厳しい環境で戦い抜いたGKたち
1カ月間世界を熱狂させた2018年ワールドカップロシア大会が閉幕した。今大会はVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の導入により、それまで見過ごされていたペナルティエリア内の違反行為が高い精度で、もしくは厳しくジャッジされた。その影響はグループリーグの早い段階から現れており、PK数の多さもさることながら、PKを取られることを恐れてセットプレー時のマークも甘くなってしまった。
結果、増えたPK数と合わせて、今大会ではGK自身の能力が試される場面が増えたと言える。
そんなGKに厳しい大会となったロシアでチームを上位に導いたGK達を紹介していく。
栄えあるゴールデングローブ、ベルギー代表GKクルトワ
ゴールデングローブ(最優秀GK)に選ばれたベルギー代表GKティボー・クルトワ。
”タランチュラ”の異名をとる彼のセービングはリーチがあり、守備範囲に穴がない。どこへでも長い手足が伸びるクルトワの守備力は、タレントの豊富なベルギーの最後の関門として多くのチームの前に立ちふさがった。
しかし、そんなクルトワはなんと攻撃時にも力を発揮する。印象深いシーンは劇的な逆転勝利を収めた日本戦だろう。試合終了間際のベルギーの鮮やかなカウンターは、このクルトワからスタートしている。
この時、左からのコーナーキックを蹴ったのは利き足が左の本田圭佑だ。クルトワはこのCKに対し、シュート性のボールは来ないと判断。パンチングではなく確実にキャッチすることを選び、カウンターの起点となるスローを選んでいる。
咄嗟の判断でGKでありながら攻守で活躍したクルトワ。ベルギーは3位に終わってしまったが、彼のゴールデングローブは誰もが納得するものだ。
安定感と正確性、フランス代表GKウーゴ・ロリス
優勝を決めたフランス代表GKのウーゴ・ロリスは、大会を通じて安定感があった。
ゴール前での落ち着き払ったポジショニングは的確で、準決勝のベルギー戦ではトビー・アルデルヴァイレルトの決定的なシュートをスーパーセーブ。美し過ぎるその横飛びのセーブは、ワールドカップの公式SNSからも賛辞が送られている。
決勝クロアチア戦の後半開始直後には、味方からの危ういバックパスを胸トラップでクリア。これも正確なポジショニングあってこその、素早い対応だった。
この試合2失点目は彼のプレーミスでもたらされたが、大会を通して最も信頼のおけるGKだった。
偉大なPKストッパー、クロアチア代表GKダニエル・スバシッチ
120分を戦う苦しい試合が相次いだクロアチア代表。そんなタフな試合ではフィールドプレーヤーだけでなく、GKダニエル・スバシッチもよく働いた。
決勝トーナメントのデンマークとのPK戦では、5本中3本のPKをストップ。その後のロシアとのPK戦でも1本をストップし、大会通算で4本のPKを止めてみせた。
この記録は西ドイツ代表だったハラルト・シューマッハー氏や、アルゼンチン代表だったセルヒオ・ゴイコチェア氏についで3人目となる。 ※前者は1982,86年大会で2本ずつ、後者は1990年大会で4本をストップしている。
偉大なPKストッパーの仲間入りを果たしたスバシッチは、これからも多くのシュートを止め勝利に貢献するだろう。
VARの導入は正解?GKの戦いは続く
ロシアワールドカップではVARが初導入され、セットプレーとPKの数が全大会から一気に増えた。
今大会セットプレーから生まれた得点は73点、これは全得点169点の約43%にも及ぶ。これまでは見逃されていたFKやPKが行われ、GKにとっては失点の可能性、そのプレッシャーと戦い続けた大会だった。
この流れはワールドカップに限らずリーグでも同様で、おそらくVARは今後のジャッジの柱になる。
GKにとっては厳しい状況が続くが、これをアピールチャンスに変えられるような新しい守護神の登場に期待したい。