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函館は"特異な競馬場" 函館スプリントSを予想する上でのポイントは?

2019 6/12 11:00SPAIA編集部
レース後の馬群Ⓒ三木俊幸
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Ⓒ三木俊幸

近年は荒れる傾向にある函館スプリントS

夏競馬の始まりを告げる短距離重賞として親しまれてきた函館スプリントS。直線の短い小回りコース、しかも開幕週の施行となればスピードを最大限に生かせる舞台である。スピード値に重きを置いた能力比較に、枠順の有利不利を加味すれば、簡単に予想のつきそうなレースとも思えるのだが…。

過去にはGⅠ馬ビリーヴや、キンシャサノキセキが圧倒的な1番人気に応えて勝利を飾っている(キンシャサノキセキは当時、高松宮記念2着からの参戦だったが後にGⅠ制覇)。

だが、2011年のカレンチャン以降は、1番人気馬は勝利から遠ざかっており、波乱の重賞としても定着しつつある。これは函館競馬の持つ特異性に加えて、函館スプリントSというレース自体がマイナーチェンジし続ける歴史にも起因しているものと思われる。

難解な一戦を読み解く一助になればと、その傾向を少し掘り下げて考えてみたい。

函館競馬場は特異なコース

1994年の創設から第3回までは札幌競馬場で行われていた函館スプリントS(名称は札幌スプリントS)。当時の北海道競馬は札幌、函館の順での開催であったが、それが入れ替わることによって、函館へと変更され現在に及ぶ。

ではなぜ、大都市であり集客力の見込める札幌競馬の方が、実績馬が夏休みをとることで関心度の低くなる北海道競馬の始まりに置かれていたのであろうか。

それは気候の問題に依るところが大きい。北海道の南端に位置し、本州の影響を受ける函館に比べ、北海道の中心部にあって冬場の積雪量も多いのが札幌。芝の育成技術が追いつかない時代の札幌競馬は、長くダートのみで行われていた歴史を持つ。

冬場にも強い洋芝の導入や、水はけの問題など様々な技術開発によって、ようやく札幌競馬場にも芝コースが設けられることとなり、現在の北海道競馬=洋芝で時計を要する競馬という図式が定着することとなる。

さらにもうひとつ突っ込んで考えておきたいのが、同じ北海道競馬として、ひとくくりにされることは多いが、函館競馬場と札幌競馬場では微妙に競馬の質が違ってくるという点。その差異は様々ではあるが、ここでは短距離戦に直結するという意味で、コースの違いについて考えてみる。

向正面を走る馬の姿が、札幌より近くに感じられるのが函館。すなわちコーナーへの進入角度がよりタイトになり、スピードに乗ってしまうと膨れてロスの生じる危険性を伴うということだ。

実際、芝、ダートコースのさらに内側に設けられた調教用のウッドチップコースで、調教に騎乗する厩舎スタッフの間では、慣れるまでの期間、「4コーナーで減速してしまう」などという声は多く聞かれる。

東京、京都、現在の中京など、いわゆる〝大箱〟と呼ばれるコースで戦ってきた人馬にとっては、このタイトなカーブの攻略が大きなポイントとなる。増して先述した通りに本州の気候の影響を受ける函館では、梅雨の開催となるこの時期、週末に関わらず雨の降ることが多い。降雨量の多い年度には、寒さに強くても耐久性に乏しい洋芝が一気に荒れてしまうこととなり、パワーを要する競馬に拍車がかかる。

このように単純なスピード比較では図りづらい部分があり、軽い芝で実績を積み上げてきた人気馬たちが、丈の長い洋芝にからめとられたかのように減速してしまうのが、函館スプリントSなのかもしれない。

アスターペガサスは先駆者となれるか

それでは対策として最も有効とされる戦略とは何か。近年の傾向からみても活躍が目立つのが斤量の軽い3歳馬。クラシックに参戦したものの距離適性に泣いた牝馬や、3歳同士では適当な番組のなかった快速馬たちが目標とするには打ってつけの重賞である。

小回りとしてはタフとなりがちなレースにおいて、斤量差が大きな利点となるのは当然であろう。しかし、直近に組まれた3歳限定の葵Sが重賞へと格上げされたことで、昨年は3歳馬の参戦が皆無。このデータは使いづらいものとなった。

では、馬場適性を頼りにしてみたいところだが、夏休み期間が短くなったことで、函館、札幌の開催期間もそれぞれ短縮。それまでの函館スプリントSは、先に行われたオープン特別、青函Sの結果を参考にその年の傾向や、それぞれの適性を探る手段もあったが、期間短縮に伴って開幕週へと移動。

さらに2017年のようにジューヌエコールが1分6秒8という、それまでの函館競馬では想像もつかないようなレコードを叩き出す高速馬場なら、データ分析派にとってはお手上げ状態といったところか。

しかし、その年に4着に沈んだGⅠ馬セイウンコウセイが、翌年に1分7秒6で巻き返しの勝利を飾ったことからも、2017年だけは芝の生育時に何らかのアクシデントが生じた特異なケースとみるべきかもしれない。

セイウンコウセイはダートでも勝ち鞍を挙げ、道悪の高松宮記念を制した、どちらかと言えばパワー寄りのスプリンター。さらには極端に斤量の軽い3歳馬のライバルがいなく、最内枠からハナを主張することで逃げ切りを果たした。同枠で先手争いが予想されたダイアナヘイロー(9着)とは、経験値と力を要する馬場に対する適性で優位に立った勝利とも思えた。

こう見ると、やはり函館競馬はパワーを有するタイプ、そしてセイウンコウセイのようにその下地を血統に持つ馬が有利との見立てが正解に近いと思われる。

ただし、軽い馬場で行われた直近の成績が不振でも、ガラリ一変を見込める競馬場であることも念頭に置いた予想が求められる。経験値の高い人馬が内枠に入ればその信頼性は高まるし、スピードに乗り切れない馬が内枠から先行するような展開なら、外枠からノーブレーキで運べる馬や斤量の軽い馬が台頭する。

今年、注目したいのは3歳馬アスターペガサスの参戦。言わずと知れた昨年の函館2歳Sの覇者であり、適性においては古馬相手にもヒケをとらない。ただし、葵Sからの北海道遠征は、通常の常識ではタイトに思えるローテーションであるのは間違いない。

しかし、馬場保全の技術と競い合うように、輸送での馬の負担も軽減されつつある昨今の事情。この遠征が成功するようなら、来年以降もこれに続く馬が現れるに違いない。