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リーチマイケル「小さい者でも勝てる」ラグビーW杯へ日本代表主将が語る

2019 1/1 06:00四家秀治
リーチマイケル,ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

ついにW杯イヤー到来 リーチマイケルが心境を語る

年が明けた。ついにワールドカップイヤーである。

12月17日にはラグビーワールドカップに向けた日本代表第三次ワールドカップトレーニングスコッド38人と、ナショナルデベロップメントスコッド(将来日本代表に選出される可能性のある選手)18人が発表され、ワールドカップ直前のテストマッチの日程も決定した。

日本代表キャプテン、リーチマイケルは年末には生まれ故郷のニュージーランドへ、そして年明けは、母イヴァさんの祖国でもあり、今は父コリンさんが暮らすフィジーで過ごし英気を養う。まさに、「戦士、つかの間の休息」である。

2018年暮れ、所属する東芝で多くの記者団に囲まれたリーチマイケルは現在の心境を大いに語った

日本のラグビーが下に見られるのが嫌だった

―オフをフィジーで過ごそうと思ったのはW杯前にリフレッシュ、エナジーチャージというようなことですか?

そうです。新年を母国ニュージーランドで迎えるのは14年ぶり、フィジーの奥地で過ごすのはそのあとです。2017年にも行きました。家族も一緒です。電気も水道もない森の中、サバイバル生活です。ストレスのないところ、大自然の中です。2月に帰ってきますが、サンウルブズの試合も春の8試合は出ない予定です。

―改めてですが、そもそも、リーチさんが日本代表の選手になって試合に出たいと思ったのは?

15歳から日本に来て、日本の選手はとても上手だと思いました。そして、僕は日本(札幌山の手高校)でラグビーを学びました。でも、日本のラグビーを下に見ている外国人がとても多かったんです。

僕はそれがとてもいやで、代表の資格ということではニュージーランドもフィジーもあります(ニュージーランド代表もフィジー代表も目指せた)が、それなら小さいかもしれないけれど、上手な選手が多い日本の代表になって大きな選手の国に勝ちたい、日本を強くしたいというような気持ちで日本代表を目指しました。ラグビーについては、僕は日本で育ってきたわけですし。

リーチマイケル,ⒸSPAIA

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―W杯2大会連続の日本代表のキャプテンになると思います。1回経験(W杯自体は2回経験)しているのは大きいと、以前話されていましたが、外国出身の選手として、また、他にもたくさんいる外国人をどのようにまとめようと考えていますか?

前回のW杯キャプテンを経験しているのはもちろん大きいです。勝つために試合前の1週間をどう過ごせばいいか?勝つための準備は?そしてピーキングの持って行き方など、それは2015年W杯での大きな財産です。 元々、プレッシャーはあるほうが好きで、キャプテンはやりたかったです。そしてキャプテンはチームの中で一番強くなければいけない。

外国人選手については、誰も特別扱いはしません。何のために日本代表のジャージを着るのか。パッションを大事にします。

僕自身は、本をよく読みます、月に1冊ぐらいのペースで。侍の文化なども含め日本人について学んでいます。最近では2018年春に出版された総合格闘家の三﨑和雄さんが書いた「覚悟思考」です。日本人としての心の持ち方を教えてくれました。覚悟の決め方ですね。

世界一トランディションの速いチームに

―W杯に向けて、どのようにチームを作っていきたいですか?

チームのスタンダードは4年前より上がっています。そして、コーチから言われるままにやるのではなく自分たちで考えてプレーについて指摘し合ってやるようになってきています。

HCがジェイミー・ジョセフに代わってからキックを使う攻撃が多かったですが、もっとボールを持ってアタックするオプションを増やしたいとも思っていて、それはオフェンスコーチのトニー・ブラウンとも話し合っています。

そして、昨秋のニュージーランド、イングランドとのテストマッチでも感じましたが、動き出しの速さ、トランディション(攻守の切り替え)の速さですね。判断力、予測が大事。相手の目の動きなどからもっと早く察知できるようになることです。

もう少しのところまで来ていると思うのですが、これはいくらトレーニングしても身に着けられるものではありません。それがチームとして一番大事で一番の課題です。それからタックル後、すぐ起きることなど、以前から言っているようにとにかくトランディションの速さは世界一にしないといけないです。

リーチマイケル,ⒸSPAIA

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―第三次トレーニングスコッドも発表されました

真壁伸弥、立川理道など長く一緒にやってきたメンバーの名前がないのは寂しいですが、まだチャンスはあると思います。発表されたメンバーでサンウルブズも含め、一つのスタンダードを作り上げていきたいです。

―現在の日本代表メンバーで相談しやすい選手はいますか?

う~ん。困ったときは前回W杯代表のメンバーだった廣瀬俊朗さんに連絡しています(笑)

―パシフィック・ネーションズカップで7月から8月にかけてフィジー、トンガ、アメリカと、そして9月6日には2015年W杯以来、南アフリカとの4年ぶりの対戦も決まりましたが、W杯前のこの日程についてはどうでしょう?

W杯直前に南アフリカとできるのはいい準備になると思います。この試合で自信をつけて本番に臨みたいです。W杯直前だからけがをしないように気をつけて、などと考えては絶対だめです。

パシフィック・ネーションズカップの1試合目、フィジー戦は震災で大変な被害にあった釜石でやります。スポーツの良さは観ている人に勇気を与えることだと思っているので、今まで分が悪いフィジーが相手ですが、勇気を与えるような試合をしたいです。

目標はベスト8ではない

―W杯予選プールの戦い方は?

具体的なものはまだないです。開幕戦の相手であるロシアについては、昨年11月に大苦戦しているので、大事だと思います。11月の戦いでは「本番ではボーナスポイントを取って勝つ相手だから」ぐらいの気持ちが僕自身にもあったと反省しています。

そういった緩みはチーム内にもありました。ロシアと戦う前に「勝てるだろう」というような気持ちを選手の誰もが持ってはいけないことを経験できました。本番ではロシア戦の前に、誰もが「勝てるだろうなどというような気持ちになっていないこと」が大事だと思います。

2戦目のアイルランドは、はっきりいってW杯優勝を目指せるぐらい強いですし、3戦目のサモアは大きくてパワーがある。4戦目のスコットランドももちろんアイルランドと同じように強いチーム、BKも大きいです。

一つ特徴的なのが、4チームとも、大きくてパワーでくるというようにタイプが似ていますので、対策は立てやすいということがいえると思います。日程的にも試合の間隔は空いていて助かります。W杯ベスト8進出が目標とよく言われますが、僕自身としては「ベスト8が目標」という表現は好きではなくて試合は一つ一つ全部勝っていきたいと思っています。

―最後に、W杯を通じて日本の子供たちに伝えたいことがあれば

小さい者でも大きい者に勝てる、そんな姿を見せたいですし、それを見て学んでほしい。

日本出身選手もヤマトダマシイを

今まで日本に帰化したラグビー選手はリーチマイケルを含め、もうざっと数えても30人以上はいる。帰化しなくても日本代表にはなれるし、日本出身選手以上のヤマトダマシイを感じさせてくれるパフォーマンスを示してくれた選手も今までたくさんいた。カタカナ表記の新たな日本代表はおそらくこれからも絶えることはないだろう。

しかし、リーチマイケルはその中でも、すでに歴代1、2を争う名選手になっている。そして、インタビューの中でも言っているように「日本人が外国人から下に見られているのがいや」「大きな外国人を倒して勝つ」という思い、日本人の魂を強く持ち、ラグビーだけでなく日本人がスポーツで常に克服しなければならない体格の壁に対しても強いチャレンジスピリットを口にしている。

15歳で日本にやってきたばかりの頃、大きいほうだが巨体というほどではなく、ニュージーランド出身としてははっきり言って並みの外国人選手に過ぎなかったマイケル・リーチ少年。初め、日本語もわからず、どうやったらラグビー選手として成長できるかを日々自分で考えて努力した。

その一つがまずは少しでも身体を大きくすることだった。そのためにやったことは毎日寝る前に食パンにバターを塗ってそれを1斤分、15分くらいかけて食べることだったという。ウエイトトレーニング、体幹強化にも余念はなく、スクワット、デッドリフトなどで日々身体を鍛え、大きくした。

それでも東海大学入学時は、身長186㎝、体重92㎏。日本人でもこれぐらいのFLやナンバー8はいくらでもいる。それが現在は190㎝、110㎏、筋肉質のたくましい身体になった。

「今も年々いろいろな個人データの数値は上がっている」と明言しているようにフィジカル、スキルは30歳になった今も進化し続けている。これでもティア1国のFW3列に比べれば小柄なほうだ。その“小柄な選手”が、日本人の女性と結婚し2013年には日本に帰化して名前をリーチマイケルに変え、昨秋のイングランド遠征では鬼神のごとく暴れまくった。

多くの日本で生まれ育った日本代表選手は、彼の姿勢から大いに学んでほしいし、外国出身の日本代表選手にもリーチマイケルに負けないパフォーマンスを期待せずにはいられない。