一団で進んだ消耗戦
サマースプリントシリーズ第2戦となる北九州記念はヤマニンアルリフラが3連勝で重賞初制覇。2着ヨシノイースター、3着アブキールベイで決着した。
最終的に1番人気になったヤマニンアルリフラの単勝オッズは5.7倍。14番人気まで20倍台に収まる大混戦はそれを象徴するかのように一団で進む競馬になった。先手をとった3歳クラスペディアも徹底して飛ばす構えはみせず、隊列が決まらないまま進んだことも中距離戦のような団子状態になった要因だろう。
さらに一団の競馬になったことで、クラスペディア以下先行勢はお互いをけん制し、速度を緩められない。前半600m11.6-10.2-10.7、32.5はクラスを考えれば、猛ラップと呼べるものでもない。だが、隊列がタテに伸びず、ひしめき合いながら進むことで、自分の走りがしにくく、ラップ以上に負荷がかかった競馬だった。
後半600mは11.4-11.8-12.1と失速していき、前半の消耗度が最後の着順に響いた。そういった意味では確かにハイペースではあった。
勝ったヤマニンアルリフラは序盤、自然な形でレースに入っていき、負荷をかけずに中団馬群で流れに乗った。3コーナー手前で外を意識したようだが、出すタイミングがなく、4コーナーまで内から3頭目でやり過ごしたことで、距離ロスをいくらか軽減できたことも消耗戦で生きた。
4コーナー出口で遠心力を利用し、外に持ち出すと、きれいに進路もとれた。団野大成騎手、会心の騎乗だったのではないか。上位にきた2、3着馬はどちらもヤマニンアルリフラより外を回っており、3、4コーナーの立ち回りが着差に与えた影響は大きい。
母の父スウェプトオーヴァーボードの力
ヤマニンアルリフラは4着だったヤマニンアンフィルのふたつ下の弟であり、間にはプロキオンSを勝ったヤマニンウルスがいる。そのプロキオンSは1年前の2024年7月7日に小倉で行われており、運命的なものを感じる。だが、これはそんな感傷的なものでは決してない。母ヤマニンパピオネは福島3勝、札幌1勝で、直線に坂がある中山、阪神、中京コースでは【0-1-0-5】。平坦に強いのはその父スウェプトオーヴァーボードの影響を感じる。
ヤマニンパピオネの仔は父方の影響を受けやすく、ヤマニンアンフィルらダイワメジャー産駒2頭は芝ダート短距離、ディープインパクト産駒ヤマニンサンパは直線が長い芝中距離で結果を残す。ヤマニンウルスは父ジャスタウェイ。ダートのイメージは薄いが、その父ハーツクライがダート活躍馬を出したように、芝とダートで産駒の勝率はほぼ互角であり、時計の速いダートに強いのは父の影響だろう。
そんな父方の長所を伸ばすヤマニンパピオネだが、産駒には平坦に強いという共通点がある。ヤマニンウルスとヤマニンアルリフラの重賞勝利がともに小倉だったのは平坦巧者の一族だからであり、ここにスウェプトオーヴァーボードの血を感じる。芝1200mの国内GⅠは春秋とも急坂コースで行われるが、ヤマニンアルリフラは今後、坂のあるコースで同じ走りができるか注目したい。
北九州記念で1番人気が勝つのは2008年スリープレスナイト以来、17年ぶり。同馬は次走でスプリンターズSを勝った。ハンデ戦かつ大混戦の小倉芝1200m重賞で、1番人気に応えられるのは実力の裏づけだとすれば、ヤマニンアルリフラも楽しみが広がる。
前傾ラップに強い2、3着馬
2着ヨシノイースターは昨年に続き、またも2着。ハンデは昨年が57キロに対し、今年は58キロ。どちらも8枠から外を回る展開だったことを考えると、パフォーマンスは決して下降していない。
ハイペースを好位で立ち回る形を得意とするため、流れが速くなりやすい小倉や中山では安心して支持できる。その分、前半が流れない1200m戦だと切れ負けする傾向があり、栗東所属馬ながら阪神、京都、中京の地元だとポカもある。適性がはっきりしたタイプであり、これを押さえれば比較的付き合いやすいだろう。
3着には3歳アブキールベイが飛び込んだ。小倉芝1200mは年明けの萌黄賞(1着)以来だった。萌黄賞は前後半600m33.8-35.1の前傾ラップであり、前走の葵S(1着)も33.5-34.8と京都にしては流れた。前傾ラップに強いという適性は一流スプリンターには欠かせない素養であり、3歳夏の時点で古馬相手に差して好走できたのは将来性を感じる。
3着から7着は4コーナー10番手より後ろから差してきた。好位勢が互いにプレッシャーかけ合った結果であり、崩れた先行勢の中からは、メンバーが変わってあっさり巻き返す馬があらわれるだろう。2番人気9着ロードフォアエースや6番人気17着クラスペディアなど人気を裏切った馬たちは気分よく走れず、消耗した可能性が高く、次走もマークしておきたい。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。
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