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闘将の存在感!2016シーズンの田中マルクス闘莉王を振り返る

2017 8/17 16:20芝田カズヤ
サッカーボール,ⒸSPAIA
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2016年の田中マルクス闘莉王

2016年1月、Jリーグから驚きのニュースが飛び込んできた。これまで日本代表として、またJリーグの広島、水戸、浦和、名古屋で中心選手としてその闘争心とディフェンダーながら得点を量産する攻撃力で活躍してきた田中マルクス闘莉王選手がJ1名古屋グランパスを退団するというものだ。
それまで6年間名古屋に在籍し、移籍1年目の2010年にはチームのJリーグ初制覇に貢献したチームの支柱と言える選手だった。そんな闘莉王選手は、2015年シーズン終了後に契約満了となる。チームは新たな契約を提示したものの年俸の大幅ダウンなどから事実上の戦力外であることがわかり、最終的にチームを去る決断をした。
別のチームからのオファーはあったが、契約には至らず闘莉王選手はブラジルへ帰国することを選んだ。しかし、それは現役を引退するというわけではなく、サッカー選手を続ける道を探しての帰国だった。しかもブラジルへの帰国は修行だと語り、再び日本でプレーすることを目指してのものだった。
そんな状況を経て後に、同年再び日本に戻ってくることになる闘莉王選手だが、そんな事態をそして名古屋グランパスの2016年シーズンを誰が予想できただろうか?

名古屋のチーム状況

闘莉王選手が退団した時の名古屋のチーム状況は大改革を図ろうとしている時期だった。チームは名古屋OBの小倉隆史氏を新たな監督にし、選手の大幅な入れ替えを行うことで、2016年のシーズンで優勝するために大きな変化を起こそうとしていたのだ。 1章で少し触れたが、闘莉王選手は年俸1億円ダウンでの新たな契約を提示されたと言われている。スター選手である闘莉王選手の高額な年俸はチームにとってネックだったのかもしれない。また、当時のJリーグはリーグ全体での収入が減っている時期で入場者数も少なく、各チームとしても人件費の削減などコストカットを行う必要があったのかもしれない。さらに闘莉王選手自身も怪我がふえるなどしていた状況もある。こういったこともあって改革を行う名古屋にとって事実上の戦力外となってしまった。

ブラジルに戻ったけれど…

日本を離れることになった闘莉王選手は、ブラジル1部リーグのクラブからオファーをもらい入団を目指していたが、条件面などで合意に至らず、結局入団することはなかった。しかし、日本を離れる時に引退は全く考えていないと語った通り、現役にこだわり続け、所属チームなしの状態で、ブラジルでは親族の営むガソリンスタンドなどを手伝いながらコンディションの調整を行ったそうだ。
ブラジルではサッカーを満足にすることができない状況が続くことになったが、プライベートでは幸せが訪れる。帰国後の2016年3月に地元ブラジルの女性と結婚を果たしたのだ。幸せ効果なのか、結婚からわずか5ヶ月で再び日本に戻ってくることになる。しかも戻るのは、1度は闘莉王選手を戦力外とした名古屋だった。

名古屋の低迷、そしてついに日本に戻ってきた

闘莉王選手を始めとする主力選手を放出し小倉新監督のもと大改革を図った名古屋は、2016年シーズンの開幕戦こそ勝利したものの、1stシーズンを4勝5分8敗という成績により18チーム中14位で終える。また、1stステージの第10節対横浜Fマリノス戦以降18試合連続勝利なしというクラブワーストの記録を残す。
そんな中で8月23日に小倉監督の休養と、ボシュコ・ジュロヴスキ新監督の就任が発表された。新監督の要請を受け、8月26日に闘莉王選手が窮地に立たされた名古屋を救うためについに再来日する。闘莉王選手の復帰が決まった時点のJリーグは2ndステージが始まっており、名古屋は、2分7敗の最下位に沈んでいる状況で、年間順位でもJ2降格が迫ってきていた。
ちなみに、復帰の要請を受けた時の闘莉王選手だが、結婚したばかりの奥さんが妊娠しており、翌月の9月に出産を控えているという状況だった。そんな状況でありながら名古屋への復帰を決めた闘莉王選手の強い思いと覚悟を感じることができる。

チームは息を吹き返すも…

闘莉王選手が復帰後の名古屋は調子を取り戻す。復帰後初の試合となった2ndステージ第11節対アルビレックス新潟戦でチームは1-0で勝利し、実に19試合ぶりの勝利を手にする。
その後も復帰後の4試合を3勝1敗とこれまでの不調が嘘かのように息を吹き返し始める。そして2ndステージ第14節終了時点ではJ1残留圏である年間順位15位までチームは浮上した。
しかし、残留圏浮上後の第15節対ジュビロ磐田戦を1-1で引き分け再び降格圏に順位を落とすと、続く16、17節で連敗を喫し、最後は年間順位で勝ち点は残留圏内のアルビレックス新潟と並んだものの、得失点差で下回り年間順位16位でクラブ史上初のJ2降格が決定した。
J2降格が決まった名古屋では主力選手が続々と移籍する。もともと復帰時の契約が2016シーズンのみというものであり、11月7日に闘莉王選手の名古屋退団が発表された。

「退団することにはなったが、グランパスを愛する気持ちは変わらない」

出典: 日刊スポーツ

1年に2度も名古屋を退団するという憂き目にあった闘莉王選手だが、その言葉からは、チームへの思いが伝わってくる。

闘莉王選手がチームにもたらすもの

結果としてはJ2降格が決まった名古屋だが、闘莉王選手復帰後は間違いなく息を吹き返した。そこには間違いなく闘莉王選手の影響があったと思われる。闘莉王選手がチームにもたらす影響とはどのようなものなのだろうか?
それは圧倒的な経験と闘争心だ。
闘莉王選手はこれまで、J1制覇(浦和、名古屋)、天皇杯制覇(浦和)、AFCチャンピオンズリーグ制覇(浦和)、FIFAワールドカップ出場など高いレベルでのサッカーを経験している。高いレベルで戦ってきたからこそ、様々な相手と対峙しており試合の戦い方を熟知しているものだと思われる。このような高い経験値はチームメイトに安心感を与える。実際にチームメイトは以下のように語る。

オーラがあるんだ。後ろにトゥさん(闘莉王)がいてくれるだけですごい安心感がある。僕からもっと話しかけていきたい

出典: livedoor NEWS

このチームメイトの発言からもわかるようにその存在がチームに好影響を与えているのだ。
そして、闘莉王選手のプレーを見たことのある人ならわかると思うが、気持ちを前面に出したプレーは闘莉王選手の特徴だ。ボシュコ・ジュロヴスキ監督は名古屋に復帰した直後の練習に参加した闘莉王に対して以下のように語っている。

「彼にはリーダーシップを期待している。彼はナチュラルなリーダーだ」

出典: livedoor NEWS

常に戦う気持ちを持ち、ブラジルで所属チームが決まらない時もいつ来るかわからない復帰に向けて黙々とトレーニングを行ったという闘莉王選手の強い闘争心はチームに士気を与えてくれたはずだ。
筆者もこれまでサッカーの指導を行ってきたが、チームとしての士気が高いときはこれはイケるという雰囲気になる。また、チームが集中して試合に臨むと格上の相手にも勝てることもある。
よくアスリートは集中力が高まるとゾーンに入るという表現がされることがあるが、闘莉王が復帰した名古屋も一種のゾーンに入ったと言えるかもしれない。

名古屋のフロントと闘莉王

「フロント力のないチームは落ちる」。久米社長は苦汁をなめ続けた1年間を振り返った。今季は「大きな変革とチャレンジ」を掲げた。指導経験がないにもかかわらず、地元では人気の高い小倉隆史氏に白羽の矢を立て、編成面から一貫してチームづくりができるようGMとの兼任監督に据えた。だが、大黒柱だった闘莉王の退団を招き、十分な補強もできなかった。守備が崩壊したチームは下降線の一途をたどった。7月にはサポーターが監督解任を迫ったが、親会社のトヨタ自動車側の意向と強化の現場とで意見がまとまらないまま、問題は8月下旬まで先延ばし。

出典: 毎日新聞

チームの勝敗は選手や監督だけでなく、チームを運営するフロントの力も大きく影響する。2016年の名古屋の大改革の背景にはフロントの意向もあったと言われている。
チームを運営するにはたくさんのお金が必要になるし、選手の年俸や移籍金など勝利を求めるためには大金をはたいて強化する場面も出てくる。一方でお金は無限にあるわけではないので、どこかで節約する必要もある。
今回闘莉王選手が1度目の退団をしたのもフロントの人件費削減の影響を受けたものだと考えられる。選手1人の力で全てができるわけではないが、闘莉王選手がシーズン開幕時からいたら…という考えをしてしまう人も少なくないのではないだろうか?
フロントのチーム運営の能力があればJ1に残留できたかもしれない、闘莉王選手の一件はクラブにおけるフロントの重要性を表しているように思えて仕方がない。
闘莉王選手は2度目の退団後ブラジルに帰国する際以下のように語っている。

今のグランパスを仕切っている人たちが何を考えているのかと思いながら、この何日かを過ごしてきた。どこに向かって走っているのか、本当に誰もが分からないまま、この状況が続いている。“また同じ失敗を繰り返すのかな”と、しみじみ感じてる

出典: livedoor NEWS

闘莉王の今後の展望

闘莉王選手は名古屋を退団するが、現役を引退するつもりはないようだ。

現役続行への思いが強まっていることを明かした。
 「また違った意味でやる気にさせてくれた。“だったらやってやろうじゃないか”という気持ちがある。もう一回、自分の中の火が炎に変わるような、また新たな挑戦しようじゃないかという気持ちにさせてくれている。今、本当にそういう状況だ。僕の人生にとって、日本はすべてに近いものがある。また日本で活躍している姿を届けられたらいいなと思う。帰って、ゆっくり考えて決断したい」

出典: スポニチ

これは2度目の退団が発表された後ブラジルに再び帰国する際に発した闘莉王選手の言葉だ。この言葉からは、現役への強い思いを感じることができる。また、実際にJリーグのクラブが獲得に動いているという話もある。 2016年は様々な事情に振り回されてしまいながらも選手として常に強い気持ちを持って最後の最後まで戦い抜いた闘莉王選手。
年齢を重ね怪我も見られるようになってきたが、その闘争心は今でも間違いなくJリーグトップクラスだ。サポーターとしては来シーズンも闘莉王選手の戦う姿を見たいと願っているのではないだろうか。
来シーズンの闘将・闘莉王に期待しよう。