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栗毛のダート成績がいいのは、実はディープインパクトのせい?毛色別成績の変化

2020 8/18 06:00門田光生
毛色データインフォグラフィックⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

種牡馬と産駒の毛色の関係性

以前、毛色と暑さの関係を調べていた時、栗毛のダート出走率と勝率が芝に比べてやたらと高いことに気づいた。もしかしたら、その時代のトップ種牡馬の毛色が関係しているのではないかとの仮説を立ててみたが、果たして本当にそうなのか。また、ここ10年だけの話ではなく、その傾向は以前から続いているのかなどを調べてみた。

もちろん、種牡馬が同じ毛色の仔を生む確率は100%ではないが、栗毛同士なら100%栗毛が(栃栗毛も含む)、芦毛以外同士だと芦毛が出ない、などの法則からも、少なくとも種牡馬の毛色が産駒の毛色に大きくかかわっているのは間違いようだ。

2010年~2019年編

まずは2010~2019年を検証してみる。対象はサンプル数が多い鹿毛、栗毛、黒鹿毛、青鹿毛、芦毛の5種類。

2010~2019総合ⒸSPAIA
2010~2019芝ⒸSPAIA
2010~2019ダートⒸSPAIA

この10年間でトータルの勝率が最もよかった毛色は芦毛で、最も悪かったのは栗毛。残る3種類はほぼ同じだった。

芝も同様の結果で、芦毛がトップで最下位は栗毛。残る3種類はほぼ同じ。

ダートも芦毛がトップだが、2位に栗毛が浮上。栗毛は芝に比べて勝利数、勝率、連対率の全てが上がっているが、鹿毛、黒鹿毛、青鹿毛の3種は軒並み数字を下げている。芦毛は芝、ダートともほぼ同じ勝率だが、勝利数自体はダートの方が多くなっている。

さて、ここからが本題。この10年間、芝ベスト3に入った主な種牡馬はディープインパクト(鹿毛)、ハーツクライ(鹿毛)、ステイゴールド(黒鹿毛)、キングカメハメハ(鹿毛)。キングカメハメハ以外は芝を得意とする種牡馬ばかり。これらの種牡馬が鹿毛、黒鹿毛の芝の好走率を押し上げているのだろうか。

ダート部門はゴールドアリュール(栗毛)、キングカメハメハ(鹿毛)、クロフネ(芦毛)、サウスヴィグラス(栗毛)。芝にはいなかった栗毛の種牡馬が2頭おり、これらが栗毛のダート好走率にひと役買っている可能性が高くなった。

ちなみに、2019年の中央競馬におけるダート種牡馬トップ3は全て栗毛(ゴールドアリュール、ヘニーヒューズ、サウスヴィグラス)だった。これからゴールドアリュール産駒は少なくなっていくのだが、代わりに同じ栗毛のヘニーヒューズが台頭。2020年以降も栗毛のダート率は高いのではないかと予想される。

2000~2009年編

2000~2009総合ⒸSPAIA
2000~2009芝ⒸSPAIA
2000~2009ダートⒸSPAIA

続いて2000~2009年を検証してみる。この10年間の勝率トップは青鹿毛。以下栗毛、黒鹿毛、鹿毛と続き、2010~2019年でトップだった芦毛は何と最下位だった。

芝も青鹿毛が1位で、最下位は芦毛。ダートも同様に青鹿毛がトップだが、僅差の2位に浮上したのはまたしても栗毛。栗毛と、勝率が最下位の芦毛の2種は先の10年間と同じで、芝よりダートの方が勝ち星が多くなっている。

2000~2009年の芝ベスト3に入った主な種牡馬はサンデーサイレンス(青鹿毛)、トニービン(鹿毛)、ダンスインザダーク(鹿毛)、アグネスタキオン(栗毛)。この10年間で青鹿毛の成績がやたらといいのは、やはり大種牡馬サンデーサイレンスの影響が大きいのだろう。

ダート部門の上位種牡馬はブライアンズタイム(鹿毛)、アフリート(栗毛)、フォーティナイナー(栗毛)、クロフネ(芦毛)。この時代も栗毛のダート上位種牡馬が複数存在しており、やはりこれが栗毛=ダート馬の要因となっている可能性が高まった。

1990~1999年編

2000~2009総合ⒸSPAIA
2000~2009芝ⒸSPAIA
2000~2009ダートⒸSPAIA

最後に1990~1999年を見ていこう。2000~2009年と同様に総合の勝率1位は青鹿毛。以下、栗毛、黒鹿毛、鹿毛、芦毛の順番だった。芦毛はこの30年で見ると最下位、最下位、そして近10年は1位と極端な成績になっている。また、サラブレッドの全体頭数の関係上なのか、どの毛色も2000~2009年と比べて1990~1999年は出走頭数が少なくなっているのだが、栃栗毛だけがなぜか多い。名馬にして名種牡馬サッカーボーイ(栃栗毛)が種牡馬として活躍したのはこの時代だが、もしかしたら関係あるのだろうか。

芝の1位も青鹿毛で、最下位は芦毛。ダートも青鹿毛が1位で、2位にはまたもや栗毛が浮上してきた。ただこれまでと違うのは、芝とダートの勝ち数がほぼ同じだったということ。この時代では栗毛=ダート向きというわけではなかったようだ。

ここ20年はダートの上位種牡馬に栗毛が多かったが、果たしてこの年代の上位種牡馬にはどんな馬がいたのだろうか。

1990~1999年代は前半と後半で上位種牡馬の顔触れが大きく変わってくる。まず芝だが、前半は小さな巨人ノーザンテースト(栗毛)、天馬トウショウボーイ(鹿毛)、長距離砲リアルシャダイ(鹿毛)。後半はご存じサンデーサイレンス(青鹿毛)、東京大好きトニービン(鹿毛)、ナリタブライアンの父ブライアンズタイムの三強時代。ほかの年代より栗毛の芝成績がいいのはノーザンテーストの影響かもしれない。また、青鹿毛の総合1位は、後半に出現したサンデーサイレンスが数字を底上げしたのではないかと考えられる。

ダートは1990年代前半が砂の鬼ブレイヴェストローマン(鹿毛)、万能ノーザンテースト(栗毛)、最強持ち込み馬マルゼンスキー(鹿毛)。後半は馬力十分ブライアンズタイム(鹿毛)、超良血ジェイドロバリー(黒鹿毛)、そしてダートも超一流サンデーサイレンス(青鹿毛)。2000年以降と違って栗毛はノーザンテーストだけで、そのノーザンテーストは芝でも一流馬を多数出した万能馬。栗毛が芝とダートで大きな差がつかなかったのは、やはり種牡馬の毛色が関係している可能性がかなり高くなった。

結論だが、近年栗毛のダート成績がいいのは、アフリート、フォーティナイナー、サウスヴィグラス、ゴールドアリュールなど、栗毛にダートの上位種牡馬が多いこと、また1990年後半~2000年代に青鹿毛の成績が伸びたのはサンデーサイレンスの存在が大きい、となる。

最後になるが、実はディープインパクト産駒に栗毛は存在しない。これはディープが栗毛遺伝子を持っておらず、栗毛遺伝子を持たない馬からは栗毛が出ないから、だそうだ。ディープインパクトは芝専科といっていい種牡馬。実際、産駒の芝の勝率は14%もあるが、ダートだと7.8%まで下がる。ダートが苦手なディープインパクト産駒に栗毛がいないことも、栗毛のダート好走率が高い要因の一つかもしれない。

《ライタープロフィール》
門田 光生(かどた みつお)
競馬専門紙「競馬ニホン」で調教班として20年以上在籍。本社予想などを担当し、編集部チーフも兼任。現在、サンケイスポーツにて地方競馬を中心に予想・記事を執筆中。遺伝学上では、ディープインパクトだけでなくロードカナロアからも栗毛の産駒は出ないそうです。何十年も調教で馬を見ていながら、そして血統の記事を作成しながら全く気づきませんでした。芦毛以外にも興味を持つべきだと反省しております。