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【スポーツ×スタジアム】第2回 スタジアムとクラブ運営の難しさ①

2018 11/2 18:00藤本倫史
【スポーツ×スタジアム】第2回スタジアムとクラブ運営の難しさ①,ⒸShutterstock.com
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優勝争いをしているのに観客動員数が低い理由

前回、現在のスタジアムの潮流について説明した。今回は私が研究を進めるサンフレッチェ広島と広島のスタジアム問題について述べていきたい。

ここ7年間で3回もリーグ優勝するほどの強豪クラブであるサンフレッチェ広島。現在も首位争いをしており、青山や佐々木を日本代表に輩出するほどの名門チームだ。だが、9月終了時点でホーム平均観客動員数が1万4千人を下回り、残留争いをした昨年度よりも集客は落ちており「勝っているのに観客数が伸びない」という問題が起きている。

Jリーグが発表しているホーム観戦者意識調査では、2012、2013年と地域貢献をしているクラブの評価が1位であるため、経営努力をしていない訳ではない。クラブのマスコットサンチェをSNSなどでPRし、マスコットランキング1位の人気キャラへ仕立てることや、タイの英雄ティラーシンを獲得し、タイへの観戦パックを企画するなど努力をしている。

ただ、クラブが目標としている平均1万5千人を維持することは難しい。この大きな理由としては、スタジアムの問題があるのではないだろうか。

スタジアム問題が長引く広島

現在サンフレッチェが利用している広島市立広島広域公園陸上競技場(エディオンスタジアム広島)の立地は郊外型で陸上トラックがあり、運営も市の外郭団体が行っている。そもそも1994年のアジア大会招致のために作られたスタジアムで、その後の活用を安易に考えていたため、様々な問題が起きている。

まずは、立地とアクセスの問題だ。市街地中心部や主要駅から非常に遠く必然的に車利用が多くなる。しかし、近隣の開発により駐車場が少なくなり確保が難しくなる。そうすると、渋滞や公共交通機関の不便さから客足は遠のく。さらに、スタジアムに行くまでにある坂は、高齢者や障がい者の方にとっては妨げとなる。

次にスタジアム設備の問題。陸上競技場と兼用なのでピッチから遠く、20年以上大改修を行っていない。そのため、イスを始めとする設備が老朽化しており、ビギナーの観戦者にとっては非常に厳しい観戦環境だ。

また、スタジアム周辺の総合運動公園は広島市が管理し、運営は市の外郭団体が行っているため、柔軟なスタジアム運営ができない。

このようなことから、クラブや関係者は早くからスタジアム新設に動きを見せていた。まず、スタジアム新設については、2002年の日韓ワールドカップの試合開催やキャンプ誘致失敗から動きを見せる。(これは前回述べた京都の事例と同じ動きを見せている)

ここで市民やサポーターに対し、試合観戦環境が悪いことが明るみになり、新スタジアム建設へ経済界や行政を含めて話し合うことになった。

スタジアム建設の意義

1つポイントとなるのが、まちなかスタジアムやビジネスをする場所ではなく、郊外へ巨大なスタジアムを建設することが主流ということだ。前回も述べたように、今のスタジアム建設の意義は全く変わってきている。

市民やサポーターには建設費が多く掛かる巨大なスタジアムを作るという意識がまだ残っており、都市郊外型の大規模施設のイメージのままである。このイメージをどうやって変えていくのかが重要だ。

このイメージが抜けないまま、クラブや行政等が2003年にスタジアム推進プロジェクトを設立するが、市が財政問題を理由に06年に休止。あきらめきれず2009年にクラブやサッカー協会の要望に応じ、スタジアム推進プロジェクトを再開。そして最大のチャンスとなったのが2012年。

県サッカー協会・サンフレッチェ広島・同クラブ後援会が、建設要望書を県および市に提出した。この年、クラブは史上初のJリーグ優勝をする。さらに2013年も連覇を成し遂げる中、クラブ等が369,638件の建設要望署名を集め県市に提出を行い、スタジアム建設の気運が高まった。

ようやく行政側も重い腰を上げ、県・市・商工会議所・サッカー協会でサッカースタジアム検討協議会設置した。しかし、建設候補地も絞れないまま協議会は終了し、この動きが鈍くなる。この動きが鈍くなったことを懸念したクラブ側も動き、2015年にクラブの前々社長がスタジアム整備推進を掲げて広島市長選に立候補したが落選した。

現在、実現の可能性を探るべく、県と市で調査を行っているが具体的な動きになっていない。これが、広島市の一連の流れである。前回、述べた京都の事例もそうだが、スタジアム建設には多大なるエネルギーと課題を乗り越えなければならない。

このスタジアム建設問題について、次回も詳しく分析していきたい。

《ライタープロフィール》 藤本 倫史(ふじもと・のりふみ) 福山大学 経済学部 経済学科 講師。広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社を経て、プランナーとして独立。2013年にNPO法人スポーツコミュニティ広島を設立。現在はプロスポーツクラブの経営やスポーツとまちづくりについて研究を行う。著書として『我らがカープは優勝できる!?』(南々社)など。