傾向解説
3歳芝マイル王決定戦・NHKマイルC。スプリント路線から中距離路線、そして牝馬路線など幅広いカテゴリーから実力馬が集結する非常に難解な一戦です。本記事では血統面を中心に、NHKマイルCのレース傾向を整理していきます。
まず押さえておきたいポイントは各路線の力関係について。3歳牝馬路線は1600m>1400m、または1800m以上>1200m以下という力関係が明確にあり、これは桜花賞を大目標にする馬がほとんどであるためです。
対して、3歳牡馬路線はクラシック第1戦・皐月賞が2000mで行われるため、1800m以上に素質馬が集まりやすく、そこから距離が短くなればなるほどメンバーレベルは落ちる傾向にあります。
そのため、NHKマイルCにおいても前走で1600m以上を使っていた馬の好走率が高く、特に牡馬は1800m以上組、牝馬は1600m組を中心に狙うのが本レースのセオリーといえるでしょう。
血統面では古くから北米血統馬が強いレース。短距離馬も多く参戦するためハイペース戦になりやすく、北米血統のスピードが強みになりやすいのがNHKマイルCの特徴です。
特に2001年1着クロフネ(父フレンチデピュティ)→2着グラスエイコウオー(父フレンチデピュティ)から始まったDeputy Minister系の強さは20年以上が経った現在も変わっていません。
Deputy Ministerを内包する、2013年1着マイネルホウオウ(10番人気)、2016年3着レインボーライン(12番人気)、2022年3着カワキタレブリー(18番人気)など穴馬の好走馬も多数あります。

<Deputy Minister内包馬の成績(過去10年)>
該当馬【3-1-4-23/31】
勝率9.7%/連対率12.9%/複勝率25.8%/単回収率48%/複回収率212%
また、Deputy Ministerと同様に北米の主流血統であるStorm Cat内包馬も大活躍。2014年2着タガノブルグ(17番人気)、2017年2着リエノテソーロ(13番人気)、2019年2着ケイデンスコール(14番人気)、2020年1着ラウダシオン(9番人気)、2022年3着カワキタレブリー(18番人気)など、数多くの下位人気馬が波乱を演出しており、2023年には3番人気以下の該当馬が上位4着を独占する結果となりました。

<Storm Cat内包馬の成績(過去10年)>
該当馬【4-5-2-34/45】
勝率8.9%/連対率20.0%/複勝率24.4%/単回収率137%/複回収率220%
有力馬の血統解説
・アドマイヤズーム
母ダイワズームは芝1800~2000mで4勝を挙げていますが、産駒はダートの長丁場で活躍。モーリス産駒の本馬はHaloの5×4・5を持つ芝マイラーに出ているものの、Amerigo≒Hornbeam増幅型の配合形からもワンペースな持続力勝負が得意という点は兄姉と同様の特徴です。
北米血脈は薄めで、モーリス×ハーツクライという晩成血統でもありますが、その分2歳時からの成長は著しく、キ甲が抜けてきて馬体のバランスもずっと良くなっています。本当に良くなるのは秋以降だと思いますが、朝日杯FS時よりも高いパフォーマンスを披露してくれることは間違いないでしょう。
・ランスオブカオス
母ハイドランがHaloの4×4、シルバーステート産駒の本馬がHaloの4×5・5を持つ反面、Silver HawkやSadler's Wells≒Nureyevなど重厚な血も併せ持つ剛柔のバランスが取れた配合形。前走馬体重496kgと馬格にも恵まれ、筋肉質な好馬体はキャリア2戦目の朝日杯FSでも際立つ存在でした。
ただ、北米血脈の薄い血統構成だけに、NHKマイルCの舞台適性は高く評価できません。
・マジックサンズ
4代母バレークイーンに遡る名牝系に属し、同牝系からは2頭の皐月賞馬(ヴィクトリー、アンライバルド)と1頭の日本ダービー馬(フサイチコンコルド)が誕生。母コナブリュワーズも芝1400m以下で4勝を挙げ、本馬の半姉には2023年桜花賞2着馬コナコーストもいます。
母がNureyev≒Sadler's Wellsの4×4、本馬がサンデーサイレンスの3×4やStorm Cat+フレンチデピュティを持つなど日欧米のバランスが取れた配合形で、舞台を選ばず堅実な走りを披露してくれる優等生タイプ。NHKマイルCの注目血統も内包しており、ハイレベルな中距離路線での経験も大きな強みとなるはずです。

《ライタープロフィール》
坂上 明大
1992年生まれ、岐阜県出身。元競馬専門紙トラックマン(栗東)。2019年より競馬情報誌サラブレにて「種牡馬のトリセツ」「新馬戦勝ち馬全頭Check!」などの連載をスタートさせ、生駒永観氏と共同執筆で『血統のトリセツ』(KADOKAWA)を上梓。2023年11月には本島修司氏との共同執筆で『競馬の最高戦略書 予想生産性を上げる人の取捨選択の技術』(主婦の友社)を出版。現在はYouTubeチャンネル『競馬オタク』を中心に活動し、パドック解説や番組出演、映像制作、Webメディアでの連載もこなす。
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