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サンタナからナダル、カレノブスタへ。スペイン選手が強い理由

2017 11/10 12:24跳ねる柑橘
ラファエル・ナダル選手
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スペインテニスの強さの秘密を知ろう

スペインは世界的に見てもテニスが盛んな国だ。各地にテニスアカデミーが設けられ、スペイン国内だけでなく世界中から有望な子供たちが集まっている。日本人選手のダニエル太郎選手も拠点はスペインのバレンシアだ。

多様な人材を集めて国内テニスを盛り上げることが出来ているのは、大先輩から現在のトッププレーヤーへと受け継がれてきたスペインテニスの文化と歴史があるからだ。
現在の選手についてだけでなく、過去にどのような選手が活躍してきたのか、その秘密はどこにあるのか、そして各選手を追うだけでなく、スペインという国としてのレベルを見ることで、スペインのテニスをより深く知ることができるだろう。

現代のスペインテニスといえばこの人

スペインを代表するテニス選手といえば、もちろんラファエル・ナダル選手だ。2017年10月25日現在キャリア通算でシングルス75勝をあげている彼は、ご存知の通りクレーコートの大会にめっぽう強い。

全仏オープンで10回、グランドスラムに次ぐマスターズ1000に該当するモンテカルロ・マスターズで10回、BNLイタリア国際(通称ローマ・オープン)で7回、そして母国スペインで行われるATP500のバルセロナ・オープンで10回という驚異的な優勝記録を誇る。

このすべてがクレーコートなのだから、赤土の王者という異名が付くのも頷ける。もっともクレーコート以外のサーフェスが苦手というわけではなく、あらゆるサーフェスでタイトルを勝ち取り続けている。

ランキングにはスペイン勢が男女で12名、女子筆頭は新女王候補

10月24日付のATP、WTA各ランキングで、トップ100に男子が9名、女子が3名ランクインしている。特に男子はフランスの10名に次ぎ、アメリカと並び2番目に多い選手数だ。ベテラン勢だけでなく、カレノブスタ選手ら次世代も実力をつけてきている。

女子では2017シーズンに一度はWTAランキング1位の座についたガルビネ・ムグルサ選手がいる。彼女もまたクレーコートを得意としており、全仏オープンでの優勝経験を持つが、彼女もウィンブルドン(グラスコート)やW&Sオープン(ハードコート)でも優勝するなど、オールラウンドで活躍している。
ムグルサ選手に注目が当たりがちだが、ベテランのスアレスナバロ選手もトップ50の常連で確かな実力を持っている。

ナダルだけじゃない、連綿と続くスペインテニスの系譜

スペインは以前から偉大なテニス選手を輩出する国として知られている。1960年代にはのちにテニス殿堂入りを果たしたサンタナさん、70年代には通算33勝を誇るオランテスさんが活躍。80年代末からはマルティネスさんとサンチェス・ビカリオさんがコンビで女子テニス界に旋風を巻き起こした。

モヤさんは2017年現在ナダル選手のコーチについているが、90年代には選手としてATPランキングNo.1に輝いた。同時期に活躍したコレチャさんは後輩のフェレーロさんらと共に2000年のデビスカップでスペインに初優勝をもたらした。
その後もロペス選手やベルダスコ選手、フェレール選手らが活躍。彼らと同世代のナダル選手、その後に続くムグルサ選手の活躍はすでに書いた通りだ。能力の高い選手をコンスタントに輩出し続けていることがわかるだろう。

スペインにクレーが多い理由は気候

先にあげた選手の多くが全仏オープンを初めクレーコートで沢山のタイトルを獲得している。ヨーロッパの中でもスペインはクレーコートが多い国だ。
このサーフェスは他のサーフェスに比べて持久戦になりやすい一方で足腰への負担が軽く、スタミナや下半身の強化に最適。強靭な選手が多く育った理由がここにありそうだ。

クレーコートといえば全仏の舞台ローランギャロスが代表的だが、スペイン国内でも赤土のコートが主流だ。一方でイギリスではクレーコートがほとんどない。また日本でもオムニコート(人工芝)とハードコートが主流で、クレーコートはそう多くはない。
その理由は気候にある。イギリスや日本は雨の多い国として知られ、土のコートは管理が難しい。一方でスペインはヨーロッパの中でも一年を通して好天が多い国で、土のコートであっても管理がしやすいのだ。

赤土の原材料にも秘密が

フランスやスペインでも雨は降る。
しかしそれをものともしない秘密が、赤土の材料にある。フランスやスペインのクレーコートに用いられる土は、実はレンガを砕いたもの。現代でこそテニスコートに使用されるレンガは特別製だが、もともとは古くなった家屋に使われていたレンガを砕いて砂状にしたものを、テニスコートや公園に撒いていたのだ。

レンガ由来の土は水持ちが良いため少量の雨であれば試合続行への影響が少なく、降雨の少ないスペインでは最適な素材。ただしプレー内容には影響が出る。乾いていると球足は速くなり、土が濡れるとぐっと遅くなる。
こうした環境の変化に適応できる力が問われるため、不慣れな選手は実力を発揮できない一方で、慣れ親しんでいるスペインの選手はすぐに対応できる強みを持っている。

男子は2000年代に一世を風靡

スペインという国レベルで見ても、世界レベルでも優れた成績を残している。国別の成績を見る上で欠かせないのが、国別対抗戦のデビスカップとフェドカップだ。
デビスカップではこれまで5回優勝を果たしているが、そのすべてが2000年以降だ。個人レベルではトップクラスの選手を何人も生み出してきたスペインだが、総合力を手にしたのはこの頃からといえるだろう。

2000年の初優勝時には伝説的選手の一人フェレーロさんがけん引し、続く04年はそこにモヤさんとナダル選手が加わったことで総合力がぐっと上昇した。08年、09年、そして11年にはフェレール、ベルダスコ、ロペスという3選手が中軸に入ったことで、スペインチームとしても強豪へと成長したのである。

女子は90年代に無敵を誇った

フェドカップを戦う女子チームを見てみると、こちらも5回の優勝を誇るがそのすべて90年代だ。(91, 93, 94, 95, 98)
90年代といえばマルティネスさんとサンチェス・ビカリオさんが活躍した時期だが、スペイン女子テニスの黄金期はまさにここだった。フェドカップでの5回の優勝全てが、マルティネスさんとサンチェス・ビカリオさん2人がもたらしたのだ。

1998年の決勝ではマルチナ・ヒンギスさんとパティ・シュナイダーさん率いるスイスを破っての優勝だった。だが徐々にこの2人の衰えが見え始めると、2000年大会決勝ではアメリカに5-0と完敗。
以来優勝から遠ざかっている。2017年のチームはエースのムグルサ選手の実力が1人飛びぬけており、女子チームは総合力の強化が課題となっている。

コンスタントにトップ選手が生まれる土壌がある

見てきたように、スペインは安定した気候によりクレーコートが普及し、それによってタフな選手を多く輩出するテニス強国となった。かつてトップに上り詰めた人たちがコーチとして自国の選手に勝者のメンタリティを継承している。また地理的にもフランスやイタリアなどの強豪国に陸続きで近いため、ジュニアの段階で遠征がしやすく、国際経験が積めることも強みだろう。
ベテランとなったナダル選手の活躍はもちろん、カレノブスタ選手、ムグルサ選手と有望な若手、中堅選手もそろっている。新星が出てくる期待も大だ。今後もスペイン勢に注目していきたい。