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広島対川崎の首位攻防戦で勝負の分かれ目となったポイントは?

2018 8/25 11:00SPAIA編集部
広島―川崎フォーメーション
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終盤戦を占う一戦

8月19日に行われた明治安田生命J1リーグ第23節、首位サンフレッチェ広島と2位川崎フロンターレの一戦は、広島が先制したものの、川崎の小林悠が2得点で逆転勝ち。緊迫感に包まれた、これぞ首位攻防戦と言える濃密な試合となった。

広島―川崎フォーメーション

ⒸSPAIA

首位サンフレッチェ広島の布陣は4-4-2で、GK:林。DF:和田、野上、千葉、佐々木。MF:柴崎、青山、稲垣、柏。FW:パトリック、渡。 川崎フロンターレの布陣は、4-2-3-1で、GK:チョン・ソンリョン。DF:エウシーニョ、谷口、車屋、登里。MF:守田、大島、阿部、中村、家長。FW:小林。 両者の勝ち点差は「9」、広島は大きな余裕があるが、ここで2位川崎を叩き勝ち点差12に広げると残り11試合の戦いがかなり楽になる。一方、残り12試合の川崎にとっては、ここで勝利し勝ち点差6にすることで、首位が見えてくる。タイトルへ向け今後を占う試合だった。

得意の形で広島が先制

立ち上がりから攻勢をかけたのはホームの広島。川崎に対して前線から積極的にプレッシングをしかけた。広島のプレッシングで特徴的だったのは、川崎のビルドアップに対して同数でアプローチをかけること。

川崎はビルドアップの際にCBの間に守備的MFの1人が下がり3バックを形成し広島の2トップに対して数的有利を作る。

川崎のこの変化に対して広島は2トップに加えMFから1人を前に出して対応。最終ラインからボールをつなごうとする川崎に対して息をつく間も与えない激しいプレッシングで前線を押し下げ、時間を奪い川崎に試合のペースを握らせなかった。

嵐の様な広島のプレッシングで得意のポゼッションサッカーのスタート地点を潰されていた川崎。流れを変えようと10分すぎから中村が動き出す。

それまでビルドアップの際にDFラインに下がっていたのは守備的MFである守田と大島のどちらかだったが、彼らを越え中村がトップ下からDFラインへと下がっていく様になった。

ここまで川崎の守備的MFが下がる動きに対して、広島はMFから1人を前に出して対応していたが、中村に付いていくとセンターに残る大島と守田のどちらかがフリーになる。

広島はプレッシングを15分ほどで終了させ、以降は4-4-2のゾーンディフェンスで対応するようになる。

この一連の流れで川崎はビルドアップを安定させたが、広島は中村を下がらせたことで相手前線の人数を1人減らすことに成功した。ここまでは五分五分の状況だった。

ここから川崎がボール保持率を高めていくが、広島の練度の高いゾーンディフェンスの前にそれほどチャンスは作れなかった。逆に広島はボールを奪う位置こそ低くなっていたが、前線まで確実にボールをつなぎ川崎ゴールを脅かした。

今季の広島は縦に速い攻撃を得意としているが、ペトロヴィッチ監督・森保監督時代には低い位置から攻撃を組み立てるプレーを経験している選手も多い。

拮抗した展開が続く中、後半に入り均衡を破ったのは広島。

今季の特徴である右サイドで人数をかける攻撃から柴崎のクロスをパトリックが頭で合わせ、56分に広島が先制する。

左SH柏が右サイドにまで出てきて柴崎にクロスを入れる時間をあたえ、クロスのターゲットとなるパトリックが川崎の右SBエウシーニョとマッチアップしていたことで得意の形で得点が入った。

圧力をかけ続けた川崎に勝機

広島は先制したことで無理をせず自陣で守備ブロックを作りカウンターを狙い。川崎はよりボール保持率を高め広島を押し込みゴールに迫ろうという形へと試合が変化していく中、川崎がわずか7分後の63分に同点に追いつく。

広島の守備ブロックの間に、阿部が入り込みポストプレーを行うことで広島左SB佐々木を釣り出し、その背後のスペースをエウシーニョが突くことに成功したことで勝負あり。エウシーニョの折返しを小林が合わせた。

川崎は最初にも書いたようにビルドアップの際にMFが1人下がって3バックになるが、この動きには先がある。

前線の選手は後ろの3バック化に連動する形で、SBは同時に高い位置に上がりSHは中に、さらにトップ下は中盤の低い位置へと下がる。つまり川崎の布陣は4-2-3-1から3-4-2-1へと変化している。この変化が、阿部とエウシーニョの動きに繋がっている。

そしてこの同点ゴールの形はもちろん、そのタイミングも大きな意味を持っていた。

同点に追いつかれたことで広島ベンチが先に動く。渡に代えてティーラシン、さらに柏に代えて吉野を投入。ティーラシンはそのまま前線に入ったがが、吉野投入をきっかけに広島は中盤の並びを変更。吉野はセンターに入り、稲垣が左へと移動する。

広島はこの交代で中盤の守備の強度を高めたいという狙いがあったのだろう。

実際にこの交代で広島の守備の強度は高まった。フレッシュな吉野が自由に動く中村の動きを制限し、崩された左サイドも守備的MFである稲垣が移動したことで安定感を増した。

しかし、その一方で柏がいなくなったことで広島の攻撃は2トップによるカウンターに頼るしか無くなった。攻撃の終点がはっきりしたことで、川崎にとっては守備の狙い所を絞ることができる。

その結果、川崎が広島のカウンターの芽をことごとく潰し、一方的に押し込むことになったのだ。

決勝点となったのは77分の小林のPKだった。広島は柏を下げた69分からこの時間まで敵陣にボールを運ぶこともできなくなっていた。

その後、広島は川辺を投入し何とか攻勢に移ろうとするも、川崎は交代枠を使いながら対応し逃げ切りに成功。川崎は広島との勝ち点差を6にまで縮めた。

広島が試合の立ち上がりから見せたインテンシティの高い攻守は見事で首位にいる強さを十分感じさせたが、圧力をかけ続け、守りを意識した交代を選択させた時点で川崎に勝利の女神は微笑んでいた。