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【天皇賞(春)回顧】ヘデントールがGⅠ初制覇 血統表には個性派の名がズラリ、さらなる成長にも期待大

2025 5/5 11:40勝木淳
2025年天皇賞(春)レース結果,ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

勝負を分けた淀の丘

伝統の長距離戦・天皇賞(春)はヘデントールが勝ち、GⅠ初制覇。2着ビザンチンドリーム、3着ショウナンラプンタで決着した。

今年で開場100周年を迎える京都競馬場といえば、内馬場の池とその向こうにみえる3、4コーナーの小高い丘が象徴だ。天皇賞(春)は今年も淀の丘での攻防が勝敗をわけた。京都芝3200mは今も昔も淀の丘での押し引きが最後の直線での伸びにつながる。そんな原風景がこの先も続くことを印象づけた天皇賞(春)だった。

ポイントは2番人気サンライズアースにあった。前走阪神大賞典は逃げてソラを使うなど気性面の難しさをみせつつも、先に動いた2着馬を差し返す形で快勝。3000mで先頭を走り、なおかつ上がり600m最速と、手も足も出ない完璧な競馬を展開した。

気性を考慮した逃げは本音では避けたいところ。それでも揉まれず先行がベストであり、前にはいく。自然とレースの比重がサンライズアースにかかる。先手を奪ったジャンカズマが引きつける形をとったことで、ライバルたちの視線はなおさらサンライズアースに注がれ、全体的につかず離れずのまま進んでいった。

序盤1000m1:00.7は特筆するほどではないが、中盤1000m1:01.5がタフな流れにレースを導いた。1、2コーナーから向正面にあたる中盤1000mはペースがガクンと落ちるのがセオリー。だが、この区間12.0-12.3-12.9-12.5-11.8と落ちたのは8ハロン目だけ。13秒台がなく、先行勢は息を入れにくい。

中盤まである程度のペースを刻んで迎えた2周目3コーナー上り。淀の丘の入り口でマイネルエンペラーが先に仕掛けた。これもサンライズアースへの意識ゆえだろう。

早々に仕掛けてねじ伏せる。出し抜けを食らわすような動きだったが、これを丘の入り口でやってしまうと、最後の最後に苦しくなる。2度目の淀の丘はゆっくり上って、じわじわとエンジンをかけながら下っていかないとゴールまでもたない。

マイネルエンペラーの動きに呼応し、仕掛けたサンライズアースもわずかに早かった。2番人気の先行型なら、当然動いて出ないといけない。池添謙一騎手としても、早めに動かされたのは痛かっただろう。


個性派だらけの血統ヘデントール

勝ったヘデントールは最初の淀の丘までにきっちりポジションを主張し、3列目のインという絶好位置を確保。あとは勝負所まで淡々と進め、抜群の手応えで2周目丘の下りから仕掛けた。

早めに動いたマイネルエンペラーやサンライズアースに対し、ひと呼吸待てたのは序盤のポジショニングが大きい。D.レーン騎手のレース運びは見事としかいえない。上りで仕掛けた組との末脚の残量は明らかに違った。

父ルーラーシップ、母コルコバードはその父ステイゴールドという血統構成でスタミナ、晩成というイメージはピッタリ。コルコバードの母はダートの追い込みで鳴らしたエンシェントヒル。出遅れもなんのその、大外を一気に追いあげる個性派だった。

ダートのイメージが強い一族だが、ステイゴールドを配したコルコバードは芝の中長距離を得意としており、ルーラーシップを組み合わせたことで、その特色がさらに強く出た。個性派だらけの血統表ながら、ヘデントールは競馬巧者だから不思議だ。

共通点が晩成血統なら、まだまだ強くなる余地はある。菊花賞2着馬の翌年天皇賞(春)勝利はスペシャルウィーク、テイエムオペラオーと同じ。オペラオー以来出ておらず、25年ぶりだという。淀の丘の攻防と合わせ、懐かしさ際立つ天皇賞(春)だった。


素質開花のビザンチンドリーム

2着はビザンチンドリーム。きさらぎ賞を遅れ差しの形で制して以来、間違いなくステイヤーとみていたが、その見立てがここにきて証明された。

若い頃は中距離で差して届かず、もしくは展開と馬場がハマって差し切り勝ちを収めるような馬は、総じてステイヤー資質が高い。強いのに届かない。そんなもどかしい感覚はいずれ長距離での開花につながるので、覚えておこう。

最近は聞かないが、以前はよくクラシックの段階からステイヤー説が囁かれることがあった。これも懐かしい。ビザンチンドリームも昨年菊花賞5着。今年の天皇賞(春)は1~4着を4歳馬が占め、菊花賞2、4、5着馬が1~3着を独占した。いずれもステイヤー資質が高く、この世代は強いだけでなく、層が厚い。

3着ショウナンラプンタも、青葉賞の頃からステイヤーと見込んでいた。中距離だとよく追い込むも、足りない。そんな競馬を繰り返し、昨年の菊花賞は積極的な競馬で完全にステイヤーとしての力を示した。

今回は早めに動いた分、最後に苦しくなったが、厳しい経験を積み上げるうちに強くなるのもステイヤー。中距離では人気ほど走れないかもしれないが、来るべきときに備えてほしい。

4着サンライズアースはマイネルエンペラーによって動かされてしまった印象。とはいえ、前走も感じたがどうも3、4コーナーでの反応が悪い。阪神でも京都でも変わらないので、コーナーの形状というより、自身の内面に原因がありそうだ。

勝負所での反応の悪さを踏まえると、現状だと先行する形がいいだろう。この先もこのスタイルを貫いてほしい。

青森産ハヤテノフクノスケは11着。さすがにこれほど厳しい流れとなると経験がなく、その差が出てしまった。だが、昇級初戦であり、決して悲観しなくていい。ここから先、経験値を積み、逞しくなれば、いずれ通用する可能性はある。

父ウインバリアシオンは菊花賞2着、天皇賞(春)も3着、2着と好走。オルフェーヴルに抗ったクラシックの段階から、明らかにステイヤー資質を秘めた馬だった。その悲願は確実にハヤテノフクノスケに受け継がれている。


2025年天皇賞(春)レース回顧,ⒸSPAIA


《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。

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