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雌伏の時を乗り越えたサイドアタッカー 原口元気はW杯ロシア大会で成長の跡を記せるか【後編】

2018 6/19 07:00SPAIA編集部
原口元気,日本代表,Ⓒゲッティイメージズ
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献身的なスタイルに

6月19日にW杯ロシア大会で初戦を迎える日本代表。アジア最終予選では、日本代表史上初となる4試合連続ゴールを挙げた原口元気に活躍の場は来るのだろうか。

前編では、浦和レッズ時代に、苦しむ原口の姿を書いた。当時の彼は、攻撃には光るものがあったが、運動量があるタイプではなかった。2009年、当時J2湘南ベルマーレの監督だった反町康治は「原口よりも、山田直輝の方が面白いよな」と語っていた。山田は原口の一歳上のMF。豊富な運動量で日本代表にも選出されていた。

ところが今、原口のプレーの特長が語られるときに、こんな言葉が使われている。

「無尽蔵のスタミナを持つ」

2014年にドイツのヘルタ・ベルリンに移籍してからかもしれない。子どものころは、守備をしない、と揶揄された原口のプレーが変わってきた。

とにかく運動量が増えた。そして献身的に守備をする。かつての原口にはなかった「ハードワーク」が彼の代名詞になってきた。

その変化は、ドイツで生き残るためだったのか、それとも新たな自分を探した結果だったのかは、わからない。ただ、彼のコメントには気持ちの変化をみてとれた。

「誰よりも走って守備に貢献する。その後に、点を取ることを考える」

これは2017年シーズン前に原口が語ったものだ。ドイツのリーグ戦だけではない。日本代表での戦いを見ても、原口のプレーの変化はわかる。守備に顔を出して、相手の攻撃の芽を摘んだかと思えば、得意のサイドからのドリブルで中央へと切り込む。10代の時の原口に比べて、プレーの幅が格段に広がっている。

陸上の専門家に教えを請う

守備に対する気持ちの変化もさることながら、原口は走力をあげるために、サッカーとは無縁の指導者の門をたたいていた。筑波大陸上部で監督を務める谷川聡氏である。

谷川氏は陸上男子110メートル障害の日本記録保持者で、2004年アテネ五輪では準決勝まで進出した。その結果もさることながら、引退後は理論派の指導者として知られる。

原口は「走り出しのスピードを上げたい」「試合終了間際でも、全力疾走できるようになりたい」といったような趣旨のお願いをしたという。

そのための体の使い方を学んだり、バランスを修正したりした。原口といえば、左サイドが主戦場で、そこから中央にドリブルで切り込みながらシュートをするのが得意だった。でも、今では逆の右サイドもこなせるようになった。今回のW杯でも、右サイドの起用が濃厚ではないかと言われる。

以前とは違って、どちらのサイドからもドリブルで切り込めるようになったのは谷川氏の指導によるもの。そして、重心の移動をうまく使い、無駄な力を使わずに走れるようになったのも、その指導のおかげだろう。かつて、天才と称された少年は、成長する過程で貪欲さを身につけいった。

天性の足首の硬さ

原口のすごさは何なのか。少し陸上競技的な視点になるが、それは足首の硬さだという。それが彼のスピードに結びついている。 足首の硬さが、足の速さの絶対条件ではない。が、スプリンターの中には特別足首が硬い選手がいるのも事実である。 男子100メートルで日本人初の9秒台をマークした桐生祥秀(日本生命)もその1人。桐生はかかとをそろえて直立した姿勢からお尻をゆっくり下ろしていくと、そのまま座ることができず、後ろにひっくり返ってしまう。 足首が硬いと何がいいのかと言えば、接地した時に地面からより強い反発が得られ、スピードを得やすいのだ。原口がどこまで硬いかは不明だが、その硬さがドリブルのキレを生んでいると話す指導者がいる。 そして、世界的スターで足首が硬いのが、ポルトガルのFWクリスティアーノ・ロナウドだという。強烈なスピード、特に切り返しの時に人間離れしたキレを見せるロナウドだが、足首を固めたような動きが見て取れる。おそらく、意図的に固めたというより、生まれつきのものなのだろう。 さて、話を戻そう。格上ばかりの対戦となるW杯。高い位置から守備で貢献できる原口の存在は欠かせない。 プロデビューから約10年。彼が輝きを放つには少し時間がかかったかもしれない。しかし、雌伏の時を経て、原口は力を増した。泥臭さを手に入れた、かつての天才の成長をロシアで見せてほしい。