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最後に執念の騎乗を魅せたブロンデル騎手 競馬記者が見た競馬場の景色

ブロンデル,ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

カメラマンの一日は忙しい

うれしい、悲しい、悔しい。競馬場で取材を続けていくと、毎週違ったドラマに遭遇する。それら全てを写真に収めているカメラマン達がどのような流れで仕事をしているのか、ご存知だろうか。

芝コースでレースが行われる場合、出走馬がパドックから返し馬に向かったところから撮影が始まる。しかし実際には、返し馬が行われる前に撮影スポットへ移動し待機してレースへと向かっていく各馬を撮影する。

そしていよいよレースの撮影となる。ゴール前の約100m手前からシャッターを押しはじめ、ゴールを通過するとすぐに次の場所へと移動していく。検量室前に向かうカメラマンもいれば、ウィナーズサークルで口取り写真を撮影するカメラマンもいる。口取りが終われば、もうすぐに次のレースの返し馬が始まる。この繰り返しで、カメラマンには休んでいる暇はほとんどない。

最終週に初勝利 おまけに波乱の立役者に

そんな合間に出会ったある騎手のエピソードを取り上げたい。それはフランク・ブロンデル騎手だ。彼は1月5日から2月25日までの約2か月の短期免許で来日したが、他の外国人騎手と比べるとお世辞にも大活躍とは言えなかった。

パドックでのブロンデル,ⒸSPAIA

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有力馬に騎乗するも、出遅れや早く勝ちたいという焦りからか、ちぐはぐな競馬が続き1か月経っても勝利はゼロ。もともと笑顔が弾けるような性格ではなかったが、週を追うごとに険しい顔つきとなっているように感じた。ファインダー越しでも「撮らないでくれ」と言わんばかりの殺気を感じるほどだった。

このまま勝てずに日本を去るのかと多くの人が思っていた最終週の土曜日に、彼はついに勝利した。ゴール前は5頭が横並びとなる大激戦となったが、執念でもぎ取ったハナ差だったと言えるだろう。しかし、それだけでは終わらなかった。

迎えた最終日、筆者は勝つ可能性があるのは7レースのレッドイリーゼだけだろうと思っていたが、10レースのブラッドストーンSで大きなドラマが待ち受けていた。なんと単勝140.1倍の15番人気のブラックジョーを勝利に導いたのだ。WIN5の払戻金は歴代最高となる4億7,180万9,030円……。最後にとてつもなく大きな衝撃を残して日本での騎乗を終了した。

最後は笑顔で

ウィナーズサークルでは笑顔が溢れ、夫人とともに口取り撮影に臨んだ。

ウイナーズサークルでのブロンデル,ⒸSPAIA

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実は東京競馬場の検量室前で、何度か不安そうな顔をしながら歩いている金髪の女性を見たことがあった。その時はブロンデル夫人だとは知らずにその女性を見ていたのだが、きっと不安な気持ちでいっぱいだったのだろう。 勝利した後に「おめでとう」と声をかけるとうれしそうに「ありがとう」と言葉を返してくれた彼女は、勝利後のブロンデル騎手と同様に別人のようだった。

ウィナーズサークルに駆けつけた競馬ファンからは、「ブロンデルおめでとう!」と大きな声援が送られ、時間をかけて丁寧にサインしていた姿が印象に残り、最後の最後でファンの心をつかんで離さなかった。最初は少し冷めた目で見てしまっていたが、少し不器用ながらも折れそうな心と葛藤していた姿は、まるで自分を重ね合わせて見ているようだった。