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ガンバ大阪、2017年序盤の戦術を読み解く

2017 6/30 12:56Aki
ガンバ大阪
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中盤の形を変えた長谷川健太監督

2016年は3年ぶりの無冠に終わったガンバ大阪。復活を期する長谷川健太監督の下で5年目のシーズンを迎える2017年は、第11節を迎えるまでの間に3種類のフォーメーションを使用している。
あまりフォーメーションを動かす印象はない長谷川監督が、わずか11節にして3種類もの形に変えたきっかけは、チームの編成と怪我人から来るものだった。
2017年のガンバ大阪は、これまで何シーズンにも渡って使用してきた4-2-3-1または4-4-2で、根幹となる中盤の守備的ミッドフィールダー2人+両サイドハーフという形から、中盤の底にアンカーを置き両サイドには選手を配置しないダイヤモンド型のシステムでシーズンをスタートすることを選択している。
この変更に踏み切ったきっかけは、2014年のJ1復帰以来豊富な運動量と献身的なプレーでチームの戦術上では大きな役割を担っていた、阿部浩之選手と大森晃太郎選手が移籍したことだった。
大宮アルディージャから泉澤仁選手を獲得し、さらに下部組織出身の堂安律選手など期待を集める選手はいるが、AFCチャンピオンズリーグを含めた大切なシーズン序盤の段階では、阿部選手や大森選手に代わる存在にまではなりきれず、長谷川監督は中盤の形を変える事を決断することとなった。

井手口選手の負傷をきっかけに3バックに変更

開幕時点でガンバ大阪が採用したのは、中盤をダイヤモンド型にした4-4-2である。この形でリーグ開幕戦直前のAFCチャンピオンズリーグアデレード戦で快勝し、リーグ開幕戦のヴァンフォーレ甲府戦では、粘り強い守備の前に苦戦を強いられたものの1-1の引き分けと、まずまずの形でシーズン序盤を迎える。しかし、この序盤の連戦でダイヤモンド型中盤の右に入った井手口陽介選手が負傷離脱し、ここで長谷川監督は3バックの3-1-4-2に変更する。
この3-1-4-2では、開幕戦中盤ではトップ下にはいっていた倉田秋選手を、井手口選手が務めていた右のインサイドハーフに移動させた形で、中盤のアンカー+インサイドハーフ2人という形はそのまま継続する決断だった。
また、この3バックシステムは守備の時はこの形のままで守るものの、ボールを保持している時は3バックの右に入る三浦選手が右サイドバックになるシステムチェンジもあるという特徴的な形になっていた。

中盤アンカーシステムのキーポジション

ガンバ大阪が開幕から採用してきた中盤アンカーシステムで、アンカーに入っていたのは日本屈指のゲームメーカー遠藤保仁選手だ。アンカーのポジションにゲームメイカーを配置する形は、ACミランやイタリア代表などでアンドレア・ピルロ選手で有名になった形であり、遠藤選手の起用はピルロ選手を思い起こさせると話題になった。
しかし、このシステムの本当の意味でキーとなるポジションは、アンカーの前に並ぶインサイドハーフであり、このポジションの攻守に渡る躍動が必須となる。
そもそも3バックシステムは、守備の時に3バックの両脇にスペースが生まれやすいシステムである為、両サイドのウイングバックは最終ラインに下がり5バックにして守ることが一般的となっている。
しかし3-1-4-2システムの場合は5バックにすると、その配置上中盤を3人で守らなければならなくなるので、守るエリアをできるだけ少なくする必要がある。
その具体的な方法はチームの考え方によって様々だが、例えば同じ3-1-4-2を採用するヴァンフォーレ甲府は、守備ブロック全体を下げる方法を採用している。
それに対してガンバ大阪が選択したのは、高い位置からの守備である。高い位置から相手ボールを奪いに行く事で、相手のプレーを制限する形だ。
これにより、両サイドのウィングバックも下がらず、高い位置で相手に対してプレッシャーをかける場面が増えるので、3バックの両サイドに生まれやすいスペースはそのまま残る事になってしまうが、相手にプレッシャーをかける事でそのスペースを使わせない様にするという方法だった。

躍動するインサイドハーフ、今野泰幸選手

ガンバ大阪の採用した高い位置からの守備は、プレッシャーをかけきれないとピンチにつながるリスクのある方法でもある。そのガンバ大阪の高い位置からの守備を機能させたのが今野泰幸選手だった。
今野選手といえばセンターバックや守備的ミッドフィールダーとしてのプレーが有名だ。元々は守備的ミッドフィールダーとしてプレーしていたが、高いボール奪取力と足元の技術を活かすため、FC東京時代に当時の監督である城福浩氏によりディフェンダーにコンバートされたという経歴を持っている。元々今野選手は、守備的ミッドフィールダーとしては少し動きすぎるという短所があった為、城福氏はより守備的なポジションに移動させる事で矯正したいと考えたのだろう。
しかし、今季インサイドハーフとして起用されはじめると、守備的ミッドフィールダーやセンターバックとしては短所だった”動きすぎる”という部分が、プレーエリアが広いという長所に転換された。さらに、元々持っていた攻撃的センスも思う存分発揮されるようになった。
ガンバ大阪の今季序盤は、今野選手と倉田選手がスイッチとなり、高い位置から積極的に仕掛ける守備が大きな武器となっていた。

今野選手の負傷と狙われた遠藤選手

しかし、今野選手が復帰した日本代表で負傷するというアクシデントが発生してしまう。さらにリーグ戦では好調だったアンカーシステムだったが、AFCチャンピオンズリーグでは、そのアンカーに入る遠藤選手が徹底的に狙われ、そこから失点につながるという大きな問題点が発生するようになっていた。
これを受けて長谷川監督は3-1-4-2を継続しながらも、アンカーに今野選手と入れ替わる形で復帰した井手口選手の起用を決断する。遠藤選手をインサイドハーフに移動させ、2人のポジションを入れ替える形で第7節セレッソ大阪との大阪ダービーに挑んだ。しかし、ハードワークが求められるこのポジションは遠藤選手にフィットせず、この試合では結果こそ引き分けに終わったものの、内容では圧倒されることとなった。
これをきっかけに翌第8節大宮戦でとったのは、遠藤選手を外しシステムも倉田選手と井手口選手の2人を守備的ミッドフィールダーで並べた通常の4-4-2。2016年までの使い慣れた形に戻したのだ。この大宮戦で6得点で大勝をすると、以降はこの形がベースとなり第11節までの4試合を3勝1分。第11節終了時点で首位浦和レッズと勝ち点で並ぶ2位と、上々の順位に付けている。
しかし、開幕前に長谷川監督自らが変更を決断したように、2016年までの形でシーズンを通して戦うことができるかどうかという部分に不安もあるのは確かである。
今野選手の復帰は6月にずれ込む事になりそうだが、今野選手がチームに復帰を果たすと長谷川監督はどのような戦い方を選択するのかに注目が集まる。