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清水エスパルスの2016年を分析し2017年を展望する

2017 2/22 15:02Aki
サッカー
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大逆転でJ1復帰

1992年のJリーグ発足時に加盟したオリジナル10の1つとしてJ1で戦い続けてきた清水エスパルスが、ついにクラブ史上初となるJ2で戦うこととなった2016シーズン。
開幕戦となった愛媛FC戦でボールを支配しながらも守備的を固める愛媛FCを崩しきれずスコアレスドローに終わった試合に象徴されるように、シーズン序盤は勝ち点を積み重ねる事ができずに中位にとどまり続けていました。
しかし今シーズン招聘した小林伸二監督のサッカーがチームに浸透し始めると34節から最終戦にかけての9連勝を含めシーズン後半戦は16勝2分3敗と一気に勝ち星を重ね始め、自動昇格圏内の2位でフィニッシュ。
2016シーズンで首位はおろか、最終順位となる自動昇格圏内の2位に入ったのも最終戦の1つ前、第41節という鮮やかな逆転劇でした。
J2は長くいればいるほど昇格が難しくなり、また復帰した後もJ1での戦いを厳しくしてしまうものですが、見事1年でのJ1復帰を決めました。

攻撃陣が大爆発

清水エスパルス2016シーズンの成績で特筆すべきはリーグナンバーワンとなる85得点。リーグ2位の得点を記録した北海道コンサドーレ札幌が65点。その差20点は圧倒的な数字で、リーグで唯一1試合平均得点が2点を超える成績を記録していました。
その中でもゴールを量産したのは26得点を記録しリーグ得点王にもなった鄭大世選手。さらにその鄭大世選手と前線でコンビを組んだ大前元紀選手も長期負傷離脱があり出場試合数が29にとどまりながらもこちらはリーグ3位となる18得点を記録しています。
このJ1でも実績が十分あり、ずば抜けたタレントである2人がゴールを量産したことで「清水エスパルスの2016年は前線の優れたタレントが爆発した」と分析してしまいそうになりますが、それだけでは不十分。実際の試合をみると、この前線のタレントが爆発したのはリーグ3位の失点数に留めた守備での活躍が引き出したものだという事に気がつきます。

小林伸二監督が重点的に取り組んだ改革

実際に今シーズン就任した小林伸二監督が重点的に取り組んだのは安定した守備でした。
というのもJ2降格を喫するとことなった2015シーズン、その最大の要因となったのはリーグワーストを記録してしまった失点数であったから。2015シーズン途中に就任した前監督田坂昭如氏が就任してからは幾分改善されたものの、その前任者である大榎克己氏監督時代に低迷を招いた直接の原因はその失点数でした。
降格したシーズンでも清水エスパルスの攻撃は、他チームにも引けを取らない強力な陣容でした。そしてそれらの選手が流動的に動き相手の守備陣を翻弄し攻撃を仕掛ける。ポジションを自由に変化させながらの流動的な攻撃はに褒め言葉としても使われる形容詞であるように魅力的です。
しかしサッカーは例えば野球のように攻守が分けられている訳ではなく、攻守が一体となったスポーツ。ですから流動的な攻撃に針を振りすぎていた当時のチームは、ボールを奪われた時に必要な場所に必要な選手がいないという状況が頻発。これが失点数の増加につながっていたのです。

安定したポジションで守備から攻撃に

そこで小林伸二監督はポジションバランスを崩さず戦うことに取り組みます。
元々清水エスパルスが行っていた流動的な攻撃は相手を崩す事ができる要素の1つであることはある意味間違いではありません。しかし効果的な攻撃方法はそれだけではありません。
サッカーは攻守が連続してつながっている、攻守が一体化したスポーツ。ですから良い形でボールを奪うことができれば、良い形の攻撃ができるという側面も持っているのです。
そしてその良い形でボールを奪うための方法論が、ポジションバランスを大きく崩さずに戦うということでした。
シーズン序盤は、元々チームが取り組んでいた方法との違いに選手は戸惑い、そして信じきれないという部分もあったのでしょう。どうしても守備が安定しきれず勝ち点が伸びきれませんでした。しかし小林伸二監督の熱心な指導の甲斐もあって徐々にチームにその概念が浸透し始めると、守備の安定だけでなく実際に得点も増加。すると選手たちもより乗っていく事となり、大逆転劇へとつながる快進撃をみせるようになりました。
元々小林伸二監督はこのポジションバランスを崩さない戦い方で過去3度のJ1昇格を達成してきた人物。バランスを崩して低迷することとなった清水エスパルスにとって最も適した監督でした。

大きな分岐点となったアウェイセレッソ大阪戦

しかしそれだけでは十分でないのもまたサッカー。例えば同等以上のチームに先制され守りを固められた時、時間が少なくなると難しい状況に追い込まれてしまう事もあります。2017年J1での戦いではよりそういった状況も生まれてくるでしょう。
2016シーズンでそれに近い状況となったのが34節のアウェイセレッソ大阪戦。清水エスパルスは33節に松本山雅に敗れており、昇格するためには勝利以外は厳しいという中での試合。そして対戦相手は豊富な戦力を持つセレッソ大阪。またアウェイでのセレッソ大阪戦で最後に勝ったのは1998年と完全に苦手としている相手です。
その試合、序盤は清水エスパルスが押し気味ながらもセレッソ大阪も持ち直し、後半にセレッソ大阪が先制するという展開。普段の通りの交代策もハマらず残り時間も少なくなり厳しい状況に追い込まれます。
そんな中小林監督が決断したのはボランチに入っていた河井に代えて北川をトップ下に投入。あえてポジションバランスを崩す交代策を取ります。
すると結果的にこの交代策が大当たり。89分、94分にゴールを奪い逆転に成功。この勝利で、バランスを崩さない戦い方と、あえてそこから崩す形という2つのパターンを手に入れることとなり、清水エスパルスはこの試合から最終節まで9連勝を達成、大逆転劇につながりました。

2017年の展望

清水エスパルスが2016年に習得し、そして積み重ねた戦い方はJ1でも十分戦えるレベルのもの。同じく2017年にJ1復帰を果たす北海道コンサドーレ札幌、セレッソ大阪とくらべても、2016シーズンに得た、これまでのチームの弱点をカバーし、そしてさらに良さを活かす戦い方は2017シーズンの躍進を期待させるもの。そしてそれを率いる小林伸二監督の経験も大きな武器となるはずです。
また2016シーズンに最も苦労したポジションであるゴールキーパーにも日本代表にも選出された経験がある六反勇治選手を2016年12月に獲得。これは大きな補強となるでしょう。
しかしここまで期待できる陣容でしたが、2017年に入り、昨シーズンは右サイドバックで新境地を見せた三浦弦太選手、そしてさらにチームの大黒柱であった大前元紀選手がそれぞれガンバ大阪、大宮アルディージャへと移籍が決定。この2人の放出はチームにとって大きな痛手となる可能性もありそうです。
小林監督がこの2つの大きな穴をどの様に埋めるか。これが2017年のポイントになりそうです。