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ハーフナー、矢島の仙台加入は決定力改善につながるか データから見るJ1夏の補強診断

2018 8/2 11:23SPAIA編集部
Jリーグ,2018年,ベガルタ仙台,前半戦スタッツ
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ベガルタ仙台の前半戦

Jリーグはシーズン中に戦力を補強できる唯一の機会、夏の移籍期間(第2登録期間(ウインドー))が始まっている。今夏の特徴は、ワールドカップによる中断期間があったことで各チームの動き出しが早かったことと、ビッグディールが相次いで起こっていることだ。そんな中、ベガルタ仙台は矢島慎也とハーフナー・マイクを獲得した。

渡邉晋監督体制5シーズン目の仙台。過去4シーズンはいずれも2桁順位と結果を残しているとは言い難いが、近年では過去の仙台の特徴であった「カウンターを主体とした堅守速攻スタイル」から欧州のエッセンスを加えた「ポジショニングで優位性を作り出すスタイル」へと変貌をとげ、戦術的にも注目を集めるチームの1つとなっている。

そんな仙台の前半戦(第17節終了時点)の成績は、7勝4分6敗で8位。過去4シーズンの順位と比較すると上昇しているが、渡邉監督としてはもう少し上を狙っていたというのが正直なところだろう。シーズン序盤の5節までは3勝2分と負けなしだったが、8節から12節までの5試合で2分3敗と勝敗数が逆転。チームに波があるのが課題だ。

Jリーグ,2018年,ベガルタ仙台,前半戦スタッツ

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開幕前の加入組、フィットしなかった庄司とフィットした板倉

前半戦の仙台は、ボール支配率こそ52%でリーグ5位となっているが、パス数は539.6本/試合で7位、パス成功率も76.8%で9位。ポジショニングで優位性を作るチームはポゼッション志向であることが多いが、仙台の場合はポゼッションサッカーは志向していない。

それは守備に関するデータでも明らかで、仙台は22.8回/試合とリーグトップのタックル数を記録しているのだが、そのうち敵陣でのタックル数は6.2回/試合とリーグ8位にまで順位を下げる。ポゼッションサッカーで重要な、ボールを即座に奪い返すためのハイプレスは行っていないのだ。

これが、今季開幕前に大きな補強になるのではないかと思われていた、岐阜から加入した庄司悦大がチームにフィットできなかった原因と考えられる。

庄司はこれまでJ1の経験こそ無かったが、レノファ山口や昨季大木監督を招聘しポゼッションスタイルへと転換したFC岐阜の中心選手としてブレイク。アンカーからゲームを組み立てるポゼッションサッカーの申し子だ。

ポジショニングはポゼッションサッカーの重要な要素であり、仙台でも躍動するかと思われたが、結局チーム戦術にはフィットせず、7月14日付で京都サンガへ期限付き移籍となった。

一方でもう1人の注目新加入選手、川崎から期限付きで加入した板倉滉はチームに完全にフィットしている。

東京五輪を目指すU-21日本代表でも中心選手として期待が集まる板倉は、長いボールを蹴る技術だけでなく高さと強さも兼ね備えている。ハイプレスを行わず、一旦リトリートしてブロックを作り守る仙台には、この板倉のプレースタイルが完全にフィットした。

定位置としている3バックの左では、相手にとって最もプレッシャーをかけにくいポジションであることを利用して、フリーの状況から長いキックで一気に逆サイドにボールを送り込む。対戦相手からすれば厄介な存在であり、今や仙台にとって欠かせない選手だ。

夏の移籍期間で獲得したのは、矢島慎也とハーフナー・マイク

前半の補強では、庄司と板倉でややプラス。その上で3勝2分と好調な滑り出しから、前半戦8位に落ち着いてしまった原因は何だろうか。データを詳しく見ていくと、攻撃面における課題が見えてきた。

その課題とはシュート数。仙台のシュート数は10.6本/試合でリーグ15位、枠内シュート数に至っては3.2本/試合でリーグワーストである。この数字、前線にボールを運ぶ回数が少ない堅守速攻型のカウンタースタイルのチームであれば問題はない。

しかし、仙台の場合はアタッキングサードでのプレー数は241.7回/試合でリーグ8位。敵陣30m以内のプレー数も178.2回/試合でリーグ9位。前線にボールを運ぶ回数は決して少なくないのだ。ということは、前線にボールを運んでからの展開に問題があるということになる。仙台はこの問題を解決するため、補強を行った。

まず目をつけたのが、今季加入したガンバ大阪で冷や飯を食わされていた矢島慎也。矢島は期限付きで加入した岡山でブレイク。リオ五輪日本代表でも活躍し、今季浦和からG大阪へと移籍した。しかし、守備的MFとしては動き過ぎ、アタッカーとしてはスピードが足りなかったため、クルピ前監督の起用に応えられず、信頼を得ることができなかった。

一方、仙台ではG大阪とは布陣が異なり、インサイドハーフがある。ここなら矢島が持つ技術と運動量、パスセンスを活かすことができると判断したのだろう。登録が完了するとすぐに先発出場を重ねている。仙台にとって大きな加入となりそうだ。

そしてもう1人が、神戸から期限付きで加入したハーフナー・マイク。獲得理由はデータをみると明らかである。先ほど、前線にボールを運ぶもののシュートに持ち込めていないというデータを紹介したが、その内訳の中でも特に問題なのがクロスである。クロス数は19.4本/試合とリーグ2位を記録していながら、成功率は19.1%でリーグ14位。かなり効率が悪い。これを解消するためのハーフナー・マイクは実に納得の人選である。

2トップのポジションには、小柄だが無類の身体の強さを活かし起点を作る石原直樹、機動力があるチーム得点王の西村拓真、ドリブルでも勝負できる阿部拓馬、スピードあふれるジャーメイン良と、様々な武器を持つ選手はいるが、その中でもハーフナー・マイクの高さは攻撃に新たなバリエーションを生み、大きな武器となるだろう。

終盤からの組み立てと、決定力の強化で、過去4年間かなわなかった1桁順位はもちろん、今季のチーム目標であるリーグ戦5位以内へ可能性は十分ある。