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【天皇賞・春】今年の前哨戦は参考にならず 重視するのはあのレース

2019 4/24 11:10SPAIA編集部
馬群,Ⓒ三木俊幸
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Ⓒ三木俊幸

天皇賞・春の価値の推移

古馬の頂点を決める最高峰のレース、天皇賞・春。その名称が示すように、日本の競馬史においても長い伝統を誇るGⅠとして歴史を重ねてきたが、近年そのレベルの低下が指摘されている。

これは3200mという距離体系が、スピード優先へと移行していく近代競馬の進化にそぐわないことに起因するものであり、2017年に2000mの大阪杯がGⅠへと昇格したことで、ますますこの傾向に拍車がかかると予想される。実際、2018年はレインボーラインがGⅠ初制覇を果たし、今年のメンバーを見渡してみてもGⅠ馬は菊花賞馬のフィエールマンのみという状況だ。

抜けた馬がおらず、混戦模様の今年の天皇賞・春。前哨戦を振り返ることで、紐解いてみよう。

横山典騎手のうまさが光った阪神大賞典

阪神大賞典は、長距離戦としてはまれに見るハイペースだった。前半にきつい負荷のかかったラップ構成が、レース全体に及ぼした影響が大きいとなれば、その着順をそのまま実力差と鵜呑みにすることはできない。

これはハナを主張したサイモンラムセスに、2番手のロードヴァンドールがペースを落とすことを許さずプレッシャーをかけ続けたことで生じた展開である。ラスト1ハロン、13秒4要したように究極のスタミナ勝負では、スローな流れからの持久力戦を得意とする現代型のステイヤーは持ち味を発揮できずに敗退。

道悪で有力馬の切れ味が削がれることを予測して、自らハイペースを演出し、レースを支配した横山典騎手の手腕はさすがであり、ロードヴァンドールは3着と好走。長距離戦においては騎手の技量を重要視するべきだと、改めて認識させられる結果となった。

武豊騎手が1番枠を最大限に生かして日経賞を制覇

日経賞も騎手の技量がさえ渡るレースとなった。

武豊騎乗のメイショウテッコンはレース前半と道中を絶妙のペースで落とし込み、早めにスパートして、後続の追撃を封じ込んだ。トリッキーと言われる中山の2500mで、有利な1番枠を最大限に生かす方法を熟知する第一人者の武豊騎手だからこそできる芸当であった。ゲートの課題がクローズアップされ、後手に回ると走りが違ってくるタイプのメイショウテッコンを勝利に導いた技には惚れぼれする。

対してこのペースに力んでハミをかんでしまったことが、最大の敗因となった2着のエタリオウ。一言に逃げの作戦といっても様々な手法があり、ここでの武豊騎手は後ろが微妙に折り合いを欠くものの、あえて前をかわしにまでは来ないであろうという微妙なペース配分で出し入れすることで、自身に有利となるだけではなく、後方に構える有力馬の長所までも消し去ったのである。

菊花賞が天皇賞・春と合致?

名手2人がレースを支配した主要な前哨戦の2つの結果は、そのままGⅠへとつながるものではないと考えるべきであろう。展開ひとつで様相がガラリと一変する長距離戦となれば、データを重視するべきは同コースで行われるレースであり、類似した状況にあったレースならさらに信頼性に足りる。

その点で、ダービー馬ワグネリアンの参戦がなく、戦前は主役不在の混戦と評されていた昨年の菊花賞が、今回の天皇賞・春と最も類似性のあるレースではないだろうか。

極端なスローペースにも、勝利へ色気を見せる各馬が牽制しあったことでレースは動かず、実質ラスト2ハロンの競馬。いわゆる、究極の瞬発力勝負が展開された。ギアチェンジの速さ、抜群の切れ味を生かす、いかにもディープインパクト産駒らしい性能の高さを示す形でフィエールマンが勝利した。

今年の天皇賞・春も主役不在の混戦ということで、ジョッキー心理の駆け引きにより、ゆったりとしたペースで流れる可能性は極めて高い。さらに前週の京都開催の傾向から、高速馬場での決着が予想されるとなれば、菊花賞で上位を占めた4歳勢が主力を形成する見立てで間違いなさそうだ。

長距離戦の価値

このままレベルが低下していけば、天皇賞・春はその価値までも落としてしまうのか。

どの馬が最も速く走るのかや強さを競い合うだけの競馬ではつまらないと感じることもある。セパレートコースを走ってタイムを競い合う陸上競技の短距離走とは異なる側面を持つ競馬では、マラソン競走のようにライバルの調子や仕掛けのタイミングを探り合う、駆け引きこそが醍醐味となる。

あわよくば弱者が強者を食ってしまうことだって起こり得る。昨年、優勝したレインボーラインはゴールへ飛び込んだところで故障を発生して下馬。まさに死力を尽くす走りで悲願のタイトルを奪取し、現役生活から退いた。

そして今年は有力候補とされていたシャケトラが、1週前追い切りでアクシデントに見舞われ、その命を散らした。長距離の争いがトレンドではなくとも、そのG1タイトルに懸ける執念はいまだに命がけのものであるなら、これからも優勝盾は輝きを放ち続けるに違いない。