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日本サッカー縁の下の力持ち!指導者の心構え紹介

2017 8/17 16:20柴田カズヤ
サッカー 指導者
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日本サッカー進歩の背景

日本のサッカーはここ20年ほどで目覚ましい成長を遂げてきた。日本代表は、1998年ワールドカップフランス大会で、ワールドカップ初出場を果たすと、2014年に開催されたブラジル大会まで5大会連続でワールドカップ本大会に出場している。また、女子日本代表は2011年の女子ワールドカップドイツ大会で優勝するなど、日本サッカーは世界の中でも急成長を遂げていると言っても過言ではない。さらに近年ではヨーロッパのトップリーグのクラブに所属する選手も多数出てくるなど、随所に日本サッカーの発展を目にすることができる。
このような日本の進歩の理由は、選手のレベルが上がったからなのだが、その選手を育てた指導者の存在も忘れてはいけない。
指導者の成果については日本サッカー協会以下のように触れている。

(日本代表が)ワールドカップに出場することを当たり前のように感じ、世界で闘っている。これはつねに世界をスタンダードとし、各地域で、日々情熱とロマンを持ち続けながら活躍されてきた指導者の方々の、努力の成果だと言える

出典 書籍名:サッカー指導教本2012 JFA公認C級コーチ 著者:公益財団法人日本サッカー協会 出版社:公益財団法人日本サッカー協会


このように、日本のサッカーがさらなる発展を遂げるためには指導者の存在は欠かせない。では日本にはどのような指導者がいて、何人の指導者が指導を行っているのかご存知だろうか?

日本のサッカー指導者の数は15万人以上

日本サッカー協会の調査によると、現在日本でサッカーの指導に携わる指導者は15万人以上いると言われている。ちなみに、15万人という人数は東京の東村山市の人口と同じくらいになる。
日本サッカー協会では指導者として活動している人を協会に登録することで、指導者に情報発信を行っている。しかし約15万人の指導者のうち、約6万人は協会に登録を行っていないとされているほか、協会が把握できていない指導者もいると考えられ、15万人よりもさらに多くの指導者が日本で活動していることが予想される。
このような多くの指導者によって、日本のサッカーは進歩を続けているわけだが、指導者と一言でいっても様々なタイプの指導者がいる。
例えば、Jリーグのようなプロクラブを指導して指導によってお金をもらうプロの指導者から、教師として部活動の指導を行う指導者、ボランティアとして週末などに無償で指導を行う指導者まで多種多様だ。さらに指導者の経歴も本当にいろいろで、元プロ選手もいれば、サッカー経験がない人もいる。中には、子供がサッカーチームに入ったことがきっかけで指導者になる人もいる。
このように、経歴の異なるたくさんの指導者が、様々な形態のチームを指導することで日本のサッカーは発展してきたのだ。

指導現場の実態とは?

さて、ここまで日本の指導者の概要を説明してきたが、実際に現場ではどのような指導が行われているのだろうか?
先ほども説明した通り、日本代表や日本人選手が世界で活躍しているという点では指導者によって一定の成果を上げることができたと言える。
しかし一方で、望ましくない指導が行われているのも事実だ。

滋賀・野洲高校の教諭でサッカー部総監督(53)が監督時代の昨冬、全国大会出場のための遠征先で、酔った状態で部員の生徒に暴力をふるっていたことが、滋賀県教委への取材で分かった。

出典: 朝日新聞DIGITAL

このような暴力に関するニュースは未だに存在している。
また、勝利を目指すあまり、ベンチやピッチ外から指示を出し,選手の判断を奪うような指導や,選手に対して「次ミスしたら交代させるぞ」(指導者)という脅しに近いような声かけ,実際にミスした選手を交代させるといった指導も現場においては見られる。
このような指導実態に対して文部科学省も問題視しているようだ。

コーチがコーチングに必要な知識・技能を十分に習得しておらず、コーチングの意味や目的を十分に考えずに倫理的に認められない行動や不適切なコミュニケーションをとってしまったり、非合理的なトレーニングを行って競技者やチームのパフォーマンスを低下させてしまう状況がいまだに見受けられる

出典 書籍名:私たちは未来から「スポーツ」を託されているー新しい時代にふさわしいコーチングー 著者:文部科学省 出版社:学研パブリッシング


先述の通り日本では指導者として数多くの人が活動しており、実際に多くの選手の育成を行ってきた優れた指導者もいる一方で、指導者という肩書きだけで、十分な知識や技術を持たず、選手を自分の言いなりにするような指導者がいるのも事実なのだ。
では、指導者にとってはどのようなことが大切なのだろうか?

サッカー経験があればいいというわけではない

「サッカーの知識や技術がないのはサッカー選手の経験がない指導者なのではないか?」、「選手の経験があれば指導はできる」と思う方は多いかもしれない。しかし、これは必ずしも正解ではない。
確かにサッカーの選手経験があるに越したことはない。しかし、「名選手名監督にあらず」という言葉があるように指導者は選手とは別物なのだ。
具体的にどのような点が違うのかというと、大きな点は、「時代は変化するもの」ということだ。自分が選手だった時と指導者をやっている今現在を比べてみてください。何年が経っているだろうか?時代の流れによって選手のタイプは変わってくるのだ。

文部科学省は2006年度、専門家らのグループで子どもの「基本運動のリスト」を作成し、(中略)子どもたちに「基本的な体の動かし方」の指導をする、という計画を示している。こうした計画が実行されるのは、(中略)走る、投げる、跳ぶといった、基本的な運動動作自体がおかしくなっている、という現実があるからだ

出典 書籍名:少年スポーツダメな指導者バカな親 著者:永井洋一 出版社:合同出版


このように、子どもを例にあげてもその体力や運動能力は変化している。サッカーにおいても同様で選手の運動能力が変化していることが予想される。
選手の特徴が変わると自分が選手の時に受けた指導をそのまま今の選手にしても効果がない可能性がある。もちろん数多くのメニューを知っているということは指導においてマイナスに働くことはないので、選手時代の練習メニューが悪いというわけではない。
ただ、目の前の選手に適しているかどうかということはしっかりと考える必要がある。選手時代に受けた指導をそのまま行うことが指導者の役割ではない。
選手経験があることが指導者をする上で絶対条件というわけではないと言える。
では逆に選手経験がない指導者はどのような点に注意することが必要なのだろうか?

サッカー経験がなくても指導はできる

選手経験が指導者における絶対条件ではないと言ったが、経験があることはアドバンテージになる。一方でサッカー経験のない指導者の方は指導者としてのスタート時点では経験者に比べ知識、技術ともに劣るのでまずは知識と技術を身につける必要がある。
練習メニューに関しても当然何も知らないところから始めるので、おそらく本やDVDなどを見て真似するところから始めることだろう。
真似をすること自体は悪いことではない。むしろ何も知らない状態から指導を始める場合、大いに役立つはずだ。
ただし、真似をする際に注意して欲しいのは、そのまま真似をしていいのかどうか?ということだ。これは4章で触れた「選手時代の練習をそのまま行っても意味がない」ということ類似している。
例えば本に「20m四方のコートで行う」練習メニューがあったとしても、自分が指導する選手にとっては20m四方が大きすぎる場合もあるし、狭すぎる場合もある。大切なのは、自分の指導する選手にとってどうすることが最も適しているのか?ということを考えることだ。
自分が指導する選手の特徴や能力をしっかりと把握し、選手に適した練習ができれば、例え最初は真似だとしてもいずれは必ず自分で考えて指導をすることができるようになるはずだ。それができればサッカー経験がなくても指導者はできるのだ。

指導者が陥りやすい罠

指導を行っていると上手くいかないことはたくさん出てくる。それはどのようなことが原因なのだろうか?
原因は様々なので、1つに絞ることはできないが、ここでは指導者が指導時に陥りやすいポイントを紹介したいと思う。それは「自己満足の指導」になっていないかどうかということだ。
例えば、目の前の試合に指導者である自分が勝ちたいがために、試合中にベンチから選手の動きをいちいち指示していないだろうか?勝ちたいがために上手い選手だけしか起用していたりしないだろうか?
指導の目的は選手を育てることだ。もちろん試合に勝利することも大切なことだ。しかし、試合は選手を育てる大きな機会になる。
時事刻々と状況が変わる試合において次に自分がどう動くかということを考えることは、自分で考えて判断する機会になるかもしれない。上手くなくても試合に出られればもっと上手くなろうというモチベーションになるかもしれない。
指導者の自己中心的な振る舞いによって指導者自身が気づかないうちに選手が成長するチャンスを奪ってしまうということはよくある。自分のためではなく選手のための指導だということをしっかりと認識しておこう。
また、普段の練習においても同様だ。練習を複雑にして選手が混乱していないだろうか?長々と話をしていないだろうか?
難しい練習を行ったほうが上手くなれるのではないか?と思ってしまうが、大切なのは何度も言うが、選手のレベルにあった練習を行うことだ。
また、練習中に気になったことをあれもこれもと喋っていては、選手は何をすればいいのかわからなくなる。大切なのはプレーヤーズファースト、選手のことを第一に考えてあげることだ。

指導者も成長しなければならない

今の日本のサッカーを作り上げてきた背景の1つに指導者の存在があったことは間違いない。また、今現在も指導を行う指導者の方は日本のサッカーを支える重要な存在だ。
しかし、日本のサッカーが、選手が進歩をし続けているように指導者も常に進歩し続けなければいけない。
完璧な練習や完璧な試合というのはないので、常にその日の活動を振り返り次に活かしていく必要がある。それは、代表監督であっても、プロの指導者であっても、部活の指導者であっても、ボランティアの指導者であっても同じことだ。
日本サッカー協会は指導者の考え方として以下の言葉を紹介している。

学ぶことをやめたら教えることをやめなければならない

出典 書籍名:サッカー指導教本2012 JFA公認C級コーチ 著者:公益財団法人日本サッカー協会 出版社:公益財団法人日本サッカー協会


これは元フランス代表監督のロジェ・ルメール氏の言葉だそうだ。この言葉に代表されるように、指導者は、日々変わっていくサッカーに対して常に学ぶ姿勢を持って知識と技術を磨いていかなければならない。そういったことの積み重ねが明日の世界で活躍するサッカー選手を生み出すのだ。
また、松下幸之助は指導者の条件として以下のように語っている。

努力する 指導者は徹底した努力こそ成功の要諦であることを知らねばならない

出典 書籍名:[新装版]指導者の条件 著者:松下幸之助 出版社:PHP研究所


当たり前のことのように思えるが、実は意外と難しいことなのかもしれない。努力の継続が良き指導者への道となるはずだ。
ぜひ、選手のために常に学び続ける熱意を持って指導に携わってください。