えることでギャップを作り、とどめとなる2点目を決めて見せた。

鹿島には怪我人やACLという厳しい条件はあったにせよ、2016年にはJ3にまで降格した大分がそこから積み上げたスタイルを貫き敵地で狙い通りの快勝。今後は各チームによる対策も進んでくるだろうが、大分は昇格組でありながら今季のJ1で注目すべきチームの1つだ。