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人気馬よりも実績馬を信頼するGⅠ フェブラリーS

2019 2/12 15:00SPAIA編集部
馬群,ⒸSPAIA
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2003年の優勝馬ゴールドアリュールの存在

現在、中央競馬で行なわれているダートGⅠ競走は、12月のチャンピオンズC(前身はJCダート)と2月のフェブラリーSの2つのみ。前者がネーミングや開催場などの変遷を経て試行錯誤の段階にある中、1997年にGⅠへ昇格してからも、ブレることなく条件を変えずに幾多の名馬を輩出してきたフェブラリーSの方が、よりダートの頂上決戦と呼ぶにふさわしい歴史を重ねてきたように思える。

その要因の一つとして挙げておきたいのが2003年優勝馬ゴールドアリュールの存在(当年は中山1800mでの開催)。芝でもダービー5着の実績を残してはいたが、ダートに転じて大活躍。のど鳴りを発症したことで早期に引退したものの、サンデーサイレンスの血脈が生産界に溢れて種牡馬競争が熾烈さを極める中、その雄大な馬格とパワフルな走りを受け継いだ産駒はダート界を席巻している。エスポワールシチー、コパノリッキー、そしてゴールドドリームがフェブラリーS優勝馬に名を連ね、種牡馬として大成功を収めている。

古くから日本競馬は芝のクラシック競走を頂点とし、芝で走ってこそ評価に値する体系を取ってきた。芝で芽の出なかった馬がダートに転じ活躍しても、クラスが上がるほど出走できるレースは限られるようになり、やむなく芝に戻って苦戦を強いられる。

それは繁殖に上がっても同じであり、〝ダート血統〟と声高に叫ぶと購買価格は低くなり、〝ダートでも走れる血統〟と呼ばざるを得ない風潮は蔓延していた。それだけにこれからの将来、王道ともいえるゴールドアリュールの血脈が日本競馬のダート界の中心を担い、発展させていくことは非常に意義深いものと思われる。

力を発揮しやすい競馬場ではあるが…

フェブラリーSの価値を高めている要因をもう一つ挙げるとするならば、東京競馬場で行なわれるという点だろう。紛れが少なく、力通りの決着を見る大箱。ダービー、天皇賞・秋、JCなど芝のビッグレースが行われているように、やはりダートでも頂上決戦にふさわしい場所は東京競馬場であるべきだ。

実際、人気に沿った決着が多いことはその歴史が示している。コパノリッキーが最低人気で勝利した2014年は特例であり、翌年に連覇を成し遂げたことからも単に能力を見誤っていただけのこと。ただ、人気を集めている実績馬の信頼度は高いものの、細かく着順を見ると微妙なズレが生じている点には触れておく必要がある。

各競馬場の特色として、距離によっては芝地点からのスタートとなるダート競走が存在する。その一つがフェブラリーSの行なわれる東京のマイル戦。芝では最もポピュラーな距離としてもいいが、中央競馬全場でダートのマイル戦が行なえるのは東京競馬場のみ。そしてその攻略が実は厄介なのである。

東京コースのダート1600mは厄介なコース

長い直線を逃げ切るのは至難の業、その通りだと言えよう。では長い直線を生かした一気の追い込みが決まりやすいのか?意外にそうとは限らないのが、この条件の難しさである。芝スタートで一気に加速した各馬は200m通過あたりまでポジション争いを繰り広げ、一般的なレースならコーナーに入ってペースが落ち着くか、ゴチャつくかで展開の大勢が決まるところ。

一方、東京のマイル戦はそこから3コーナーまでまだ十分な距離があるため、外を走る馬はコースロスを避けるため、内の進路を探すし、内の馬はかぶされて進路をなくさないように外へ出せるスペースを探す。そこでハナを切った馬がコーナー手前から巧妙にペースを落とすと…。

GⅠともなれば、どの馬も操作性が高く、それぞれが力を最大限に発揮するスタイルを確立しているもの。いかに自身に有利に、そしてライバルの力を削ぐか、向正面でのジョッキーの駆け引きでレース展開はガラリと様相を変えてしまう。

コンマ1秒の世界での判断、手綱を持つ指先のほんの数ミリの動きが、ゴールでの着差に影響を及ぼしてしまう。他力本願といえば聞こえは悪いが、他者の力までも利用しないとやすやすとは勝てないのが、東京コースのダート1600mという条件であると言えよう。

人気馬より実績馬を信頼すべき

ジョッキー心理を、そしてレース展開を読み解くべし!とは予想する上ではよく言うものの、それが難解であることは当然。そこでヒントになるとすれば、各馬の経験値の差ではないか。昨年、2番人気で12着に沈んだテイエムジンソクは前半に速い流れとなるレース経験が明らかに不足していたし、その流れに乗じて復活を成し得たノンコノユメは東京のマイル戦でこそ発揮される決め脚を有していた。

さらに一歩突っ込むなら、芝での実績から人気を集めている馬がいる時は疑うべき。確かにアグネスデジタルやメイショウボーラーなど兼用で活躍した馬もいるが、キャリアの中で唯一のダート戦となったカレンブラックヒル、古くはキングヘイローも1番人気で2桁着順に敗れている。芝で走る馬の底力はダート馬のそれを上回るべき、という信奉主義が根強く残っているのは芝からのスタートという条件に起因するものなのか。

確かにゴールドアリュールの産駒には芝での重賞勝ち馬もいる。とはいえ経験の乏しい馬にとって、予測しづらい緩急の差に対応することは難しい。人気馬をむやみに頼るのではなく、実績馬を信頼するべきレースと言葉を置き換えた方がよいかもしれない。

カネヒキリに見られたダート最強馬像

力通りの決着を見る東京競馬場などとも言ってみたが、その〝力〟にも様々な種類があると思う。例えば2006年の優勝馬カネヒキリ。同世代、同じ勝負服の最強馬との比較で、「砂のディープインパクト」とも呼ばれたスーパーホースである。3歳時からダートでとてつもない強さを発揮したが、実は東京のマイル戦が苦手でもあった。

というより芝からのスタートではトモが付いてこず、出遅れてしまうという課題を抱えていた。しかしGⅠを前にして芝での追い切りを敢行するなど、地道な努力を重ねて不安を払拭してみせた。その対応力と、目標を見据えた仕上げに尽力した厩舎の力。さらに度重なる脚元の不安による休養から復活を成し遂げた精神力。ダートで頂点を極めながらも、何度かは芝のレースへチャレンジしようとしたがかなわず引退し、種付け中の事故で世を去ったとのこと。

フェブラリーSを勝つのに最も求められるのが底力だとすれば、それは全ての力を合わせたものであり、カネヒキリ以上の馬をいまだに知らない。