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2018年の川崎Fは90分間攻守に隙なし J1全クラブの時間帯別得失点

2019 2/22 07:00SPAIA編集部
J1,2018年,時間帯別得点表
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ⒸSPAIA

リーグ総得点の58.8%が試合後半

2018年のJ1の総得点数は813点。うち58.8%にあたる478点が後半に入ってからの得点だった。2年前に行った2010年から2017年途中にかけての調査が60.3%だったことを考えると、後半に得点が入りやすい傾向に変わりはないが、2018シーズンは若干だが得点の入る時間が早くなっている。

Jリーグの試合で得点が決まる時間帯をデータで分析



それでは、チームごとの時間帯別得失点はどうなっているのだろうか。 以下の図は90分を15分区切りで6分割し、チームごとの得失点量を明るさで表したものだ。一つの時間帯あたりの平均得点はリーグ平均を6で割って約7.5点となった。

J1,2018年,時間帯別得点表

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J1,2018年,時間帯別失点表

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図からはリーグ平均同様、ほとんどのチームで後半の得点が多いことが分かる。その中で最も多かったのは33得点をあげた川崎フロンターレ、コンサドーレ札幌、名古屋グランパスの3チーム。どれも攻撃的なサッカーで主導権を握っていくチームだ。

この3チームに関して失点を見比べていくと、それぞれ異なる特徴が表れていた。

得点時間のピークが異なる川崎F

昨季最多得点の王者川崎Fの得点傾向は、31分~60分の間が最も活発で、61分以降も高い得点力を示している。

J1,2018年,時間帯別得失点表

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得点と失点は表裏一体、そのためリーグ全体では当然後半になるほど失点が多くなるが、川崎Fは終盤の失点が若干増えているものの前半からの変動は少ない。少しずつ相手の陣地に侵入し、高い位置でボール奪取を繰り返すことで、相手を陣地に閉じ込めたまま一方的に攻め続けるプレースタイルが図に表れている。

川崎Fは21勝6分7敗のうち、17試合で先制して勝利。完封15試合でシーズンを終え、最多得点に加え、歴代最少失点を記録した。

今季は昨季の主力のほとんどが残留している上に、ロンドン五輪得点王のレアンドロ・ダミアンや左右のサイドバックだけでなく複数ポジションをこなせる馬渡和彰が加入し、十分すぎるほどの補強を行った。

リーグ開幕直前のゼロックススーパーカップではさらに速く正確になったボール奪取、攻守の切り替えを披露。ほとんどの時間でボールを支配し浦和に勝利した。ダミアンも決勝点となる来日初ゴール。守備でも積極的にプレスをかけ攻守に存在感を示した。

ほとんどの時間帯でリーグ平均失点を上回る名古屋

川崎Fの最多33得点に並ぶチームが二つある。それは、前年11位から4位に躍進したコンサドーレ札幌と、降格の危機にあった名古屋グランパス。川崎同様どちらも攻撃に重きを置いたチームだが、得失点の分布はそれぞれ異なる結果となった。

札幌、名古屋ともに後半に向かうほど得点が増え、76分以降にピークを迎えている。札幌は15勝中5試合、名古屋は12勝中4試合と、勝ち試合の1/3が逆転によるもので、その全てで後半に決勝点を挙げている。対戦相手にとっては後半になればなるほど得点力が上がる危険な相手だっただろう。

特に名古屋は前半15戦勝ち星無しという長い低迷期間がありながら、総得点だけなら52点の4位だった。今季は得点王ジョーと、昨季途中加入し18試合7得点4アシストで残留に貢献した前田直輝、強力助っ人のシャビエルが開幕からそろっている。そこにスピードが武器のマテウスが加わり、ますます攻撃に磨きがかかるはずだ。

J1,2018年,時間帯別得失点表

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一方で、名古屋は失点に悩まされた。

名古屋はリーグワーストの59失点。0分~15分を除いてリーグ平均以上の失点を許している。昨夏の丸山祐市、中谷進之介、金井貢史らの加入で守備を立て直し、攻守の連動を高めたことで得点増・失点減を果たした。ただ、シーズン後半の総失点は前半より7点少ないものの、リーグ平均を上回る26失点。分布図を見比べると「守備練習をしない」という流言さながら、ガードを捨てて殴り合っているようだ。

今オフにサンフレッチェ広島から元日本代表DF千葉和彦を獲得。中央の強度を上げるだけでなく、昨季チームトップのパス成功率を誇る正確なパスでの貢献も期待される。ビルドアップだけでなく、前線の動きに合わせてダイレクトにボールを供給することも可能で攻守に底上げを図れるプレーヤーだ。サガン鳥栖から豊富な運動量と1対1での粘り強い守備が魅力の吉田豊も獲得し、中央に続き左サイドバックにもテコ入れ。失点を減らしつつ攻撃力にも期待が持てる補強を行った。

名古屋の今季の構成は昨季以上の得点も望める。攻撃の起点となっていたエドゥアルド・ネットの不在は痛いが、新戦力で攻守ともに補強された。15分以降の失点を少しでも減らせれば、乱打戦に持ち込んで制することも可能なはずだ。

全チーム中、唯一前半に失点が偏る札幌

特異な失点分布を見せているのが札幌だ。全18チームの中で唯一、前半の失点が5割を超え16分~60分にかけて多くの失点を重ねている。

J1,2018年,時間帯別得失点表

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得点分布図と比較してみると、失点の多い時間帯が得点分布図でも薄暗くなっている。札幌にとって攻守ともに低調な魔の時間帯だ。

昨季ミハイロ・ペトロヴィッチ監督が就任時に「超攻撃的なサッカーを目指す」と発言した通り、札幌の戦い方は超攻撃的になった。ボールを奪取すれば最終ラインも敵陣に攻め上がる攻撃偏重のスタイルは破壊力があるが、一方でボールを奪われると途端にカウンターの危機を迎える。昨季は高い位置でボールを奪いに来る川崎Fに連敗、第26節は7失点で苦杯を舐めた。

また、前半の26失点のうち、シーズン前半の失点は9点。これが後半に入ると17点と倍増しており、各チームの研究が進み札幌対策が出来上がっていたことがうかがえる。

それでも4位に躍進できたのは、先制された試合での驚異の粘り強さによるところが大きい。札幌が先制された試合の成績は16戦5勝4分7敗。勝ち点は19、勝率も33.3%でリーグ1位となっている。

攻撃的なプレーに目が行きがちだが、札幌の強みは攻撃を支えている豊富な運動量だ。試合を通して複数人でボールを奪取し、全員攻撃を行うというハードワークを可能にするスタミナが、後半にかけて多くなる得点傾向を生み出している。

今回の補強では得点源だった都倉賢が移籍、同じく主力の三好康司もレンタル期間終了で退団したため、戦術の前提である攻撃力の確保を優先した。結果、鈴木武蔵、岩崎悠人ら実力者の獲得に成功。攻撃陣は昨季にも引けを取らない顔ぶれとなった。

後半になるほど相対的に得点力が上がる傾向があることから、試合前半の失点をリーグ平均まで落とすことができればさらに上の順位も不可能ではない。それだけに守備の補強がなかったことが不安材料。シーズン後半になるほどに増えた失点も気がかりだ。

川崎Fは万全 札幌、名古屋には不安材料も

リーグ全体としては2年前の調査と概ね同じ傾向が出ていた。多くのチームでリーグ平均と同じ傾向が見られるが、3チーム以外にも特徴的な傾向が出ているチームがあり、昨季の戦術やプレースタイルの違いが反映されている。特に際立ったのはやはり王者川崎F。全時間帯で隙の無いプレーを続けられる技術力の高さと選手層の厚みは頭一つ抜けている。

間もなく開幕する2019年のJリーグでは、ますます洗練された川崎Fの戦術に17チームはどのように対抗するのか。

また、ミゲル・アンヘル・ロティーナ氏が新監督に就任したセレッソ大阪や、プレースタイルを長年の守備重視から攻撃重視に180度転換したサガン鳥栖の分布は大きく変化することが予想される。戦術を変更したチームのプレーがどのように時間帯得失点に表れるのか楽しみだ。



(データ協力:データスタジアム)