「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

【スポーツ×IT】第3回 スポーツとAIはどこまで進化するのか?①

2018 5/13 15:00藤本倫史
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AIの監督とコーチの誕生?

前回、スポーツ×ITの可能性と課題について述べた。この回では、スポーツ×ITの将来的な展望に大きく影響する、スポーツとAIの可能性について分析していきたい。

現在、スポーツとAIが一番活用されているのは、競技力を上げる分野である。選手であれば、プレーの質を上げるために打球方向やフォームのチェックなど最適なトレーニング方法などを導き出す。監督であれば、各試合のボールの行方や選手の動きなどをデータ化し、各選手の客観的な能力を把握する。また、審判もビデオ判定による高度なジャッジが可能になる。このような競技力を上げる部分でAIの導入が始まっている。

そして、これらの行きつく先が、AIの監督とコーチの誕生ではないか。これまで、ITを活用した競技力向上の分野で課題となっていたのが、分析力と決断力である。

これまで、ITを活用して導き出したデータは、人間が分析と決断を行ってきたが、AIを導入することによって圧倒的に短い時間で同様のことが可能になる。瞬時に選手やチームに合わせた最適解を客観的に導き出し、提案することができる。そうすると、これまでにない戦略や戦術が考えられ、選手のパフォーマンスを上げることができる。

それはスポーツの高度化を推進することになるだろう。そうなるとこれまで身体能力が高いことや経験が重宝されたスポーツ界が、スポーツが苦手でもITスキルを身につけたアスリートや指導者の方が活躍する世界になるかもしれない。それは色々な部分で可能性を広げることになる。

AIの監督とコーチの壁

ただ、どんなにすごいアイディアや回答をAIが出しても人間が応えられるのかという壁が出てくる。つまり、選手や監督がAIについていけないことが予測されるのだ。

この問題はすでに他の分野でも出てきている。例えば、チェス、将棋、碁などのような頭脳スポーツでは、人間にAIが勝つことが当たり前になっている。だが、その勝っていくアイディアやプロセスを含めた新たな戦略や戦術が人間には理解できないことが多々見受けられる。

だからこそ、AIが勝つのだが、それを理解、実現する能力がないと実行に移すことができない。例えば、ピッチャーに対して初球からボール球を続けた方が、このバッターを打ち取れるとAIが判断し指示する。人間側に、そのようなセオリーが無い場合、疑問が生じてしまう。また、そこにボール球が投げられるかという技術的な部分も出てきてしまう。そもそも、人間は感情や感覚を完璧にコントロールすることができない。それらに加えて、人間とAIのコミュニケーションの問題も出てくるだろう。

このような部分をバランスよく調整し、壁を打ち砕いたとき、スポーツとAIはとてつもない化学反応が起きるだろう。

AIのゼネラルマネージャー

それでは、プロスポーツクラブの経営や運営についてはどうか。ゼネラルマネージャーの章でも書いたが、辣腕を振るっているアメリカのゼネラルマネージャーも脅威に思っているだろう。理由としては、現在のスポーツ界はデータに支配されているからである。

選手獲得はもちろんのこと、来場者予測、グッズの開発、スタジアムの設備、イベントの企画、どれもデータをもとに経営を行っている。さらにバックオフィスと言われる経理や人事もITの技術が進んでいる。

こちらも分析や決断は人間が行っているが、これらが全部、AIが実行できるようになったときに、時代が変わる。無論、人間のマネジメント力は欠かせないし、それを凌駕するのは難しい。ただ、AIにしかできないマネジメント構造が創造できた時に、AIのゼネラルマネージャーが生まれる。

競技面と経営面どちらとも、AIのリーダーに代わる時代は少しかかりそうだが、人間をサポートする重要度は益々、上がってくる。現にアメリカでは、野球経験の無いビジネスマンがプロスポーツクラブの経営をし、ワールドシリーズ優勝に導いた。ひと昔前では考えられなかった。

だが、時代は変化する。だからこそ、未来は予測がつかない。ここまで、競技面と経営面に対して、私はもう一つ注目したいのが、スポーツメディアである。この分野は間違いなく、スポーツの分野ではAIの導入が進んでいくだろう。このスポーツメディア×AIで先進的な活動を行っているのが、本サイトのSPAIAである。

次回はSPAIAの取り組みを紹介し、スポーツ×ITの締めくくりとしたい。

《ライタープロフィール》
藤本 倫史(ふじもと・のりふみ) 福山大学 経済学部 経済学科 講師。広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社を経て、プランナーとして独立。2013年にNPO法人スポーツコミュニティ広島を設立。現在はプロスポーツクラブの経営やスポーツとまちづくりについて研究を行う。著書として『我らがカープは優勝できる!?』(南々社)など。