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ルメールのムチに輪ゴムが!? 知ってるようで知らない騎手の秘密

ルメール,ⒸJRA
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ⒸSPAIA

ムチに輪ゴムが?

競馬ファンなら一度は騎手の華麗なるムチさばきに魅了されたことがあるのではないだろうか。皆さんはそのムチに関して、面白い事実をご存じであろうか?なんと騎手が使用するムチの持ち手の先端部分に輪ゴムが巻かれているのだ。今回のコラムではなぜ輪ゴムが巻かれているのか、どの騎手がムチに輪ゴムを巻いて使っているのかということについて調べてみた。

落下防止のための滑り止め

関係者を通じて現役騎手にその理由をうかがったところ、「落下防止のための滑り止め」でムチに輪ゴムを巻きつけているということが分かった。全員がそうしているわけではないが、騎手の間では一般的な知識として知られているそうだ。

実際に中山と東京競馬場で取材を行い、誰がムチに輪ゴムを巻いているのか調べてみたところ、クリストフ・ルメール騎手、石橋脩騎手、内田博幸騎手、岩田康誠騎手の4人が輪ゴムを巻きつけているのが確認できた。

石橋騎手,ⒸJRA

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内田騎手,ⒸJRA

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中でも内田騎手は上記の写真を見ての通り、グリップの先端より少し上に輪ゴムを巻きつけていることが分かる。野球のバッターに例えるなら、バットを短く持つタイプと言えるだろう。

まさかの手ムチで勝利

時速約60kmで走る中で、ムチを持ち替えるには技術が必要とされるが、実際こんな出来事があった。ミルコ・デムーロ騎手は2018年4月28日、東京9レースの秩父特別でエイシンスレイマンに騎乗していた。大外から追い込み、残り200mの標識を通過したあたりで、左ムチを入れようとしてムチを落下させてしまった。普通なら焦ってしまうところだが、デムーロ騎手はちゅうちょすることなく自らの手をムチに変え、なんと手ムチを使ってゴール前の接戦をしのいで勝利したのだ。

このように一流騎手でもレース中にムチを落としてしまうことがある。それだけに野球選手がバットのグリップにこだわるのと同じように、騎手も滑り止めのために様々な工夫を行なっている。

今となっては笑い話に

実は、騎手がムチに輪ゴムを巻きつけているということを教えてくれたのは、筆者の友人だった。彼は大学卒業後、オーストラリアに渡り騎手を目指していた。しかし、乗馬経験がない状態からのスタートだったため、ムチを使いこなすことも難しかったそうだ。

そんな時、競馬場で騎手が遊びながらムチをクルクルと回して歩いているのを見かけ、持ち手側の先端に輪ゴムをつけているのを発見した。そこで、見よう見まねで練習する中で、彼が編み出したのは、輪ゴムの間に指を通すという方法。これなら、テコの原理で扱いやすくなり、なおかつムチを落とすことはないと考えたのだ。

しかし、彼は気づいていなかった。指を通してしまえば、左右の持ち替えができないということに……。結局、騎手になる夢は断念せざるを得なかったが、今となっては笑い話の一つになっている。

使い方の違いはあれども、騎手を目指す者から一流騎手までが、ムチに輪ゴムを巻きつけるという知識が、浸透しているということが分かった。このように、それぞれの騎手が自分で使いやすいように工夫し、道具を使っていることを見てみるのも、競馬を楽しむ一つの方法だということを知ってもらいたい。

そして、騎手を目指している人に伝えたい。「絶対にムチに巻きつけた輪ゴムに指を通してはいけません」と。