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【目黒記念回顧】東京巧者&晩成の血を持つアドマイヤテラが重賞初V、「非根幹距離の鬼」ホーエリートも底力

2025 6/2 11:40勝木淳
2025年目黒記念、レース結果,ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

絶好位につけたアドマイヤテラ

ダービーデーを締める伝統のGⅡはアドマイヤテラが勝ち、重賞初制覇。2着ホーエリート、3着マイネルクリソーラで決着した。普段よりたっぷり時間をかけて行われるダービーの表彰式。その最中、暗くなった空から雨が落ちてきた。突然の通り雨に面食らったが、どこか熱くなりすぎた競馬ファンの心を冷ますかのようでもあった。

目黒記念はあっという間にあがった雨の先にあった。クールダウンの役目を担った雨のせいか、極めて静かな序盤で幕を開けた。マイネルカンパーナがハナに行き、すぐ外からホーエリートが併せ、大外のニシノレヴナントがとりつき、先行集団を形成。隊列はすんなり決まった。

ダービーから1時間以上経過して行われる目黒記念は得てしてスローが多い。東京芝2500mなので、速くなることは稀だが、同舞台のアルゼンチン共和国杯ほど持久力勝負になりにくい。

2コーナー手前から13.0-13.3と記録され、この時点で、折り合った先行型は後半勝負に足る末脚を温存できた。先行集団の馬群に入れる形でリズムをつくったのが勝ったアドマイヤテラだ。3歳春にみせた積極的に運べない弱さは徐々に消えていき、成績も上昇。菊花賞では早めに押し上げて3着に粘ってみせた。

4歳初戦(大阪―ハンブルクC)を危なげなく勝利で飾り、レースセンスが開花した。馬群のなかで落ち着き払う走りとポジション取り。どれをとっても勝つべくして勝った競馬だった。

1000m通過1.04.1(推定)では後方から勝負するのは難しい。これを嫌ったシルブロンが動き、ハナを奪うも、すぐにペースは上がらず、じわじわと流れはじめ、11秒台突入は残り1000mから。11.9-11.6-11.4-11.5-11.9と古馬同士の戦いらしい序盤スローのロングスパート戦になった。こうなるとハンデ差を活かすといった競馬ではなく、力勝負になる。

アドマイヤテラは好位の後ろという絶好位置を利用し、各馬の仕掛けを待つ余裕があった。ホーエリートの外に進路ができてから抜け出す。理にかなった競馬はさすが武豊騎手といったところ。39年連続重賞勝利も納得だ。最後はしぶとく粘るホーエリートに馬体を寄せ、併せる形でねじ伏せた。


晩成のレイデオロ産駒

アドマイヤテラの血統をさかのぼると、ウインドインハーヘアの名がある。3代母ライクザウインドはブラックタイド、ディープインパクト兄弟の姉にあたる。

その流れをくむ母アドマイヤミヤビはハーツクライの仔らしく東京を得意としており、アドマイヤテラの目黒記念は母の影響も感じる。さらに父はダービー馬レイデオロ。ダービーデーの締めにふさわしい血統でもある。

レイデオロは今年もダービーに産駒を送ったものの、目黒記念まで重賞ウイナーは2頭にとどまる。サンライズアース、トロヴァトーレは4歳で本格化気配をみせており、晩成傾向。思えば、父もダービーまで決して順調ではなく、藤沢和雄調教師の手腕も大きかっただけに、本質は晩成だったかもしれない。

一方で産駒の成績をみると、1400から3000mと距離の守備範囲が広く、キングカメハメハの万能性も感じる。アドマイヤテラも母系の舞台適性と父の晩成の血がよく出ており、この勝利を機に秋はもう一つ上の舞台でみたい。同時に豪州コーフィールドCの出走権を獲得した。馬群で競馬できるので、オーストラリアの競馬文化にもマッチしそうだ。


ホーエリートはエリザベス女王杯を最大目標に

2着ホーエリートはなんといっても血統だ。父ルーラーシップ、母の父ステイゴールドと非根幹距離(400で割れない距離。サラブレッドの心拍リズムと関係するとされる)に強い血を持つ。

実際、距離別成績は1800m【1-2-1-1】、2000m【0-0-0-4】、2200m【1-0-0-0】、2400m【0-0-0-1】。1800mのイメージが強く、距離不安もあったが、非根幹距離出走が好走へ導いた。この先も徹底して距離にこだわってほしい。

牡馬相手に後半1000mのロングスパート戦でゴール寸前まで粘っており、非根幹距離だと走りが違う。芝2200mのエリザベス女王杯を最大目標に進んでほしい。

3着マイネルクリソーラは1コーナーでアドマイヤテラの前にいたが、シルブロンが動いて隊列に変化が起き、位置を下げた。そこから盛り返しての3着であり、充実具合が光った。

この春はしり上がりにパフォーマンスを向上させており、秋につながりそうな競馬を見せている。スクリーンヒーロー産駒らしく東京でしぶとさを発揮する形を得意としており、混戦向き。人気以上に走るところも穴党には心強い。

2025年目黒記念、レース回顧,ⒸSPAIA


《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。

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