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大宮アルディージャのエースとしてステップアップする江坂任

2017 6/28 09:44Aki
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攻撃の2枚看板を失った大宮アルディージャ

2016年のシーズンは昇格初年度ながらもクラブ史上最高位となる5位でシーズンを終えた大宮アルディージャ。3年目となった渋谷洋樹監督がこれまで積み上げてきたものがきっちりと表れたシーズンだった。

このチームの核となったのは家長昭博選手と泉澤仁選手のアタッカー2人だった。2人共に渋谷監督就任前、2014年開幕のタイミングで加入した選手だが、加入初年度シーズン序盤はチーム自体の戦い方が全く整備されておらず、行き当たりばったりの戦い方を続けていた為にチームはもちろん彼ら2人のパフォーマンスも低調なものとなっていた。シーズンが半分以上過ぎた8月末にようやく監督を渋谷氏に交代させ、徐々にチームは整備されていくものの間に合わず、チームはJ2降格となってしまう。

だが、J2で戦うこととなった2015年は、渋谷監督によって落とし込まれた堅い守備と、バリエーション豊富な攻撃で圧倒的な強さを見せ優勝、1年でJ1復帰を果たす。 そして迎えた2016年は、この2015年の戦い方をベースに勝ち点を積み重ね最終順位5位を達成した。家長選手のキープ力と泉澤選手の突破力がチーム戦術に落とし込まれ、大きな武器となっていたからだ。

しかしこのシーズンオフに、家長選手は川崎フロンターレ、泉澤選手はガンバ大阪とそれぞれ強豪クラブへと移籍することになる。2017年のシーズンは攻撃の2枚看板をどちらも失った状態でスタートすることとなっていた。

大宮アルディージャに加入した江坂任

J1で躍進を見せた2016年、大宮アルディージャはカルリーニョス選手や渡邉大剛選手など、2015年のレギュラー格だった選手を複数放出し、何人かの新加入選手を獲得している。

しかしその獲得したメンバーは、J1での実績はなく2015年にJ2で対戦していた選手がほとんどだった。ネームバリューに乏しい選手が多かった為、2016年の開幕前は選手層を不安視する声も聞かれたが、チームは選手たちのプレーの特徴を掴んでいたため、適材適所の采配をすることができた。

そしてその中の1人が江坂任だ。2015年にザスパクサツ群馬で大卒1年目ながらもリーグ戦42試合全てに出場し、チーム内得点王、アシスト王となる活躍を見せていた。また、本来のポジションである2列目だけでなく、シーズン途中からはワントップとしても起用される試合を増やすなど、知名度は高くないものの、J2で最も注目を浴びるタレントの1人となった。

ザスパクサツ群馬での1年間で大きく成長

江坂選手がザスパクサツ群馬への加入が発表されたのは2015年1月8日。2014年末には既に内定との報道があったが、それでも大卒選手としてはかなり遅い段階での決定だった。

江坂選手は流通経済大学で2013年に総理大臣杯、2014年に全日本大学サッカー選手権の2大会で得点王となった実績を持っており、2014年には大学2冠を達成しているが、この時大学生で注目を集めていたのは専修大学の仲川輝人選手、北爪健吾選手、筑波大学の車屋紳太郎選手、福岡大学の大武峻選手、山崎凌吾選手などだった。江坂選手も流通経済大学のエース的な立場だったが、チーム内では1年後輩の中村慶太選手がスカウトの注目を集めているという状況だった。

実際にザスパクサツ群馬に加入してからもキャンプ中盤まではサブ組として起用されている事がほとんどだった。しかし新加入のブラジル人選手がチームに全くフィットしなかった事で、開幕直前にスタメンポジションを獲得した。

ポイントになったのは、大学時代からの武器であった総合力の高さだった。江坂選手は本来中盤のアタッカーなのだが、前線でボールを収める事もでき、身長は低いのだが空中戦の強さもある。そして何より両足でのシュートが上手い。その結果、前線の様々なポジションで起用されるようになっていった。

大宮アルディージャのエースとなった江坂任

大宮アルディージャに加入した2016年は開幕直後こそ途中出場がほとんどだったが、ファーストステージ終盤からは完全にポジションを確保する。

大宮アルディージャにはドラガン・ムルジャ選手というチームを支えるストライカーがいるが、ムルジャ選手はスペースに走った時に強みを出せる選手で、前線で起点になれるタイプではない。そこで抜群のキープ力を持つ家長選手を前線に起用することでカバーしていたが、そうなると家長選手の本来の武器であるゲームコントロール力は使えなくなる。そういった状況から家長選手の持つ能力をより引き出すためにも、江坂選手の前線で様々な事ができる能力がピッタリだったのだろう。

大宮アルディージャへの加入初年度、さらにJ1に初チャレンジの2016年シーズンの31試合出場8得点はかなり立派な成績だ。

そして、家長選手、泉澤選手の2枚看板が抜け迎えた2017年シーズン。この2人の穴を埋める為にも、チームは清水エスパルスのエース大前元紀選手やJ1での経験が豊富な長谷川アーリアジャスール選手など実績のある選手を獲得したのだが、チームの絶対的なエースは江坂選手であることに変わりはなかった。

江坂選手の後を追う瀬川祐輔選手

今シーズン大宮アルディージャは江坂選手の古巣であるザスパクサツ群馬から1人の選手を獲得している。 その選手とは瀬川祐輔選手。江坂選手と入れ替わるように2015年に明治大学からザスパクサツ群馬に加入し、当時の江坂選手と同じ背番号26を背負ってプレーしていた。

大学時代はそれほど大きな注目を集めていたわけではなく、ストライカーとしての注目度はガンバ大阪に加入した呉屋大翔選手やセレッソ大阪に加入した澤上竜二選手の方が評価はずっと上だった。 同じ明治大学でも、オリンピックにも出場した室屋成選手や現在は再びチームメイトとなった山越康平選手、ファジアーノ岡山に加入した藤本佳希選手に注目が集まっていた。

年末ギリギリに、ザスパクサツ群馬からのオファーを受けるというかなり遅い段階で加入が決定した瀬川選手だったが、1年目から大活躍を見せる。

前線の様々なポジションで起用され42試合出場13得点でチーム得点王となり、2年目のシーズンに大宮アルディージャへのステップアップを達成。この成長は、江坂選手が辿ってきたものと非常によく似ている。とはいえ江坂選手は幅広いプレーと両足が武器で、瀬川選手の武器はスピードと2人のプレースタイルは異なる。だからこそピッチで共存することが可能なのだ。

2017年シーズン江坂選手がエースとして活躍し、そして瀬川選手もそれに負けない活躍を見せる事ができれば、こういったステップアップがJリーグでももっと積極的に行われるかもしれない。