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【日本ダービー回顧】クロワデュノールと北村友一騎手が掴んだ栄冠 まさに“人馬一体”、逆転劇呼び込んだ信頼関係

2025 6/2 12:00勝木淳
2025年日本ダービー(東京優駿)、レース結果,ⒸSPAIA
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大一番でみせた完璧な人馬一体

第92回日本ダービーは1着クロワデュノール、2着マスカレードボール、3着ショウヘイで決着した。北村友一騎手と斉藤崇史調教師、父キタサンブラックはダービー初制覇。生産者ノーザンファームは13勝目、馬主サンデーレーシングは5勝目を飾った。

クロワデュノールはどれぐらいの位置で流れに乗るか。戦前、最大の関心事はここにあった。なぜなら、皐月賞2着の影響が少なからず陣営に存在しているだろうと踏んだから。単に負けたわけではなく、自信満々の騎乗から最後はミュージアムマイルに差されてしまい、0秒3も着差がついた。

グレード制が導入された1984年以降、皐月賞2着馬のダービー優勝は5例あった。89年ウィナーズサークルにはじまり、皐月賞で前をつかまえられなかったケースが3例。反対に差されて2着だったのは2例ある。

後者のうち90年アイネスフウジンは勝ち馬とタイム差なし、23年タスティエーラは0秒2差だったがこの時は重馬場での開催で、ダービーは良馬場で行われた。

大接戦か、馬場状態の変化があったなかでの逆転劇に対し、今年の皐月賞は良馬場で1:57.0のレコード決着かつダービーも良馬場まで回復して迎えた。そのため、クロワデュノールには工夫が必要なのではないかと感じた。

また、皐月賞終了当時には、被されるのを嫌って早めに動いたクロワデュノールについて“早仕掛けではないか”という意見も飛んだ。

この“早仕掛け論”は現代特有ではなく、昔から差されて負けると必ずといっていいほど論じられるフレーズであり、気にすることはない。そう思いつつも、皐月賞を踏まえ、東京替わりでもあり、今度は少し溜める作戦に出るのではないか。そんな予感があった。

だが、それこそ危ない。逃げ馬不在かつ7枠13番という状況下で、控えるわけにはいかない。この春の東京GⅠは差し馬の逆転が目立ち、構えた方がよさそうだが、ことダービーだけは別だ。昨今のダービーは極端な馬場悪化や強烈な先行型がいなければ、前に行かないと勝負にならない。クロワデュノールは皐月賞の敗戦を同じ作戦で乗り越えられるのか。

答えはご覧の通り。スタートから1コーナーまで急かさず、抑えずの自然流でレースに入り、3番手の外につけ、あくまでクロワデュノールのリズムを貫き、勝負所では先に仕掛ける。直線に入るとすぐに追い出し、まさに迷いなし。差せるものなら差してみろ。そんな自信に満ちた騎乗だった。

人馬の絆、信頼感がなければ、3歳春に東京芝2400mは走りきれない。ダービーの頂点を獲るために必要なものはなにか。クロワデュノールと北村友一騎手はそれを示した。完璧なまでの人馬一体のレースだった。


カギを握った序盤

改めてレース全体を振り返ると、大外枠のサトノシャイニングが先行姿勢をみせ、抽選突破のホウオウアートマンがハナを奪い、後ろを引き離していく。1000m通過は60.0。大逃げとはいえ決して速くなく、2番手サトノシャイニング以下はスローといっていい。

残り1000mのラップの並びは12.5-12.2-11.8-11.3-11.7。直線入り口で半分より前にいないと圏内に入れない。後ろから差すには、残り400m11.3で極限以上の脚を繰り出さないと差を詰めることができなかった。

2番人気6着ミュージアムマイルももう少し前につけたかったはずで、今回は1コーナーまでに位置をとれなかったことが響いた。やはりダービーでは1コーナーまでの約350mが重要になる。

その意味では、2着マスカレードボールは不利な8枠から1コーナーまで距離ロスを軽減しようとベストな形でレースに入れた。得意の東京だけにスムーズに運べたが、最後はワンパンチ足りなかった。

ゴール前の猛追する姿は迫力があったものの、その手前の瞬発力が試される時点での反応でクロワデュノールとは差があった。それでも伸びしろを感じる内容であり、秋以降が楽しみだ。

3着ショウヘイは内枠からスタートを決め、サトノシャイニングの後ろにつける形とベストな運びに近い。

直線勝負で伸び負けてはしまったが、これは完成度の差だろう。レースセンスを感じるだけに、秘めたる素質は高い。メジャーリーグで活躍するショウヘイと同じく、地道な肉体改造がいずれ素質全開へと導いてくれそうだ。

ダービーは清々しい競馬だった。場内実況がかき消されたのは、直線に入ってすぐのこと。スタンドの熱が頂点へ駆けあがるスピードは、クロワデュノールの仕掛けと見事に重なった。このシンクロが競馬だ。

皐月賞では制裁事象が3件もあり、素晴らしい決着タイムではあったが、力を出し切れない馬もいた。その点、ダービーは最後の直線で全馬、それぞれの持てる力を出せた。7950頭の頂点を決するにふさわしい過酷で美しい競馬にダービーの尊さをみた。


2025年日本ダービー、レース回顧,ⒸSPAIA


《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。

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