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札幌とペトロヴィッチ監督が産み出す新たなミシャサッカー

2018 6/12 07:00SPAIA編集部
ⒸShutterstock
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キーマンはやはりペトロヴィッチ監督

躍進の最大の要因は今季就任したミハイロ・ペトロヴィッチ監督であることは間違いない。これまでサンフレッチェ広島、浦和レッズの監督として通算12シーズンに渡りJリーグで指揮を執り、詰めの甘さ、ここ一番での弱さが話題になることも多かったが、いつしか「ミシャシステム」と呼ばれるようになった独特のアタッキングフットボールで日本サッカーに大きな影響を与えた人物である。

ミシャサッカー可変図

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「ミシャシステム」について簡単に振り返ると、特徴的なのがその布陣。フォーメーション図では3-4-2-1の布陣で書かれているが、攻撃の時は両サイドの選手も前線に出て4-1-5の形になり、守備の時は3-4-3または5-4-1になる。「ミシャシステム」の最大のポイントは選手の配置。攻撃で安定した成果を出すために「誰がどこにいるのか」を徹底的にマネジメントしている。

この考え方は近年のヨーロッパサッカー界を中心に広がりを見せている「ポジショナルプレー」の概念に近い。

札幌の選手はなぜすぐにミシャサッカーに順応できたのか

これまでペトロヴィッチ監督のミシャサッカーは難解とも、成熟に時間がかかるとも言われてきた。しかし札幌では、初勝利こそ第4節まで待たなければならなかったが、そこから11試合負けなし。短期間で形にしている。

その要因としては、札幌が昨年から選手の配置にこだわったサッカーをしていたことが大きい。

Jリーグでは攻撃的サッカーといえば川崎フロンターレに代表されるように前線の選手が流動的に動くサッカーが主流である。しかし四方田前監督(現コーチ)の下で昨季の札幌が行っていたのは、そんなサッカーと真逆ともいえるロングボールを多用する守備的なサッカーだった。

このロングボールを多用する上で重要なのは、決まった場所に決まった選手がいること。昨季と今季では守備的・攻撃的という分類で異なるが、ポジションにこだわるという部分では親和性が高い。札幌の選手は「動きすぎないプレー」に慣れていたため、ミシャサッカーへの適応が早かったのだと考えられる。

ミシャサッカーの新たな進化

さらに今季の札幌が見せるミシャサッカーには変化も見られる。それを表しているデータがチームのパス数。札幌の1試合平均パス数は496.3本でリーグ10位。過去のペトロヴィッチ監督のチームに比べるとかなり少ない。さらに前方パス数に限ると1試合平均168.5本でリーグワースト2位となる。

この少ない前方パス数で攻撃の組み立てが可能となっているのは、縦パスの距離が長いから。札幌ではこれまでのミシャサッカーでほとんど見られなかったロングボールという選択肢が加わっている。

また選手ごとのパスデータでも興味深い数字がある。今季の札幌でチーム最多のパス数を記録しているのは3バックの左に入る福森。これもこれまでのミシャサッカーとは異なる傾向だ。広島や浦和でパスの中心となっていたのは森崎和幸・青山、阿部・柏木らのボランチの選手だった。

これらのデータを踏まえ実際の試合を見ると、今季の札幌が攻撃の時に4-1-5の布陣に変化することなく3バック+ダブルボランチの形のまま攻撃を組み立てる回数が多いことに気がつく。今季の札幌は福森という3バックの左で攻撃を組み立てることができる選手がおり、さらに前線にはロングボールのターゲットとなる選手もいる。その結果、相手が激しくプレッシングを仕掛けてくればロングボールを蹴ることができるので、最終ラインと中盤の形を変えずして攻撃を組み立てられるようになったのだ。

ミシャサッカーにおいてこの進化は大きい。攻守で布陣を変化させる必要があったこれまでのミシャサッカーは、近年この攻守の切り替えの際に生じてしまうタイムラグが最大の弱点となっていた。つまりカウンターに弱かった。しかし変化の必要がなくなるとそのタイムラグがなくなり、カウンターに対応しやすくなるのだ。

これまでのミシャサッカーに足りなかった「臨機応変」と「攻守の切り替え」。ここに手をつけた札幌バージョンのミシャサッカーはJリーグを席捲できるか。