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サッカーの守備戦術、ゾーンディフェンスを改めて解説

2019 2/23 11:00中山亮
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ⒸSPAIA

勘違いしてしまいやすいゾーンディフェンス

サッカーの守備戦術には大きくわけて2つ、「マンツーマン」と「ゾーン」という考え方がある。マンツーマンディフェンスとはその名の通り人(相手選手)を意識した守り方を意味し、敵の各選手をマンツーマンでマークすることで、相手の攻撃を阻止しようとする。一方、ゾーンディフェンスはゾーン、つまりスペースを意識した守り方をいう。

人(相手選手)基準のマンツーマンに対して、スペースを意識するゾーン。このゾーンディフェンスを理解する際に、最も勘違いしてしまいやすい例を挙げてみる。

例えば4-4-2で守る場合、4分割したピッチの各エリアを各ポジションの選手がそれぞれ受け持つ形だと考えてしまいがち。しかし、幅が68mもあるピッチを4分割し、各エリアの中央に選手を配置すること、隣のポジションの選手との間には17mもの間隔ができてしまう。これでは攻撃側が自由自在に動けるため、ゾーンディフェンスとはいえない。

ゾーンディフェンスとはそうではなく、ピッチの中で危険度の高いスペースから順に守備することをいう。ピッチ内を均等に分割し、各選手に守備をさせるのではない。

ボールの位置が基準

「状況に合わせて危険度の高いスペースから順に守備をする」ということをもう少し具体的に説明する。
まず「状況にあわせて」とは、ピッチのどこにボールがあるかということだ。ゾーンディフェンスで基準となるのは常にボールの位置(ボールを持っている相手選手の位置)となる。

次に「危険度の高いスペース」とは、ボールとゴールを結んだ一直線のラインのこと。何もしなければ、一瞬で相手チームがゴールに迫ってしまう。そのため、このボールとゴールを結ぶラインから順に、守備をしていくのだ。 当然、ボールが動くと守るべき場所の優先順位も変わってくる。

ゾーンディフェンス

ゾーンディフェンスの動き方

縦はもちろん横も守備範囲をコンパクトにしなければならないゾーンディフェンス。「危険度の高いスペースから順に」守備をする形なので、危険度の低いスペース(ボールとゴールの一直線上からは遠いスペース)は捨ててしまう。また、ボールホルダーへのアプローチも重要になってくる。ボールとゴールの一直線上を塞ぎつつ激しくボールホルダーへアプローチしなければならない。

そして、最も注意しなければならないことは「不用意に飛び込んでかわされないこと」だ。ここで入れ替わられると、最も危険なスペースを開けてしまうことになる。アプローチでボールを奪うことができれば最高だが、入れ替わらってしまう可能性が高いなら、むやみに飛び込まず後ろを向かせる方が優先。ボールを奪うならばFWがそこにプレスバック(前線に近い選手が自陣側に下がること)をし、はさみこんで奪えば良いのだ。

ボールホルダーからゾーン内(危険度の高いスペース)へとパスが出てきた場合、最も近い位置にいる選手が激しくアプローチをかける。コンパクトな状態を作ることができていれば、例えパスが出てきたとしても素早くアプローチをかけることができ、さらにインターセプトできる可能性も高くなっている。

ゾーンディフェンス

ボールホルダーからゾーンの外側へとパスが出た場合は、そこを基準に再び同じ形、ボールホルダーへとアプローチをかけ、その他の選手は斜め後ろにポジションを取る。ここでゾーン内にパスが出た場合の対応は先程と同じ。と、このような形を何度も繰り返すのだ。

ゾーンディフェンス

ここで注意しなければいけないことは、ゾーンの外側に相手選手がいたとしてもきっちり捨てきること。相手選手に引っ張られてしまうと、優先度の高いゴールに近いスペースを開けてしまうことになる。 ゾーンディフェンスが人ではなく、スペースを意識するというのはこういうことである。

マンツーマンディフェンスは1対1のデュエルが明確なため、アグレッシブな守備を行いやすい。一方で、味方の動きが相手の動きに依存してしまうことからスペース管理が難しい。よって、ボールを奪ったとしても陣形が崩れており、攻撃に移行しづらいという問題点がある。何より、最初の1対1のデュエルに敗れると一気にピンチなってしまい、対応するには他の味方がマークを捨てて対応するしかなくなる。そうなると芋づる式にマンツーマンディフェンスが崩壊する。

ゾーンディフェンス

しかしゾーンディフェンスの場合、相手の動きに依存しないので陣形をコントロールしやすく、比較的攻撃に移行することが容易だ。そしてボールホルダーにアプローチをかけた選手の斜め後ろには常に味方がいるので、例えここでデュエルに敗れたとしてもカバーができる。しかし、コンパクトさが保てなくなると人への意識が薄くなり、相手が常にフリーに近い状態になるという問題点もある。

近年ではどちらか一方というより、両者のメリットを合わせようとマンツーマンディフェンスと、ゾーンディフェンスをミックスしたものも増えてきている。Jリーグでは、マンツーマン的要素が高いチームの方が多いようだ。各チームがどの様な形でマンツーマンとゾーンを組み合わせているのかに注目してみるのも、新たな試合を楽しむためのポイントとなるだろう。