大一番でみせた完璧な人馬一体
第92回日本ダービーは1着クロワデュノール、2着マスカレードボール、3着ショウヘイで決着した。北村友一騎手と斉藤崇史調教師、父キタサンブラックはダービー初制覇。生産者ノーザンファームは13勝目、馬主サンデーレーシングは5勝目を飾った。
クロワデュノールはどれぐらいの位置で流れに乗るか。戦前、最大の関心事はここにあった。なぜなら、皐月賞2着の影響が少なからず陣営に存在しているだろうと踏んだから。単に負けたわけではなく、自信満々の騎乗から最後はミュージアムマイルに差されてしまい、0秒3も着差がついた。
グレード制が導入された1984年以降、皐月賞2着馬のダービー優勝は5例あった。89年ウィナーズサークルにはじまり、皐月賞で前をつかまえられなかったケースが3例。反対に差されて2着だったのは2例ある。
後者のうち90年アイネスフウジンは勝ち馬とタイム差なし、23年タスティエーラは0秒2差だったがこの時は重馬場での開催で、ダービーは良馬場で行われた。
大接戦か、馬場状態の変化があったなかでの逆転劇に対し、今年の皐月賞は良馬場で1:57.0のレコード決着かつダービーも良馬場まで回復して迎えた。そのため、クロワデュノールには工夫が必要なのではないかと感じた。
また、皐月賞終了当時には、被されるのを嫌って早めに動いたクロワデュノールについて“早仕掛けではないか”という意見も飛んだ。
この“早仕掛け論”は現代特有ではなく、昔から差されて負けると必ずといっていいほど論じられるフレーズであり、気にすることはない。そう思いつつも、皐月賞を踏まえ、東京替わりでもあり、今度は少し溜める作戦に出るのではないか。そんな予感があった。
だが、それこそ危ない。逃げ馬不在かつ7枠13番という状況下で、控えるわけにはいかない。この春の東京GⅠは差し馬の逆転が目立ち、構えた方がよさそうだが、ことダービーだけは別だ。昨今のダービーは極端な馬場悪化や強烈な先行型がいなければ、前に行かないと勝負にならない。クロワデュノールは皐月賞の敗戦を同じ作戦で乗り越えられるのか。
答えはご覧の通り。スタートから1コーナーまで急かさず、抑えずの自然流でレースに入り、3番手の外につけ、あくまでクロワデュノールのリズムを貫き、勝負所では先に仕掛ける。直線に入るとすぐに追い出し、まさに迷いなし。差せるものなら差してみろ。そんな自信に満ちた騎乗だった。
人馬の絆、信頼感がなければ、3歳春に東京芝2400mは走りきれない。ダービーの頂点を獲るために必要なものはなにか。クロワデュノールと北村友一騎手はそれを示した。完璧なまでの人馬一体のレースだった。