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【安田記念】逃げ馬不在で展開利期待、ジャンタルマンタルが本命 穴はハマると強いサクラトゥジュール

2025 6/7 17:00山崎エリカ
2025年安田記念のPP指数,ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

近年外差し有利も今年は逃げ馬不在

東京芝1600mが舞台の安田記念はUターンコースのマイル戦らしく、緩みないペースで流れることが多い。過去10年でスローペースになったのは2016年、2021年、2022年の3回だけだ。

そのうち2021年は逃げ先行馬が全て6番人気以下と強くなく、2022年は内が荒れた外差し馬場の影響もあって逃げ先行馬が馬券圏内に加われていない。しかし、2016年はロゴタイプとモーリスの“行った行った”で決まっている。

今年も2016年同様、逃げ馬不在でスローペースが濃厚の組み合わせ。内枠のマッドクールが短距離のペースで逃げた場合にはハイペースになる可能性もあるが、同馬は新馬戦以来のマイル戦というのがポイント。前走の高松宮記念でも脚を溜める競馬となり、この中間も折り合いに専念する調教をしていることから、距離延長を意識して脚を溜めて行く可能性が高いとみる。

直近5年の安田記念で先行して3着以内に入った馬は2023年のセリフォス(2着)のみ。中団以降が3着以内をほぼ独占している状態だが、今年は先行馬の粘り込みパターンに期待したい。


能力値1~5位の紹介

2025年安田記念のPP指数一覧,ⒸSPAIA


【能力値1位 ソウルラッシュ】
昨秋のマイルCSで悲願のGⅠ制覇を達成した馬。同レースでは3番枠からやや出遅れ、軽く押して行ったが、いつものように後方から。道中も後方馬群の中目で進めた。

3~4角で中団馬群の中目のスペースを拾って進出し、4角ではワンテンポ待って馬場の良い外目に出す。直線序盤では好位列の外からさらに外の進路を取ってしぶとく伸び、先頭列付近へ。ラスト1Fで先頭のウインマーベルを捉えて抜け出すと、後続に2馬身半の差をつける完勝だった。

マイルCS当日の京都は「外差し天国」。最後の直線で各馬が外に広がっていくなかで、上手く馬場の良い外に誘導しての勝利だった。加えて前日の10Rまで雨が降り続いた影響から、レースの上がり3F34秒5とやや時計が掛かっており、差し馬に有利な展開でもあった。

しかし、ソウルラッシュが記録した指数はマッドクールが昨年の高松宮記念で記録した数値と並ぶメンバー中トップタイのもの。そして前走・ドバイターフでは、2度目のGⅠ制覇を達成した。

その前走は2番枠からやや出遅れたが、楽に好位の中目を確保。道中は緩みなく流れ、終始促されての追走ではあったが、好位の中目を維持して3角に入った。

3~4角でもさほどペースは落ちなかったが、2番手ロマンチックウォリアーをマークして直線へ。序盤でしぶとく伸びて2列目に上がり、ラスト1Fで同馬をハナ差で捉え切った。

本馬はマイルの重賞ではテンの速力不足で好位が取れず、超高速馬場だった昨秋の富士Sでは、ラスト1Fでジュンブロッサムに伸び負けて2着に敗れている。

このことからも中距離向きと見ていたが、1800mの前走では案の定好位で進めることができたし、ラスト1Fでは減速しているものの、ロマンチックウォリアーが抜け出す脚以上に伸びていた。

前走は昨秋のマイルCS以上に走っていることが推測され、疲れが懸念されるところ。また、安田記念は過去3度挑戦して昨年の3着が最高着順であるように、上がり3F33秒半ばから後半の決着となるこのレースはあまり向いていない。底力で上位争いに加われるとは見ているが、全幅の信頼は置けない。

【能力値2位 エコロヴァルツ】
昨年2月の共同通信杯では序盤から酷く掛かるなど、気性的にかなり難しい面を抱える馬。そのため昨春のクラシック戦線では後方で折り合いに専念したり、抑えが利かずハナに立ったりと、極端な競馬で不本意な結果に終わっている。

しかし、昨年末から気性の成長が見え、徐々に成績が安定。2走前の中山記念では2着と好走した。

その2走前は4番枠から好スタートを決めてハナに立ったが、1~2角でメイショウチタンがハナを主張すると、同馬を行かせて2列目の最内を追走。道中は淡々と流れるなか、逃げ馬とのスペースを広げ、3番手の最内で3角に入った。

3~4角でも3列目の最内を通し、3角でしっかり仕掛けてひとつ外に誘導、2列目の外で直線へ。序盤で2馬身ほどあったメイショウチタンとの差を半馬身差まで詰め、ラスト1Fで同馬をかわして抜け出したが、外からシックスペンスに差されてハナ差で敗れた。

当時は中山開催2日目、C→Aコース替わり2日目のコンクリート馬場。マークされたシックスペンスに差されるという内容ではあったが、内有利の馬場で4番枠を利して最短距離を通しており、完璧に近い立ち回りではあった。

前走・大阪杯は4着。14番枠からまずまずのスタートを切ったが、枠も悪く中団の外を追走。道中も中団の外で進めていたが、前が飛ばして行くと向正面で内目に入れて我慢させた。

3~4角で内目を通し、中団で直線へ。序盤で中目のスペースを拾って好位列まで上がり、ラスト1Fでもしぶとく伸びたが、外からヨーホーレイクに差されてハナ差の4着となった。

前走は超高速馬場で緩みない流れ。ここで後方有利の展開に恵まれたことや、向正面で上手く内目に入れたことでシックスペンスを逆転したが、やや進みが悪く、距離延長でありながら好位を取れなかったあたりは不安だ。

今回は先行馬が手薄だが、前走から2Fの距離短縮となるとスムーズに好位でレースの流れに乗れない可能性がある。

【能力値3位 シックスペンス】
3歳秋の毎日王冠を休養明けで勝利した素質馬。続く今年初戦の中山記念もレコードタイムで勝利している。

中山記念は1番枠からまずまずのスタートを切り、二の脚良く先行して2列目の最内で進めていたが、1~2角で先頭のエコロヴァルツがメイショウチタンを行かせたことで一列下がる。道中は淡々と流れたなか、前のエコロヴァルツとのスペースを広げ、中団最内で3角に入った。

3~4角でも最内を通し、4角でスペースを潰して3列目まで上がって直線へ。序盤で外に誘導してスムーズに捌いて2列目に上がると、ラスト1Fで抜け出したエコロヴァルツをハナ差で差し切った。

上述したように、今年の中山記念は内有利の高速馬場。最内からエコロヴァルツをマークして進め、同馬が勝ちに行ったところを差し切るという完璧な立ち回りだった。

前走・大阪杯は7着敗退。こちらも超高速馬場で緩みなく流れたが、序盤で2番手、1~2角では出遅れたデシエルトがハナを主張してきて3番手と、早くから前の位置を取り過ぎたことが主な敗因とみる。

本馬は芝2400mの日本ダービーで9着と崩れているように、本質的には芝1800m以下でこそという馬。正攻法の競馬では距離がもたなかった。

もともとコンクリート馬場だった昨秋の毎日王冠でも勝利しているように、スピードと瞬発力に優れたタイプ。今の東京はコンクリート馬場ではないので、芝1600mでも脚を溜めたいところ。しかし、今回は1番枠。逃げ馬不在で行きたがってしまう面がある本馬が、中山記念のような立ち回りができるかは課題になる。

前走のように2番手、3番手に行ってしまうのではないかという不安もあるが、距離ロスなく立ち回れる点はプラス。さらに前走より距離が短くなることも加点材料だけに、対抗評価としたい。

【実質能力値4位 ブレイディヴェーグ】
3歳時にエリザベス女王杯を制し、そこから長期休養明けとなった昨秋の府中牝馬Sでも勝利を挙げた実力馬。前走・ドバイターフの指数は未算出だが、同レースで0秒5差の本馬はおおよそここで能力値4位には入ってくる。

府中牝馬Sでは5番枠からやや出遅れ、促して中団やや後方からの追走。道中では前のスペースを維持し、中団やや後方のまま3角に入った。

3~4角で中目から外に誘導、じわっと仕掛けながら直線では外へ。序盤の伸び始めはやや地味だが、ラスト2Fですっと伸びて一気に2列目まで上がり、ラスト1Fでしっかり抜け出して1馬身1/4差で完勝した。

このレースはコンクリート馬場でややスローペースだったが、ラスト2F11秒4-11秒0と加速する展開を一気に差し切る非凡な末脚を見せた。ちなみに、どこまであてになるかはわからないが、同馬がラスト1Fで先頭に立ったところのJRAの速度計では67km/hを計測している。

当時記録した指数は牡馬相手のマイル重賞でも勝ち負けになるレベルのもの。その次走・マイルCSでも、長期休養明けで好走した反動が大きく出ることなく4着と善戦。これらは本馬の底力を示すものでもある。

前走・ドバイターフは7着。前走はわりとレースが流れていたが、出遅れを挽回して好位の中目。3~4角でもあまりペースが落ちないなかで2列目の外と、勝ちに行ったために末脚が不発に終わった。

マイル戦の今回は前半から前に入っていけず、中団よりも後方からの追走になる公算が高いだけに、末脚を生かす形で馬券圏内突入が視野に入る。ここで重い印は外せない。

【能力値5位タイ トロヴァトーレ】
デビュー当初は中距離路線を使われていたが、青葉賞11着の後は芝1600m路線に転じて上昇。2走前のニューイヤーSは重賞通用レベルの指数で勝利した。

その2走前は15番枠から五分のスタートを切り、コントロールしながら先行。2列目の外を追走し、最終的には一列下げて好位の外で進めた。

3~4角でも好位の中目で無理なく進め、4角で前2頭の外に誘導して仕掛けると、2列目の外で直線へ。序盤でしぶとく伸びて先頭列まで上がり、ラスト1Fで内から粘るサンライズロナウドを競り落として3/4馬身差で勝利した。

この日は前年から数えて中山開催14日目だったが、前週までのCコース使用からAコースに替わったことでやや内有利の馬場状態。外枠から前の位置を取り、4角で2頭分外から押し上げるロスもあったが、最後までしっかり脚が使えていた。

そして前走・ダービー卿チャレンジトロフィーで重賞初制覇を達成。ただし、この時は超高速馬場でやや内有利の馬場を2番枠からやや出遅れ、中団最内から徐々に位置を上げ、最後の直線でも狭い最内を通し切って勝利したもの。J.モレイラ騎手が上手く乗ったことが勝因のひとつで、重賞としては指数は高くなく、2走前から指数を下げる形での勝利だった。

今回はさらに相手強化の一戦。展開の後押しがあればここでも通用するが、ゲートも二の脚もそこまで速くなく、末脚もここに入るとやや見劣りする。芝1800m以下では6戦4勝2着2回と崩れていないように、総合力で勝負するタイプ。ここも近走からほぼ横ばいの走りで、掲示板入りするかしないかの善戦止まりで終わる可能性が高いとみる。

【能力値5位タイ ウォーターリヒト】
昨秋に戦列復帰してから上昇一途。前走・東京新聞杯で初重賞制覇を達成した。

その前走では12番枠からやや出遅れ、じわっとコントロールして中団やや後方の外目を追走。道中は緩みなく流れて隊列が縦長になっていったが、中団やや後方の外目でジュンブロッサムをマークして3角に入った。

3~4角では中団やや後方中目を通し、ジュンブロッサムの後ろで直線へ。序盤で同馬の外に誘導しながらじわじわ伸び始めたが、ラスト2Fでもまだ中団。ラスト1Fで前が甘くなったところをまとめて差し切り、ハナで勝利した。

前走は標準馬場で緩みなく流れ、ラスト1F12秒0と減速。ここでしぶとく伸びての差し切り勝ちで、展開に恵まれたことで自己最高指数を記録している。

今回はそこから疲れを取りながらの復帰戦。成長期の4歳馬でも取りこぼしがあっても不思議ない。

また、本馬は東京芝1600mで3勝しているが、いずれも上がりを要しており、上がり3F33秒台半ば~後半の決着となる安田記念は不安がある。



本命候補はジャンタルマンタル

ジャンタルマンタルは昨年のNHKマイルCの勝ち馬。現4歳世代のトップマイラーだ。

そのNHKマイルCでは13番枠から好スタートを決め、軽く促してハナを主張。内枠の2頭が前を主張すると、好位の外で折り合って追走する。

道中もキャプテンシーが引っ張る流れを、2列目の外で我慢させて3角へ。3~4角ではペースが落ちたが、コントロールしながら2列目の外を維持した。

4角出口で軽く仕掛け、直線序盤で内のアスコリピチェーノに蓋をしながら楽な手応えで先頭列に進出。ラスト1Fですっと抜け出して1馬身3/4ほど前に出ると、ラスト1Fでさらに差を広げ、2馬身半差で完勝した。

前走・香港マイルは13着大敗。ここでは出遅れを挽回するロスや、最後の直線で内からぶつけられる不利もあったが、長期休養明けによる息切れが主な敗因。立て直された今回は本領発揮が期待できる。

今回は休養中に成長していることが浮上の条件となるが、ハイペースの皐月賞で先行して3着以内だった馬はダイワメジャーやダノンキングリーなど、古馬になってからマイルGⅠで活躍する例が多い。ここは本馬の素質開花に期待したい。



穴馬候補は波が激しいサクラトゥジュール

サクラトゥジュールは折り合いに難があり、好凡走の波が激しい。しかし、好走時はとても強い勝ち方をする馬だ。

一昨年のメイS(OP)では重賞でも勝ち負けになる指数を記録。昨年は東京新聞杯(GⅢ)を制し、8歳となった今年も京都金杯(GⅢ/中京芝1600m)を勝利している。

2走前の京都金杯は7番枠から出遅れたが、軽く促して後方馬群の内目を追走。道中も後方最内で前にスペースを維持して脚を温存した。

3~4角では中団の最内をコントロールしながら、最内のスペースを潰して4列目付近まで進出したが、直線序盤で前が壁。そこから外に誘導して仕掛けを待たされたが、ラスト1Fで内目を割ってすっと伸び、ロジリオンをしっかり捉え、ウォーターリヒトの追撃もクビ差で振り切った。

当時は標準馬場ではあったが、中京開催2日目かつBコース→Aコースに替わったことで内有利の傾向。ややハイペースで後方有利な展開にも後押しを受けた勝利だった。

好走時を振り返ると、速い流れの最内を中団よりも後方で立ち回れているという共通項がある。これは展開に恵まれるばかりではなく、前に壁を作ることで比較的に折り合いがつくというメリットもある。

前走・東京新聞杯も1番枠を利していつものように中団最内で進めていたが、前のシャンパンカラーが下がってくるとこれを嫌い、中目に誘導したところで掛かり始め、3~4角では酷く掛かって直線は伸びを欠いた。休養明けで好走した疲れもあって折り合いを欠いた面もあるが、現状ではラチ沿いで息を潜めて乗らないと勝ち負けするのが難しい。

今回は体調面の良化は見られるが、あとは色気を持たずに乗れるかどうか。ここは折り合い上手のD.レーン騎手への手替わりもあり、進境を見せることも視野に入れて一考したい。

※パワーポイント指数(PP指数)とは?
●新馬・未勝利の平均勝ちタイムを基準「0」とし、それより価値が高ければマイナスで表示
例)エコロヴァルツの前走指数「-22」は、新馬・未勝利の平均勝ちタイムよりも2.2秒速い
●指数欄の背景色の緑は芝、茶色はダート
●能力値 =(前走指数+前々走指数+近5走の最高指数)÷3
●最高値とはその馬がこれまでに記録した一番高い指数
能力値と最高値ともに1位の馬は鉄板級。能力値上位馬は本命候補、最高値上位馬は穴馬候補

《ライタープロフィール》
山崎エリカ
類い稀な勝負強さで「負けない女」の異名をとる競馬研究家。独自に開発したPP指数を武器にレース分析し、高配当ゲットを狙う! netkeiba.com等で執筆。好きな馬は、強さと脆さが同居している、メジロパーマーのような逃げ馬。

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