3歳スプリンター頂上決戦
3歳唯一の1200m重賞・葵Sは15番人気アブキールベイが勝ち、2着に13番人気クラスペディア、3着は8番人気レイピアで決着し、3連単は189万超の波乱決着となった。未来のスプリンターにとって、葵Sは最大目標といっていい。
重賞創設から8年。勝ち馬の顔ぶれをみると、未来へのつながりを強く感じる。ゴールドクイーン、ディアンドル、レイハリア、ビアンフェ、ウインマーベル、モズメイメイ、ピューロマジック。みんなその後、古馬との戦いで重賞タイトルを積み重ねた。
以前ならスプリンターであっても3歳春まではなんとかマイルまで我慢させようと、馬に無理を強いてきた側面はある。操縦性が高い利発な馬なら、我慢してマイルをこなす可能性はあるが、そうはいっても本質がスプリンターなら、早くからその才能を伸ばすべきだろう。葵Sの重賞格上げは、競走馬の歩みに無理筋をつくらせなくなった。
その分、根っからのスプリンターが集まる重賞らしく、競馬は激しくなる。舞台の京都競馬場芝1200mは前半が上り基調の内回りとあって、3コーナーも近く、ペースは速くなりにくい。
ハイペースが少ない舞台にもかかわらず、今年の前後半600m33.5-34.8は速い。それも単に速いわけではなく、12.0-10.6-10.9-10.9-11.5-12.4と残り1000m標識から400m標識まで10秒台が3区間も続いた。
スタートを決めたベイビーキッスが飛ばす構えをみせなかったため、外枠クラスペディアがちょっと強引にハナを奪った。スプリンター同士の戦いで手ぬるい流れはつくれない。自分の心地よいリズムを探した結果だろう。
反面、外からハナに立ったことで、抑えるのも難しい。4コーナー手前まで突っ込んで入り、さらに11.5で後ろを引き離しにかかった。相当厳しい形といっていい。
残り200mは12.4。クラスペディアも早めに並びかけたサウスバンクもたとえ直線平坦の京都であっても、脚が上がった。そこへ襲いかかる中団待機馬たち。内ラチ沿いから外へ広がる叩き合い、どこからも伸びてくる光景は見ごたえたっぷりだった。
未来のスプリンターたちの総力戦はダービーの直線にも重なる。みんな、自分の可能性を信じ、未来に向かって懸命に腕を伸ばす。そんな競馬だった。
ダーレーブランドの結晶のようなアブキールベイ
勝利をつかんだのはアブキールベイ。前走マーガレットSでの6着が嫌われただけでなく、マーガレットSも8頭立ての7番人気と人気になりにくいプロフィールでもあった。
7月の福島で新馬戦を勝ち、2勝目は冬の小倉で行われた萌黄賞とローカル中心の歩み。その間、1400m戦や中京コースで凡走と、生粋の平坦向きのスプリンターが京都で輝いた。
マーガレットSは小倉遠征で減らした体を戻すため、仕上がり途上だったか。これらを読みとっていれば、15番人気はおいしすぎた。やはり丹念に全馬の戦歴をチェックすることは大切だ。
アブキールベイはゴドルフィンの所有馬で、生産はダーレー・ジャパン・ファーム。父ファインニードル(18年高松宮記念)はゴドルフィンとして初のGⅠ馬であり、日本での活動方針の道をつくった。
日本で主流の中距離ではなく、短距離とダートで強い馬をつくる。ファインニードルの翌年にはタワーオブロンドン(スプリンターズS)がスプリントチャンピオンについた。
奇しくも今年は3歳マイル王をタワーオブロンドン産駒パンジャタワー、スプリントはファインニードルの仔アブキールベイが獲った。ダーレーの戦略が2頭の種牡馬を通じ、実を結んだ世代でもある。
母アゴベイもダーレーの生産馬。その母コージーベイは米国ダーレー牧場で生産され、日本へ輸入された。コージーベイの仔はアゴベイも含め、ほぼスプリンターであり、アゴベイの姉ハーロンベイは全4勝すべて芝1200mのオープン馬ケープコッドを出した。
この一族にファインニードルとくれば、疑いなきスプリンター。平坦に強い特性を踏まえると、アブキールベイもこの夏、古馬相手にタイトルを上積みできる。
可能性を感じるクラスペディア
2着クラスペディアは未勝利のままオープンを勝った異色の経歴の持ち主。初勝利のクロッカスSは逃げ切り。控えたファルコンSでは大敗と、現状は先手がベストだ。
脆さはありつつも、京都で前半33.5を記録し、さらに立て続けに10秒台を出しながら、踏ん張る走りには才能を感じる。ここから成長できれば、ラスト12.4をもう少しまとめられるだろう。そうなれば、一級スプリンターへの可能性がみえてくる。
クラスペディアが第1世代目となる父ミスターメロディは芝ダート問わず、スプリンターを多く出しているが、マイルから中距離型の母父との組み合わせなら、距離の幅も出る。スピード勝負の現代競馬なら、もっと活躍馬を出してもおかしくない。
3着は最後に突っ込んできたレイピア。4着サウスバンクが直線で外に流れてしまったスキを突く形ではあったが、スタートで遅れ、先行押し切りのスタイルを崩しながらも差してきたのは収穫だった。
父タワーオブロンドンは総じて適性が重なるファインニードル産駒とセットで買うのもおもしろそうだ。生産の富菜牧場はSNSで可愛い「とねっこ」(仔馬)の動画をたくさんあげてくれる牧場さんで、つかの間の癒しに欠かせない。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。
《関連記事》
・【葵S】結果/払戻
・【葵S】好データ複数該当、ポッドベイダーを高評価 伏兵サウスバンクの一撃も警戒
・【葵S】AIの本命は2戦2勝ウイントワイライト 「内枠」×「前走先行」に複回収率166%データ