C大阪ロティーナ監督がとったジョアン・シミッチ対策
名古屋グランパスのホーム開幕戦となった、明治安田生命J1リーグ第2節。名古屋対C大阪の一戦は非常に興味深いものが見られた試合だった。この試合に勝ったのは名古屋グランパス。風間監督率いる名古屋は開幕節の4-0に引き続き、第2節も2-0で勝利。まだ開幕したばかりとはいえ首位をキープしている。
しかしそんな試合で興味深かったのはC大阪ロティーナがとったジョアン・シミッチ対策である。これがシンプルでありながら効果的であり、スペインのトップレベルで長年キャリアを積んできたことを実感させる妙策だった。
名古屋の心臓はジョアン・シミッチ
昨季得点王のジョーを筆頭に豪華なタレントを擁する名古屋。しかし、開幕節鳥栖戦で大きなインパクトを与えたのは2得点を記録したジョーでも、前線の魔術師ガブリエル・シャビエルでもなく、ジョアン・シミッチだった。
元U-21ブラジル代表の経歴はあるが、イタリアでは成功しなかったこともあり、開幕2週間前の2月6日に名古屋加入が発表された時はそれほど話題にもならなかった。
しかし開幕戦で見せた、ピッチの中央で試合をコントロールしながら効果的に縦パスを送るプレーはワールドクラスの司令塔。前線には豪華なタレントがいるが、たった1試合で今季の名古屋の心臓はジョアン・シミッチであるということを印象づけた。
ジョアン・シミッチをどうするのか
第2節となったC大阪戦。注目はC大阪がどの様な形でジョアン・シミッチ対策を行うかということだった。C大阪は開幕の神戸戦で勝利したものの、今季からロティーナが就任したばかりで発展途上である。圧倒的な攻撃力を持つ名古屋とノーガードの打ち合いを演じるのは分が悪い。
そこでC大阪がとった作戦は神戸戦に引き続き3バックを採用し、守備の時には5バックとなることだった。しかしこれだと当然ながら前方の人数は減る。
開幕戦で名古屋と対戦した鳥栖も同じく守備の時は5バックとなる形で守ったのだが、前線から少し下がった位置でゲームを組み立てるジョアン・シミッチを人数の減った前衛では捕まえられなかったのだ。
同じ結果に終わるかに思われたが、ロティーナが見せた作戦は一味違った。
ロティーナのジョアン・シミッチ対策
ロティーナは、守備の時に柿谷に通常とは異なる役割を与えていた。この日、柿谷が入っていたのは右シャドゥのポジション。5-4-1で守る時は中盤4人の右。通常なら中盤右サイドのスペースを埋めるのが右シャドウの役割だ。
しかし、この試合の柿谷は守備の時に右サイドではなく、中央寄りの少し前に出たポジションを取り、そこから名古屋の守備的MFの左に入るジョアン・シミッチにボールが入ると必ず右側(ジョアン・シミッチにとっては左側)からアプローチをかけていた。
柿谷は本来FWの選手で、守備は得意ではない。守備力ならそのすぐ隣にいる奥埜の方がずっと上である。ここでボールを奪おうとするならジョアン・シミッチの正面にいる奥埜がアプローチをかけた方がいい。しかしロティーナは柿谷にこの役割を与えた。
キーワードは「右から」
そもそもロティーナはジョアン・シミッチの所でボールを奪おうとは考えていなかったのだろう。実際にこの試合でもジョアン・シミッチはチームで2番目に多い104本のパスを記録している。
しかし方向別で見ると最多は右側パスで36本。前方にパスを出させないことこそがロティーナのとった対策である。
ジョアン・シミッチは左利きである。縦パスを出す時は自身の左側にボールを置く。しかし、ボールを受けると柿谷が自身の左側からアプローチをかけてくる。そうなると縦パスを入れることができなくなるのだ。これを嫌がったジョアン・シミッチは前半途中で米本と左右のポジションを入れ替え守備的MFの右に位置するようになるが、ロティーナはこれを織り込みずみであった。
単純に考えれば、守備的MF右の選手にアプローチをかけるのは柿谷と左右反対のポジションにいる清武だろう。しかし、ここに清武が行くとなると立ち位置上、清武は左側(ジョアン・シミッチにとって右側)からアプローチをかけることになる。これではジョアン・シミッチの左足を消すことができない。
そのためポジションを入れ替えたジョアン・シミッチにアプローチをかけたのはCFの都倉。都倉は中央にいるため右側(ジョアン・シミッチにとっては左側)からアプローチをかけることができるからである。
名古屋の攻撃を右サイドへ誘導
常にC大阪は右側(ジョアン・シミッチにとっては左側)からアプローチをかけることでジョアン・シミッチはアプローチがかかっていない自身の右側(C大阪にとっては左側)へのパスが増えた。
その結果、名古屋の攻撃は右サイドからが圧倒的に増えることになる。
そしてこれもロティーナの計算通りだった。名古屋のSBは右の宮原が攻撃に参加するよりも左の吉田が参加するほうが脅威になる。そして右から攻められたとしてもジョーを対人に強い山下とヨニッチの間に置くことができる。
つまりロティーナは、ジョアン・シミッチに右からアプローチをかけることで縦パスを制限し名古屋の攻撃を右サイドに誘導していたのだ。
この試合は最終的に名古屋が勝利したが、名古屋は前半から圧倒的にボールを支配するもビッグチャンスは作り切れていなかった。そして0-0で進んだ69分にはC大阪が決定的なチャンスを作る。これを都倉が決めていれば、開幕戦同様C大阪にとって、してやったりの展開となったことだろう。
しかし勝利したのは途中出場の赤﨑が2ゴールを挙げた名古屋だった。最終的に勝敗を決めたのは、風間体制3年目とロティーナ体制2試合目という差から来るチームの完成度だった。
とはいえ、それを踏まえた上で接戦にまで持ち込んだロティーナのとった策は見事だった。