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【スポーツ×ツーリズム】第4回 スポーツツーリズムの可能性②

2018 10/5 15:00藤本倫史
スポーツ×ツーリズム
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ふくやまマラソンと地方都市の可能性

前回は、福山市を事例にスポーツツーリズムの可能性について述べた。今回は、福山市で開催されている「ふくやまマラソン」から、地方都市の可能性について分析したい。

ふくやまマラソンは今年で37回開催されており、日本陸上競技連盟公認コースである。コース設定としては、ハーフマラソン、10km、5km、3km、2.5kmコースおよびウォーキング4kmコースがある。参加料はコース・年齢により異なるが1,000円~3,000円に設定されており、参加者は約7,500人である。

参加者は福山市民が多く、域外からの参加はほとんどない。このような状況から市民マラソン型の類型化を研究で行った。

市民マラソン型の大会は全国各地に多くあり、ふくやまマラソンのように地域に根付き、参加者も7,500人いればいいが、歴史も無く、ブームにのり、作った大会は運営に苦しんでいる傾向にある。

また、ふくやまマラソンもスポーツツーリズムの観点から大会近くに飲食店の出店や、応援イベントなどの開催、域外の参加者のために旅行会社とともに1泊2日の宿泊プランを作っている。ただ、そのような努力はあまり経済効果や域外からの参加者増加には結びついていない。

やはり、このようなスポーツイベントとスポーツツーリズムを結びつけるときに、重要なのはコンセプトとターゲットである。

これを意識しないとイベントの効果は上がらない。無論、市の税金を使っている大会なので、老若男女幅広い世代に楽しんでもらうことは大切かもしれないが、裏を返せば、特徴の無いイベントになってしまう。そうなるとイベント自体の魅力が薄れ、市民の人たちも参加しなくなってしまう。

競技性が高いものか、ファンランと言われるようなエンターテイメント性があり特産品やスイーツが食べられるようなものなのか、ターゲットをシニアにおくか子供におくか、どこにするかで、マラソンイベントのコンセプトも変わってくる。ここのコンセプトとターゲットを、ふくやまマラソンのような市民マラソン型の大会もはっきりさせることが重要である。その上で前述したような周辺イベントや宿泊パックも充実させ、広告代理店や旅行会社と連携をし、それを売りに域外の経済効果を上げて、黒字の大会にする。

もちろん、福山市民の人たちが徹底的に楽しめる完全なる域内のイベントでもいいのではないかと考える。福山市民だけが参加でき、より大会コースの細分化をして、参加費を抑える。また、市民が要望するイベントや特典を住民サービスとして行う。そうすると参加者の満足度が高く、結果的に大会が赤字でも説明ができる。

私が考えるに、地域の効果を出すためにはマネジメントの基本である、決断すること、いわゆる取捨選択をしっかりすることが、これからのスポーツツーリズムに必要であると考える。

マラソンにおける地域活性化

同じ中核市の愛媛県松山市で開催される、えひめマラソンでは競技性を高め、フルマラソンにして2016年には約1,000人の参加で4.8億円の経済効果がある。スポーツツーリズムを意識し、観光型にしている沖縄県那覇市のNAHAマラソンは約26,000人の参加で19.8億円の経済効果が出ている。

ゆえに、福山市の市民型マラソン大会を開催している地方都市は、現在の実施状況を改めて、調査検討してみる必要があるのではないか。

ただ、これは繰り返しになるようだが、経済効果の推計による数字を比較するだけでは意味がない。その地域やイベントに何の意味を持たせ、どんな効果を出したいのか。それは域外の経済効果なのか、域内のコミュニティ醸成なのか、そこを決断しないとイベントの継続は難しくなる。

そのキーワードがスポーツツーリズムではないかと私は考えるし、このキーワードをより深化させることで、地域活性化の一つの手段になるのではないかと考える。

《ライタープロフィール》 藤本 倫史(ふじもと・のりふみ) 福山大学 経済学部 経済学科 講師。広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社を経て、プランナーとして独立。2013年にNPO法人スポーツコミュニティ広島を設立。現在はプロスポーツクラブの経営やスポーツとまちづくりについて研究を行う。著書として『我らがカープは優勝できる!?』(南々社)など。

【参考文献】
藤本倫史、藤本浩由、南博「中核市におけるスポーツ振興の現状と課題」『日本都市学会年報』 vol.50、pp.109-117、2017
藤本浩由、藤本倫史「中核市におけるマラソンイベントの経済効果推計の意義と課題」『日本都市学会年報』vol.51、pp.277-283、2018