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セレッソ大阪の中盤を支えるマルチプレイヤー、ソウザ選手

2017 8/3 12:07Aki
サッカー,ピンク
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異例の快進撃を見せるセレッソ大阪

2015年に1年でのJ1復帰に失敗したセレッソ大阪。翌2016年は柿谷曜一朗選手、杉本健勇選手らを呼び戻し、さらに鹿島アントラーズから山村和也選手を獲得。J2では群を抜く戦力を確保し戦うシーズンとなったが、選手だけで勝つことができないのがサッカーだ。戦術的な約束事をほぼ決められず、対戦するクラブの監督からは口々に「個々の選手の能力は高いが、チームとしてはそれほどでもない。」と言われ続けた。

最終的に2016年の順位は前年と同じ4位。再び悲願のJ1復帰に届かないかと思われたが、前年には涙を飲んだプレーオフを制し、なんとかJ1昇格を達成する。

このプレーオフからJ1昇格を果たしたチームにはあるジンクスがある。
それは過去プレーオフを制し昇格を果たした4チーム全てが、その翌年にJ1最下位となり再び降格している事。前年の順位を考えると当然とも言えるが、プレーオフからJ1昇格を達成したチームは全て苦戦しているのだ。

しかし、2017年のセレッソ大阪は、シーズンも中盤に差し掛かろうとする第16節終了時点でなんと2位。好調を維持し続けている。その要因となっているのは、プレーオフから昇格を果たしたチームとしては初となる、昇格を達成したにもかかわらず監督を交代させたこと。
新監督となる尹晶煥氏に、2016年にほとんど見られなかった戦術的な約束事を植え付けられたチームは、シーズン半分にも満たない第16節終了時点でプレーオフから昇格を果たしたチームの最高勝ち点を更新中である。

中盤をリードするソウザ選手と山口蛍選手のダブルボランチ

このチームを支えているのは、ソウザ選手と山口蛍選手のダブルボランチ。
山村和也選手の前線へのコンバートも大きな話題となっているが、山村選手が前線で躍動出来ているのも、ソウザ選手と山口選手が後ろでしっかりとサポートしているからだ。
ソウザ選手と山口選手によるダブルボランチの特徴は共にボール奪取力が高い事にある。山口選手のボール奪取力は日本代表でも重要な戦力となるほどだが、ソウザ選手も山口選手に匹敵するボール奪取力を見せている。
しかし、ソウザ選手が最も輝くのは守備ではなく攻撃である。特に素晴らしいのはボールを運ぶドリブルだ。
ヨーロッパや南米など、サッカー強豪国ではドリブルを、突破のためのドリブルと、ボールを前進させるためのボールを運ぶドリブルの2つに分けて考える事が一般的となっている。
その中でもソウザ選手が得意としているのは後者、ボールを運ぶドリブル。齋藤学選手や宇佐美貴史選手の様にスピードに乗って相手を切り裂くようなドリブルではないが、スルスルと相手陣内にボールを運んでいく。

さらにパスの能力も高く、シュート力もある。ソウザ選手はそんなマルチな能力でセレッソ大阪の中盤を支えている。

2016年シーズンは長所でもあり短所でもあったソウザ選手

マルチな能力を持つソウザ選手がセレッソ大阪に加入したのは2016年。2016年のセレッソ大阪は安定した戦いを見せる事ができなかったが、ソウザ選手はリーグ戦39試合に出場。中心選手としてプレーしている。

では、2016年と2017年、何が違ったのだろう。
2016年のソウザ選手は当時から、ドリブル・パス・シュートと個人能力としては素晴らしいものを見せていた。
しかし一方で対戦相手に狙われている部分もあった。

ソウザ選手は、チームのリズムが良い時はパスで周囲を上手く使う事ができるのだが、そのリズムが悪くなるとボールを持ちすぎてしまうのだ。
通常ならチームのリズムを良くするためにチーム戦術が存在するのだが、2016年のセレッソにはそれが無く攻守に渡って個人任せ。その結果、相手チームはボールに触ることが多いソウザ選手をボールの取りどころとして設定し、ソウザ選手がボールを持った時に複数の選手が一気にボールを奪いに来るという場面が見られるようになっていた。

そして狙われていたのは守備でも同様だった。チーム戦術が整備されていないという事は、守備ではどこからボールを奪いに行くのかが統一されていないということなのだ。その結果言葉が通じないソウザ選手は、独断で自分のポジションを空けてボールに食いついてしまうこともあり、それが守備の穴にもなっていた。
2016年のソウザ選手は、個人能力の高さから高い評価する人もいるが、守備に穴を空けボールを失う事も多いため低い評価を下す人もいる、そんな選手だった。

尹晶煥監督が落とし込んだ組織的な戦術

2016年は評価が大きく別れる存在だったソウザ選手。しかし2017年は尹監督が攻守に置いてチームに戦術を落とし込む事で大きく改善。守備では2016年の様にポジションを空けてしまう事も少なくなり、正しいポジションでその高いボール奪取力を発揮している。

また攻撃でも、戦術を整備しながらもソウザ選手にはある程度自由が与えられており、ボールを運ぶドリブル、そこからのパスと躍動している。
2017年のJ1第16節終了時点で、多くの強豪クラブを差し置きリーグナンバーワンを記録する得失点差に大きく貢献している事は間違いない。
また、2017年にさらに評価を高めているのはセットプレーのキッカーとしての能力だ。
セレッソには日本代表でもキッカーを務める清武選手がいるが、コンディションがなかなか整わず、思うように能力を発揮出来ていない。そこで、チームで右足のキッカーはソウザ選手が務める事が増えてきている。

ソウザ選手の右足から繰り出される鋭く曲がり落ちるボールで、ここまでアシストを量産。すでにリーグ2位となる5アシストを記録している。

明るいキャラクターでサポーターにも人気

またソウザ選手は明るく自由なキャラクターでサポーターからの人気も高い。
2016年のJ1昇格プレーオフ決勝、試合終了後に、そんなソウザ選手のキャラクターを感じさせる一幕があった。

この試合はセレッソ大阪にとってJ1昇格をかけた大一番である。それと同時に、かつてのチームメイト、ケンペス選手が巻き込まれた飛行機事故「シャペコエンセの悲劇」直後の試合でもあった。
そこで、彼への追悼の意を表し、セレッソ大阪の選手全員が、ケンペス選手のユニフォームをまとって入場。さらにベンチには選手全員がメッセージを加えたケンペス選手のユニフォームを掲げ試合に挑んでいた。

ソウザ選手はこの試合に先発出場。そしてセレッソ大阪がリードしたまま迎えたアディショナルタイムに交代し、ベンチで歓喜の瞬間を待つことになる。
試合はそのままセレッソ大阪の勝利で終了。ベンチにいる選手は混乱を避ける為、ユニフォームを脱がなければならないというルールがある。そのため、交代で下がったソウザ選手はベンチでユニフォームを脱いだ状態で歓喜の瞬間を迎えることとなった。

しかし、試合終了後に整列している選手を見ると、なぜかユニフォーム姿のソウザ選手が並んでいる。 しかもそのユニフォームは、ソウザ選手の本来の背番号『6』ではなく『9』。勝利の喜びのあまり、なんとベンチに掲げていたケンペス選手のユニフォームを着用し、本来いるはずのない整列に参加していたのだ。

これまでセレッソ大阪が好成績を残したシーズンには、ファビーニョ選手、マルチネス選手、ファビオ・シンプリシオ選手などチームを支えたブラジル人ボランチの存在がある。ソウザ選手もその中に加わる可能性は十分ある。