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【スポーツ×スタジアム】第4回 地方都市の新スタジアムの考察②

2018 12/7 15:00藤本倫史
地域スタジアムⒸShutterstock.com
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愛媛県今治市の事例

前回は、ミクニワールドスタジアム北九州について述べた。今回は、より都市規模が小さいJFL所属FC今治の本拠地「ありがとうサービス. 夢スタジアム」である。

私は2016年から、FC今治の「バリチャレンジユニバーシティ」というスポーツビジネスや地域活性化を目指す学生向けのイベントに関わっている。ファシリテーターも務めたという縁もあり、このスタジアムの動向を追っている。

愛媛県今治市にあるスタジアムは、JR今治駅から南西に約5km、瀬戸自動車道今治ICに近接する丘陵地にある。今治新都市開発の一環として第一地区内にスポーツパークがあるのだが、その中に建設されている。

2017年8月に建設されたこのスタジアムは、吹田スタジアムと同じく税金を使われていないことが特長。土地は今治市が無償提供を行い、建設費の約3億6000万円は地元企業が施主となり、J3の加盟条件である5000人収容のスタジアムを作り上げた。

この建設には、日本サッカー界に多大なる影響を及ぼした元日本代表監督の岡田武史氏が大きく関わっている。2015年、岡田氏がFC今治のオーナーに着任したことで、クラブ経営が劇的に変わったのだ。

地域とクラブの課題解決

その大きな変化がスタジアム建設である。今治市は人口約16万人。前回の北九州市は約94万人の政令指定都市であり、都市規模としては圧倒的に小さい。しかし、このような都市にもサッカー専用スタジアム建設は可能であり、今治市も新都市の活性化に期待している。

やはり、どこのスタジアムもキーワードは多機能と複合化であり、それにつながるのが地域活性化である。今治市も岡田氏のブランド力を活用し、スポーツで活性化を願っている。FC今治も行政のバックアップは心強く、行政との連携が無ければ、地域密着型のクラブ運営は成り立たない。

だからこそ自治体は、スポーツをどういった位置づけでまちづくりに活用するのか、プロスポーツクラブは自治体とどう連携を結び、重要なステークホルダーとして向き合うのかを明確にしなければならない。

今治市の新都市も、このスタジアムやイオンモールなどを招致し賑わっているが、今治駅周辺の中心市街地には波及していない。また、FC今治も今期のJ3昇格には惜しくも届かなかったが、将来的にJ1昇格を目指すのであれば、15000人以上が収容できるスタジアムが必要となる(現在はスタジアムと同じ敷地内のスポーツパークに建設する構想を持っている)。

このような地域とクラブの課題を双方で共有し、解決するWIN-WINの関係を成立させなければならない。理由は、どちらとも地域の人たちを豊かにすることがミッションであるからだ。

スマートスタジアムとして

このスタジアムも開設当初にスマートスタジアムとしてNTTと連携し、Wi-Fiの利用をしやすくし、スタジアム内でしか視聴できないWEBサイトの立ち上げやデジタルサイネージの限定映像やARを使ったサービスなど先進的な取り組みを行っている。前述した、アメリカカリフォルニア州にあるリーバイススタジアムもスマートスタジアムとして有名である。

このような取り組みでスタジアムの話題作りをし、クラブだけでなく地域の話題につなげるような好循環を続けていくことが必要なのだ。現在のクラブ勝敗だけでは、いずれ集客することが難しくなる。

今後もスタジアムについては、全国で様々な建設議論が行われていくだろう。建設と運営に必要不可欠なものは、地域とクラブの課題解決をしていくスタジアムを創造することではないだろうか。

《ライタープロフィール》 藤本 倫史(ふじもと・のりふみ) 福山大学 経済学部 経済学科 講師。広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社を経て、プランナーとして独立。2013年にNPO法人スポーツコミュニティ広島を設立。現在はプロスポーツクラブの経営やスポーツとまちづくりについて研究を行う。著書として『我らがカープは優勝できる!?』(南々社)など。