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世界のトレンドに最も近いゴールキーパー 西川周作

2017 8/17 16:20Aki
サッカー,ⒸSPAIA
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直接フリーキックを決めるゴールキーパー

大分県宇佐市に生まれた西川周作選手は、フィールドプレーヤーとしてサッカーをはじめるが小学4年生の時にゴールキーパーにコンバート。しかし中学生時代までの西川選手は、当時メキシコ代表の正ゴールキーパーとして活躍していたホルヘ・カンポス氏の様に、試合や時間帯によってはフィールドプレーヤーとしてもプレーするという、今で言うところの“二刀流”の選手だった。
中学時代のプレーで真剣にプロ入りを考えるようになった西川選手は、高校入学から大分トリニータの下部組織に加入。プロフェッショナルなゴールキーパーコーチによる本格的な指導を受ける事になる。
当時から西川選手が武器としていたのは、恵まれた身体能力と反射神経によるセーブだけではなく、中学時代までフィールドプレーヤーとしてプレーしていたキックの技術。
高校2年次のクラブユース選手権、アビスパ福岡U-18戦ではゴールキーパーでありながらも直接フリーキックを決めるという偉業を達成。Jリーグファンの間では大きな話題となる。

サンフレッチェ広島で本当の意味で足下のプレーを身につける

高校卒業後は大分トリニータのトップチームに昇格。昇格1年目に出場したワールドユースから帰国すると、経験あるベテラン選手からポジションを奪い取り高卒新人ながらリーグ戦21試合に出場。2年目からは背番号1を背負いチームの正ゴールキーパーとなる。
そして2010年にはサンフレッチェ広島に移籍。そこで監督を務めていたのは現浦和レッズの監督でもあるミハイロ・ペトロヴィッチ氏だった。
ペトロビッチ監督のサッカー自陣からでも徹底的にボールを繋ぐことを求めるサッカー。それにはゴールキーパーであってもフィールドプレーヤー同様にパスを繋ぐことが必要になる。ペトロヴィッチ監督はその為正確なキックの技術を持つ西川選手を必要としたのだ。
しかし、サンフレッチェ広島加入直後の西川選手は、当時からゴールキーパーとしてはずば抜けたキックの技術を持っていたものの、本当の意味でボールを繋ぐ事ができるゴールキーパーではなかった。
このペトロヴィッチ監督の下でボールを繋ぐ事を求められた西川選手は、持ち前の強い向上心でこのプレーをものにし、本当の意味でボールを繋ぐ事ができるゴールキーパーとなる。

ボールを繋ぐゴールキーパーとしてのプレー

1992年、FIFAが行ったゴールキーパーへのバックパスを手で処理する事を禁止するというルール改正は、ゴールキーパーというポジションだけでなくサッカーにおいても大きな変化だった。
これまではゴールキーパーにさえボールを返す事ができれば確実に手でボールを処理する事が出来たプレーが、このルール改正以降は足で処理しなければならなくなる。これは「相手選手がゴールキーパーからボールを奪う事ができるようになった」ということでもあり、ゴールキーパーに求められるスキルも変化することに。それまでボールをキャッチすることで作る事ができた時間は作る事ができなくなり、それまでのゴールキーパーに求められていたキックの技術は遠くへボールを飛ばせるかどうかだけだったが、以降はキックで正確に味方選手にボールを届けることが必要となったのだ。
このプレーに必要なのは正確なキックを蹴ることができるだけでは十分ではない。ゴールキーパーにまでボールを奪いに来るということは、どこか他の場所に必ず空いている選手がいる。その選手をプレッシャーをかけられている状態で素早く見つけ、そこにボールを送る。そしてそのためにボールをコントロールする。これら全てができてこそボールを繋ぐことができる。
西川選手はサンフレッチェ広島でこのプレーを身に着けたのだ。

西川選手の得意なボールを繋ぐプレー

2016年、浦和レッズで守護神を務める西川選手は、Jリーグ史上初となるゴールキーパーとして2試合連続でアシストを決めるなど大活躍。チャンピオンシップでは敗れてしまったものの浦和レッズの年間勝点1位に貢献、日本代表の正ゴールキーパーの座も確保する。
もちろんこのゴールキーパーとして2試合連続アシストはとんでもない記録であり、キックの技術が活きたものではあるが、ボールを繋ぐ事ができるようになった西川選手の本当に素晴らしいプレーはこのような一瞬の輝きだけでなく、毎試合コンスタントに見せるプレーの中にもある。
その代表的なものがバックパスから逆サイドの1つ奥、サイドアタッカーに送るパスだ。
浦和レッズでは西川選手にボールが渡ると、森脇選手や槙野選手が務める最終ラインの両サイドの選手はプレッシャーを受けにくい大きく広がるポジションを取る。しかし相手チームはそれを承知。その為サイドでプレッシャーをかけボールを奪おうと手を打ってくる。
しかしその時、西川選手は森脇選手や槙野選手のその1つ前、関根選手や宇賀神選手、駒井選手が務めるサイドのポジションまでボールを送る選択肢に加えることができる。
これができることで相手チームは簡単にプレッシャーをかけにいく事ができなくなり、浦和レッズはより有利な状況で試合を組み立てる事ができるようになるのだ。

それ以外の武器も身につけてきている西川選手

ここまでは西川選手の最大の武器であるキックを中心に書いてきたが、その武器であるキックに関してもここまでレベルアップする事ができたのは、高い向上心を持ち続けていたから。本当の意味で西川選手の最大の武器はこの向上心かもしれない。
そしてその向上心はもちろんキック以外の部分でも発揮されており、特にシュートストップでも大きな進歩を見せている。
西川選手は高校生の頃からシュートストップに定評がある選手だった。より世界レベルで戦う為にその技術をさらに磨こうと努力しているのだろう。相手がシュートを打つ前の準備のプレーでそれが顕著に現れている。
ゴールキーパーにはプレジャンプという動作がある。これは相手のシュートに対して素早く反応するために、シュートを打たれる直前に小さくジャンプすることで自分の体勢をリセットする動きのこと。元々西川選手はこの動きをよく見せるゴールキーパーだった。
しかし近年ヨーロッパのトップレベルでは、プレジャンプは一旦ジャンプしてしまう分、その間無防備となりタイミングを外されてしまう可能性があるため、プレジャンプを行わない対応が広がってきた。それを日本人ゴールキーパーでいち早く取り入れたのが西川選手。ジャンプすることなく身体を沈めるだけで体勢をリセットするトレーニングを続けることで、よりシュートストップに磨きがかかる事に。西川選手常には進化を続けている。