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尹晶煥監督が守備戦術を整理した、セレッソ大阪

2017 8/3 12:07Aki
サッカー
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尹晶煥監督就任で大きな変化を見せたセレッソ大阪

2016年のJ2で4位に終わるも、J1昇格プレーオフを勝ち抜きJ1昇格を果たしたセレッソ大阪。 2017年第15節現在での暫定順位ではあるものの、この段階でなんと2位と大躍進を見せている。

2012年より始まったJ2で3位から6位のチームによって行われるJ1昇格プレーオフ制度。この精度によりJ1に昇格してきた4チームは、全て翌年には最下位でJ2降格となり、15節終了時点で最下位ではなかったのは、2015年のモンテディオ山形のみ。4チームの15節終了時点の平均得点は10.00、平均失点は24.25で、平均勝ち点はわずか9.25しかない。
その前年の順位から考えるとこの結果は予想できるものではあるが、なんとか昇格を果たしたものの、厳しい結果となるというのが例年のパターンだ。

しかし今季のセレッソ大阪は違う。 第15節終了時点で26得点、12失点は例年の倍以上の成績。さらに勝ち点29と既に例年の3倍以上の数字を積み上げる事に成功している。

※得失点数はJリーグデータサイト https://data.j-league.or.jp/SFTP01/ より引用

最大のトピックとなった山村和也選手の前線起用

シーズン開幕前にセレッソ大阪で注目を集めたのは、日本代表でもある清武弘嗣選手の復帰だっただろう。 2012年にセレッソ大阪からドイツの1FCニュルンベルクへと旅立った清武選手。その後ハノーファー96を経由しスペインの強豪セビージャFCへ移籍したものの、出場機会など様々な問題を抱え、古巣セレッソ大阪へ復帰を決断する。日本代表の主力選手の復帰は大きな話題となった。

しかし第15節終了時点では、ところどころで素晴らしいプレーは見せているものの、海外から加入した選手の多くがそうなるように、日本のサッカー独特のリズムやテンポにまだまだ戸惑いがある様子だ。コンディション調整にも苦しんでおり、怪我を繰り返しているため本領発揮とまでは行っていない。

そんな中でチームを牽引しているのがロンドン五輪代表選手で、2016年に鹿島アントラーズから加入した山村和也選手だ。
今シーズンの山村選手はこれまで務めていた守備的ポジションではなく、攻撃的ポジションで躍動している。これまでと全く異なるポジションへの誰もが驚いたコンバートだったが、これががピタリとはまり大柄な体格を活かした高いキープ力と、柔らかいテクニックはまるで元フランス代表のジダンのようだとも例えられるほどである。

さらに第15節終了時点で既に6得点を記録。鹿島アントラーズ時代の4シーズンで記録したJ1リーグ戦での通算得点4を既に越えており、前線でコンビを組む杉本選手と並んでチーム内得点王となっている。

第15節終了時点でJ1最少失点を記録している守備

注目を集めている山村選手の前線へのコンバートだが、それ以上にセレッソ大阪躍進の大きな要因となっているのは守備面だろう。
2017年のJ1第15節終了時点での失点数はわずか12失点で、これはJ1最少失点だ。

2016年度のセレッソ大阪がJ2で戦っていたデータを見ると、失点数は46。
この数字はリーグ9位の記録でしかなく、プレーオフ進出圏内となる6位以上のチームの中では最多である。同時に昇格した北海道コンサドーレ札幌の32失点、清水エスパルスの37失点と比較するとその多さがわかる。J2は42節で開催されるため、1試合平均1失点以上であった事がわかる。

さらに時間帯別にみると、試合終盤となる60分以降の失点数ではリーグワースト。なんとJ3に降格してしまったギラヴァンツ北九州よりも多い失点数となっていた。
しかしそれが2017年第15節終了時点では、カテゴリが上がったにもかかわらず最少失点。60分以降の失点数もリーグ最少だ。つまり尹晶煥監督は、わずかな期間で守備を立て直す事に成功しているのだ。

※得失点数はJリーグデータサイト https://data.j-league.or.jp/SFTP01/ より引用

チームに最も足りなかった組織的な守備を構築

今シーズンからセレッソ大阪の監督に就任した尹晶煥監督。2014年途中まではサガン鳥栖の監督を務めており、現在のサガン鳥栖のベースを作った監督である。そして、尹晶煥が作り上げたサガン鳥栖の特徴はハードワークだろう。

しかし今シーズンのセレッソ大阪を見ると、意外な事実がわかる。
運動量がはっきりと数字になってテータ化されているのが、Jリーグが発表しているトラッキングデータだ。この数字をみると、セレッソ大阪の1試合あたりの走行距離は、2017年第15節終了時点でリーグ7位。
リーグ平均113.731kmに対してセレッソ大阪は114.697kmとなり、リーグ平均よりも若干上回っているものの全体的には特筆すべき数字では無い。
ちなみに、尹晶煥監督が以前率いていたサガン鳥栖は118.271kmでリーグトップ。サガン鳥栖に比べるとセレッソ大阪は1試合あたり4kmほど、チーム全体の走行距離は少なくなっている。

この事からわかるのは、尹晶煥監督が行ったのは、決して運動量を多くしようとしているわけではないという事だ。
もちろん運動量は大切な要素の1つだが、尹晶煥監督は守備のルールをチーム内で整備徹底することで、組織的な守備を構築したという事がわかる。

2016年J2で失点を重ねていたセレッソ大阪にとって最も足りなかったのは、まさにはこの部分だった。

自陣でブロックを作るゾーンディフェンス

2017年のセレッソ大阪が行っている守備は、自陣でブロックを作るゾーンディフェンス。
ボールの失い方や試合展開によっては、素早い守備への切り替えから高い位置で相手選手にプレッシャーをかける守備も行う事もある。
しかし、試合を全体でみると、高い位置から相手チームのディフェンスラインにまでアプローチをかける事は少なく、各選手がまず自分のポジションに戻って守備陣計を整える方法を選択している。

相手ディフェンダーにまでアプローチをかける守備は、高い位置でボールを奪う事ができると一気にチャンスが広がる。
しかしその一方で、高い位置から守備をするという事は守る範囲も広くなる。特に背後にスペースを作ってしまう事にもなるからだ。
昨年までのセレッソはこのバランスが整っておらず、前線の選手は高い位置から守備をしようとするのだが、そこでかわされてしまうので一気に攻め込まれる。その結果、前線の選手は前から守備をしようとするが、後ろの選手は攻め込まれたくないので下がって守るというアンバランスな状態だった。

そこで尹晶煥監督がもちこんだのは、高い位置からの守備と自陣でブロックを作る守備の切り替えのポイントを明確にすること。そしてブロックを作る守備の整備だった。

ブロックを作る守備というのは一般的に言われるゾーンディフェンスだ。
ゾーンディフェンスとは、ボールの位置を基準に全員が正しいポジションを取る事で相手にゴールまでのルートを作らせないという守備方法である。
セレッソ大阪の試合を見ていると、比較的相手チームがボールを持つ時間があるものの、相手チームは外へ外へとボールを動かすしかなくなっているという場面が見られる。
これこそがまさにゾーンディフェンスが機能している状態なのだ。

この守備こそが、セレッソ大阪躍進の正体だ。 この守備をベースにしている限り、今シーズンのセレッソ大阪が大きく崩れてしまう事は無いだろう。