追込み一手の馬は届きにくい
天皇賞(春)の行われる高速馬場の京都芝3200mは、追い込み一手のタイプが勝ち負けするのは本当に難しい舞台だ。2周目の3角まではゆったりと流れ、3角下りから一気にペースが上がることと、4角の角度が急でスピードを維持しにくいことが影響している。
23年の菊花賞後には田辺裕信騎手が、「坂を下って加速している影響もあるが、4角から直線に向かっての角度が急。感覚的には、直角に近いくらいに曲がっているので、どうしても外に膨れやすくなります」といった話もしているほどだ。
そのためか京都開催時の直近10年では、2周目の3角で7番手より後ろにいた馬は18年のレインボーラインを除いて勝っていない。さらに過去を見ても、12年にオルフェーヴルが2週目の3角17番手から11着に敗れている。今年も位置を取れる馬を中心に予想したい。
能力値1~5位の紹介

【能力値1位 サンライズアース】
前走の阪神大賞典では6馬身差で圧勝。9番枠から五分のスタートだったが、促してじわっと先行しハナを取り切る。スタンド前でもコントロールしてかなりのスローでレースを支配し、向正面で徐々にペースを引き上げていく。ただそれでも遅く、マコトヴェリーキーが内から一気に動くと、同馬を行かせて2番手の外で3角に入った。
3~4角で内のマコトヴェリーキーを目標にしてひとつ外から仕掛け、4角で同馬に並びかけて直線へ。序盤で追われて楽に抜け出すと3馬身差。ラスト1Fでそのまま突き抜けて6馬身差で勝利した。
阪神大賞典時は高速馬場で、前半5F63秒1-中盤5F62秒4-後半5F57秒8のスローペースだったが、レース最速はラスト5F目(3角手前)の11秒2。かなり仕掛けが速かったが、それでも先頭を取り返して突き抜けた内容は濃く、記録した指数も出走馬中No.1だ。
本馬は前と内が有利な展開になった日本ダービーで4着。ここでは1番枠から好スタートを決めながらも最後方に下げ切って、前のコスモキュランダがマクるとそれを追い駆け進出して3角では先頭列。3~4角で3頭分外を回るロスを作ったことで、4角では2列目まで下がりながらも最後まで踏ん張って4着を死守。無尽蔵のスタミナを見せつける走りだった。
前走ではダービーの内容と単騎で逃げられるメンバーの組み合わせだったことから迷いのない本命に推したが、しっかり結果を出してくれた。このように本馬は長距離がベストだ。
ただ、京都芝3200mは阪神芝3000mと違って速い上がり求められる点がネック。皐月賞や日本ダービーのように後方からレースを進めてしまうと、鞍上の池添謙一騎手が騎乗していた12年のオルフェーヴルのように大敗してしまう可能性はある。それでも、しっかり先行さえ出来ればここも通用するはず。対抗評価とする。
【能力値2位 ヘデントール】
新馬戦で後の皐月賞馬ジャスティンミラノの2着に善戦すると、その後2連勝。1番人気に支持された青葉賞ではやや出遅れた後に接触して最後方からとなり、マクるタイミングもなく8着に敗れた。この敗戦で日本ダービー出走の夢は断たれたが、その後は2勝クラスの町田特別と3勝クラスの日本海Sを連勝した。
日本海Sでは大外9番枠から出遅れ、やや外にヨレたが、そこから立て直して中団外まで挽回。道中かなりのスローとなる中、じわっと2列目の外まで押し上げたが、前2頭が一気にペースを引き上げたため、やや離れた3番手の外で3角に入った。
3角では仕掛けを待ち、4角で前のスペースを詰めて先頭列・外のヴェールランスの後ろを通して直線へ。序盤で外に誘導されるとすっと先頭に立ち、ラスト1Fで抜け出して3馬身半差で完勝した。
このレースは超高速馬場で前後半5F61秒9-57秒5とかなりのスローペースだったが、序盤から位置を上げるロスがあったことや、4角から仕掛けてラスト1Fで加速して後続を突き放した内容が素晴らしかった。これを考えれば、次走の菊花賞2着も順当な結果である。
前走のダイヤモンドSでも休養明けながら圧勝。8番枠からやや出遅れたが、しつこく押して挽回し、好位の外を追走。スタンド前ではコントロールして進め、向正面では前4頭からやや離れた位置で余裕を持って進めた。
内を通した3角では外からワープスピードが仕掛けて上がってくると、コントロールしながら一緒に位置を押し上げ、4角で前をかわして先頭に立つ。直線序盤で持ったままワープスピードに3/4差。ラスト2Fで追われると同馬を3馬身突き放し、ラスト1Fでさらに差を広げて4馬身差で勝利した。
前走は高速馬場で前半5F63秒6-中盤7F88秒8-後半5F59秒8。前半も中盤もペースが上がらずに、ラスト3F34秒9というとても上がりが速い決着。好位から早めに仕掛けて突き抜けた内容はとても強かった。
今回は休養明けのダイヤモンドSで自己最高指数を記録した後の一戦で、ここで疲れが出る可能性もある。また出遅れ癖があり、2走前の菊花賞のように後方付近からのレースになることも視野に入れなければならないが、3角までに中団くらいまでの位置が取れた場合にはチャンス十分。重い印は外せない。
【能力値3位 ハヤテノフクノスケ】
今年に入って2勝クラスの鶴舞特別と3勝クラスの阪神競馬場リニューアルオープン記念を連勝。2走前時には追い切りが格段と良くなり、馬体重は18kg増。前走では6kg増と馬体を増やしながら上昇一途だ。
前走の阪神競馬場リニューアルオープン記念では、5番枠から五分のスタートを切り、無理なくコントロールして中団中目を追走。スタンド前で極端にペースが落ちると折り合いにやや苦労していたが、ミステリーウェイの後ろで我慢させ、スペースを作って進める。向正面でもスペースを維持し、同馬をマークする。
3角手前でも仕掛けを待って、中団中目から外に誘導、4角でサンライズソレイユの外から仕掛けて一気に差を詰めて2列目で直線へ。直線序盤でしぶとく伸びて1馬身半ほど前に出ると、ラスト1Fでそのまま突き抜けて5馬身差で圧勝した。
前走は開幕週の超高速馬場で前半5F61秒4-中盤5F61秒7-後半5F59秒8。前半こそ遅かったが、中盤でそれほど緩んでおらず、重賞通用レベルの高指数決着となった。実際に5馬身差の2着馬ミステリーウェイと3着馬サンライズソレイユは次走で3勝クラスを勝利している。
本馬もサンライズアースやヘデントールと同じ成長期の4歳馬。昨秋の菊花賞では8着とヘデントールに先着されているが、中団最内で進めたなか、向正面で外から各馬が動いたことで進路がなくなり、3~4角で後方に下がってしまったことが影響している。
当時のように後方からのレースになると今回も苦戦必至だが、前走ではゲートも二の脚も悪くなく、ある程度の位置が取れた状況下でコントロールして中団中目で進めていた。おそらく今回もそこまで悪い位置にはならない可能性が高く要注意だ。
【能力値4位 マイネルエンペラー】
前走の日経賞で菊花賞馬アーバンシックらを下して勝利し、重賞初制覇を達成した。前走は8番枠から五分のスタートを切り、かなり押してじわっと先行して好位中目を追走。スタンド前では外に誘導して2列目。向正面で徐々にペースが上がっていったが、2列目の外で仕掛けを待って3角に入った。
3角で前2頭の外から押し上げ、4角でも鞭を入れて食らいつくがまだ2列目。直線序盤ではしぶとく食らいついて2番手争いとなる。ラスト1Fも踏ん張り通し前を捉えると、外から迫るチャックネイトをクビ差で振り切った。
タフな馬場だった前走は、前後半5F63秒0-61秒3とかなりのスローペースだった。ただ、レース最速はラスト4F目(3角)の12秒0。仕掛けが速くて前に厳しい展開を先行策から押し切ったことは高評価できる。
タフな馬場を好位から早めに仕掛けて押し切るあたりに豊富なスタミナを感じ、芝2500mよりも芝3000m超えのレースでこそ、と思わせる。しかし、今回は消耗度の高いレースで自己最高指数を記録した後の一戦。さすがに疲れが残る可能性が高い。
【能力値5位タイ ジャスティンパレス】
一昨年の天皇賞(春)で悲願のGⅠ制覇を達成した馬。この天皇賞(春)では1番枠から五分のスタートを切り、積極的に押していったが、ひとつ外のディープモンスターに前に入られ、好位は諦めて中団やや前目の最内を追走した。スタンド前ではディアスティマの後ろでスペースを作って進め、向正面でかなりペースが落ちると、ディアスティマの外に誘導してディープボンドをマークする形に切り替える。
3角手前で一気にペースダウンすると、ディープボンドを追いかけて楽な手応えで進出。4角で同馬の外に誘導すると直線序盤で先頭に立つ。ラスト1Fで差を広げて2馬身半差で完勝した。
当時は標準的な馬場で、前半5F59秒7-中盤6F75秒6-後半5F60秒8のややハイぺース。それでもラスト3Fは速く、いかにも天皇賞(春)らしい、3角手前で中団にはいないと苦しい決着だった。鞍上C.ルメール騎手が3角手前で上手く押し上げたことが功を奏し、自己最高指数を記録しての勝利だった。
天皇賞(春)後は中距離路線に矛先を向け、昨年の天皇賞(秋)で0秒3差の4着、前走の大阪杯でも0秒4差の6着に善戦するなど、中距離戦でも上位争いを繰り広げている。しかし、本馬はゲートやテンの脚が速くなく、徐々にエンジンをかけていくタイプであることから、ベストはあくまでも長距離だろう。
今年は鮫島克駿騎手への乗り替わりとなるが、同騎手が騎乗した前走の大阪杯ではかなり押して中団中目の追走。思い切って流れに乗せていっただけに、今回も中団くらいの位置が取れると見ている。また前走で無理に行かせて忙しい競馬をさせたのは、ポジショニングの改善を図るためだったと見ており、ここで本命に推す。
【能力値5位タイ ショウナンラプンタ】
2走前の日経新春杯では2着。14番枠からやや出遅れ、無理なくコントロールしながら後方中目を追走した。道中はメイショウタバルが飛ばしていく展開でペースが速かったが、後方で脚を温存して進めた。
3~4角では2列目以降がメイショウタバルとの差を詰めていくなか、中団の外々から4角出口で大外に誘導して直線へ。直線序盤で追われるとじわじわと3列目に上がり、ラスト1Fでもしぶとく伸びて3着に3/4馬身差をつけて2着を確保した。
前走は時計の掛かる馬場で、前後半5F57秒7-60秒9とかなりの激流。3~4角ではヴェローチェエラをマークする形になり、4角で4~5頭分外を回るロスを作ったが、展開に恵まれたこともあって自己最高指数を記録した。
前走の阪神大賞典では4着。1番枠からやや出遅れ、促してもあまり進んで行かずに最後方からの追走になる。ウィープディライトに外から蓋をされ、スタンド前でも最後方列の最内で折り合いに専念する形。1角で外に出したが、向正面でもまだ動かず3角で前が加速した後から動いていく。
3角で中団中目から仕掛けたことで、4角では4頭分も外を通してゴールデンスナップの後ろから4角出口で外へ誘導。直線序盤で追われて中団まで上がり、ラスト1Fでもじわじわ伸びていたが、3着ブローザホーンとハナ差の4着までだった。
サンライズアースの項目で記載したように、阪神大賞典は高速馬場のなかでスローペースだったが、レース最速はラスト5F目(3角手前)の11秒2とかなり仕掛けが速かった。本馬は向正面で動かずに、ペースが上がった3角から動いたことで、4角でかなり外を回るロスが生じ、それが敗因となった。
前走が不本意なレースだったことから、前日段階では穴人気しているが、ゲートが甘く前半から位置を取れないのは致命的である。また本馬はこれまで末脚一辺倒のレースをしており、早めに動けば末脚不発に終わる危険性もある。ここでは評価を下げたい。
※パワーポイント指数(PP指数)とは?
●新馬・未勝利の平均勝ちタイムを基準「0」とし、それより価値が高ければマイナスで表示
例)サンライズアースの前走指数「-30」は、新馬・未勝利の平均勝ちタイムよりも3.0秒速い
●指数欄の背景色の緑は芝、茶色はダート
●能力値 =(前走指数+前々走指数+近5走の最高指数)÷3
●最高値とはその馬がこれまでに記録した一番高い指数
能力値と最高値ともに1位の馬は鉄板級。能力値上位馬は本命候補、最高値上位馬は穴馬候補
《ライタープロフィール》
山崎エリカ
類い稀な勝負強さで「負けない女」の異名をとる競馬研究家。独自に開発したPP指数を武器にレース分析し、高配当ゲットを狙う! netkeiba.com等で執筆。好きな馬は、強さと脆さが同居している、メジロパーマーのような逃げ馬。
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