「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

桜花賞は4年連続で単勝1倍台の馬が敗戦 「前評判」に縛られない予想が大切

2019 4/3 11:00SPAIA編集部
馬群,Ⓒ三木俊幸
このエントリーをはてなブックマークに追加

Ⓒ三木俊幸

断然の1番人気が4年連続敗戦

春の訪れとともに、本格的な競馬シーズン到来を告げるクラシック第一弾、桜花賞(GⅠ 芝1600m)。

競馬ファンならずとも、世間の注目を集める大レースであるが、一筋縄では収まらない波乱の決着をみることも多い。牝馬限定の2歳GⅠ・阪神JFや王道のトライアルとされるチューリップ賞と全く同じ舞台で行われるレースであるなら、前哨戦で得られたデータが如実に反映されそうなものだが…。

1番人気での勝利はチューリップ賞を勝って臨んだ5年前のハープスターまでさかのぼる(そのハープスターも阪神JFは2着に敗れている)。

また、阪神JFの勝ち馬がだいたいはもらう賞である2歳女王(JRA賞・最優秀2歳牝馬)の優勝は、実に9年前の3冠馬アパパネ以降、成し遂げられていない。これは由々しき事態が起こっているのであろうか。改めて近年のレースを振り返ることで考察してみたい。

それぞれの敗因は明確だが…

波乱の印象を強めているのは、混戦とされるレースではなかったにも関わらず、大本命馬が勝てなかったことに因るところも大きいであろう。

ルージュバック、メジャーエンブレム、ソウルスターリング、ラッキーライラック。近4年、俗に言う〝飛んだ〟とされる1番人気の馬たちは(馬券圏内は確保したソウル、ライラックには失礼な話だが…)、軒並み単勝オッズ百円台の圧倒的支持を集めていた。

ルージュバックは予測不能の超スローペースに対応できず、もまれ込んで末脚不発に終わった。メジャーエンブレムは持ち前のスピードを生かす競馬ができずに敗戦。逃げなかったことでルメール騎手に批判が集まったことも記憶に新しい。

ソウルスターリングは雨の影響が残る馬場で、いつもの伸びが見られなかったことが敗因とされる。そしてラッキーライラックは、単にアーモンドアイが強すぎただけのこと。

それぞれの敗因は明確で、その後にGⅠ、GⅡを勝っていることからも(ラッキーライラックはこれからの活躍が待たれる)、1番人気に推したデータに基づく見立てに誤りはなかった。しかし、戦前の見解には少々の違和感も生じる。

勝ち方をのみ示し続けたデータの豊富さに注意

これらの大本命馬、4頭中3頭に共通する事柄は、当然のようにそれまで負けていなかったこと。あとの1頭、メジャーエンブレムはアルテミスSだけ2着に敗れているが、それがなぜだか負けて強しと評価されていた。

勝ち方をのみ示し続けたデータの豊富さに目を奪われ、他の出走馬の動向や傾向の変化に気づけなかった側面がありはしないだろうか。

その4年を振り返ってみると、2015年の桜花賞は、「タフなGⅠを乗り切るには1800m以上の距離経験があれば有利」というデータがあり、その上きさらぎ賞(1800m)で牡馬相手に後方一気で勝ったならルージュバックはただものでない。と考えられて、断然の一番人気に推されるが、レッツゴードンキに競りかける馬がおらずスローペースの逃げにやられた。

その残像が残る翌年は、スピードの絶対値が違うと、メジャーエンブレムの逃げ切りとの見方が大勢を占めた。しかし逃げない、いや、逃げられなかったと言った方がいいかもしれない。今思えば、阪神JFではハナを切ったキリシマオジョウが3コーナーで外へと逸走したため、労せずしてハナを切る形となっただけである。皆が長い直線を意識する東京ならば何とかハナを切れるが、そもそもダッシュがない上、テンに仕掛けると力んでラストが甘くなることはアルテミスSの結果でジョッキーはつかんでいたはずである。そこを皆が考えていなかった。

ソウルスターリングにおいては、パドックを注視する方々の多くが、阪神JF、チューリップ賞と比べて、その雰囲が微妙に違ったことに気づけたのではないだろうか。テンションの扱いに腐心を続ける現状のソウルスターリングの姿を、関係者、ライバル陣営が見ていたのは事実である。血統的に父母あわせてGⅠをいくつ勝ったという数字や、怪物の子は怪物に違いないと、あおりやすい環境にあったことで、早熟である可能性に言及されることはなかった。

そして昨年。今となってはアーモンドアイが最強馬であることに誰もが異論を唱えるはずはないが、当時はラッキーライラックに準じる2番人気であった。休み明けでぶっつけとなる王道から外れたローテーションが嫌われてのものだが、牡馬相手の重賞勝ちという戦績を重ね合わせて、3年前のルージュバックでさえ敗れたのだから難しい、という論調もあったと記憶している。

桜花賞の重みがじゃまをする

レッツゴードンキが勝利した2015年、桜花賞終了直後の検量室。歓喜に湧く陣営、関係者は別にして、全体に重苦しい空気が漂っていた。

〝どうしてこんな競馬に?こんな超スローペースになってしまったのだ〟

言わずもがな、それぞれの表情はそういう風に読み取れた。重い口を開いたジョッキーの一人が、最後に漏らした言葉が本音ではなかっただろうか。

「動くに動けなかったんです…」

それがGⅠの重みであるなら、人気を背負うであろう成績の馬が、さらに競馬の形を限定されるという重圧を負うのかもしれない。しかし近年の成績を受けて、「1番人気、2歳女王に信頼は置けないデータがある」との風潮が大勢を占めれば、その傾向は一気に覆るものであるとも考えられないだろうか。

メジャーエンブレム、ソウルスターリングで苦汁を味わったルメール騎手はアーモンドアイで鬱憤を晴らした。 お手馬で2年続けて2着に甘んじていた池添騎手は初騎乗のレーヌミノルで一発回答を出してみせた。

ルージュバックで勝てなかったが、桜花賞での敗戦が糧となり、昨年のブラストワンピース(08年有馬記念馬)やアーモンドアイ(08年3歳牝馬三冠馬)の活躍に結実した育成牧場だってある。

ぜひ、前評判に縛られることなく、伝統ある桜花賞の過去へと目を凝らし、新たな歴史を築く今年のレースに想いを巡らせようではないか。