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「芦毛」は本当に暑さに強いのか?「毛色」で見る夏競馬

2020 7/28 11:00門田光生
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毛色で見る夏競馬

梅雨が明けると、いよいよ夏本番。連日のように「真夏日」という言葉が飛び交うようになり、熱中症やバテ防止などの対策が必要となってくるだろう。

この原稿を書いている7月25日時点では、筆者が住んでいる近畿地方でまだ梅雨明け宣言は出ていない。なので、7月中は扇風機で乗り切ろうかと思っているが、さすがに8月に入るとクーラー様のお世話にならないわけにはいかないだろう。

しかし、競走馬はそうもいかない。パドックを周回している時はミストを浴びて少しはマシなのだろうが、コースでは炎天下の中、手を抜くことを許されず全力で走る姿には頭が下がる思いである。

さて、ここからが本題。夏に白い服を着るのは熱を吸収しづらいからで、逆に黒い服を着るといつも以上に暑く思えるのは、熱を吸収しやすい色だから、ということらしい。サラブレッドも黒っぽい馬(黒鹿毛など)とか白っぽい馬(芦毛など)が存在するが、果たして黒鹿毛は夏の暑さに弱いのか、一方の芦毛は成績が上がっているのか。ちょっと気になったので、それぞれ条件を付けて調べてみた。

新潟編

都市別の平均気温(1981~2010)ⒸSPAIA

まずは新潟競馬場から見ていこう。新潟競馬場がある新潟市は8月の平均気温が26.4℃(1981~2010、気象庁調べ、それ以降のデータはないのでこの期間とする、以下同じ)で、東京の8月の平均気温と全く同じ。豪雪地帯のイメージがある新潟だが、やはり夏は暑いようだ。

芝の毛色別成績(2010~2019)ⒸSPAIA

2010年から2019年の10年間、新潟競馬で行われた芝の全レースの成績を毛色別に分けてみた。最も勝っているのは鹿毛だが、出走頭数も圧倒的なので当然の結果だろう。勝率は青鹿毛がトップで、連対率も同じく青鹿毛がトップ。こちらはほかの毛色を少し離している。勝率2位は黒鹿毛で、鹿毛、芦毛、栗毛と続く。なお、青毛、栃栗毛、白毛に関してはほかと比べてサンプル数が少ないので順位には反映していない。

今度は同じ10年間のデータでも、夏の新潟開催、しかも気温が上がるであろう晴れの日に絞ってみた。暑い日限定の勝率は、青鹿毛が通年より0.5ポイント下がって2位に転落。1位に上がった黒鹿毛も通年と比べて0.1ポイント下がっている。黒っぽい毛色の成績が暑い日で下がったのを見て、これは調べたかいがあったものだと喜んでいたら、何と芦毛も同様に成績を下げているではないか。

連対率だと青鹿毛は0.8ポイントも上昇。黒鹿毛は0.5ポイント下げているが、芦毛も0.1ポイントの減少。もしかしたら芦毛は夏に強いという仮説は間違っているのではないか。早くも雲行きが怪しくなってきた。

ダートの毛色別成績(2010~2019)ⒸSPAIA

そこでふと思ったのが、芝とダートでは体感温度が違うのではということ。筆者は馬でなく人間なので、人としての体験を基にしか書けないが、芝が生い茂る公園と、海岸沿いの砂浜を比べると、砂浜の方が明らかに下からくる照り返しが強い。よって、夏の格言はダートでより顕著に出るのでないか。ちなみに、とある騎手は「暑いのは暑いが、返し馬やレースではアドレナリンが出ているせいか、芝もダートのどちらが暑いとか感じない」とのことである。騎手の集中力の高さには恐れ入る。

ということで、ダートでも芝と同様のデータを出してみた。こちらの勝率トップは栗毛。芝に比べると3ポイント近く勝率が上がっていた。以下、芦毛、青鹿毛、黒鹿毛、鹿毛の順となった。

今度は夏の開催、さらに晴れの日のみに絞ってデータを出して通年と比較してみる。勝率の順位自体は変わらなかったが、芦毛は芝と違って勝率、連対率ともに上昇。一方の黒鹿毛は勝率、連対率ともに低下していた。特に連対率は3ポイント近く下落。予想通り、この格言はダートで有効なのかもしれない。

ちなみにサンプルがごく少ない白毛以外、新潟競馬全体の出走頭数は芝の方が多くなっている。最も数が多い鹿毛の場合、芝の出走頭数11281頭に対して、ダートは7965頭。勝利数も芝758勝に対してダートは480勝。ほかの毛色もだいたい同じ傾向だが、なぜか栗毛だけは芝の出走頭数5962頭に対して、ダートは5432頭と減少幅が少ない。

さらに勝利数となると芝341勝に対してダートは463勝と100勝以上も増えている。今回のテーマとは離れるが、栗毛はダート馬が多いのだろうか。ダート種牡馬で有名なゴールドアリュールとサウスヴィグラスは栗毛だが、その影響なのか、はたまた新潟だけ特殊なのか。時間があれば調べてみたいところだ。

小倉編

都市別の平均気温(1981~2010)ⒸSPAIA

西では九州にある小倉競馬場で夏競馬が行われる。なお、気象庁のサイトで小倉の平均気温が見つからなかったので、近くの八幡の平均気温を参考にしている(小倉も八幡も同じ北九州市)。

八幡の8月の平均気温は27.4℃。新潟や東京より1℃高いのだが、大阪の平均気温は28.8℃とさらに高い。夏の小倉には毎年のように行っていたのでよく覚えているが、同じ暑さでも大阪と違ってカラッとしており、蒸し暑い大阪より断然過ごしやすいと思う。

芝の毛色別成績(2010~2019)ⒸSPAIA

新潟と同様、まずは過去10年に小倉競馬場で行われた芝の全レースを調べてみた。トップは勝率、連対率ともに芦毛だった。新潟とは違う傾向だが、暑い日のデータではないので、ここで芦毛がトップなのはあまり関係ない。

続いて夏の開催、さらに芝で晴れの日のみというデータ。ここも芦毛が勝率、連対率ともトップ。しかも、通年と比べて数値が上昇しているという理想的な結果。しかし、鹿毛、栗毛、黒鹿毛、青鹿毛も通年と比べて勝率、連対率ともに上昇している。新潟と同様、芝に関しては夏の格言に当てはまるような傾向は見つからなかった。

ダートの毛色別成績(2010~2019)ⒸSPAIA

次は通年小倉のダート。サンプル数の少ない栃栗毛、青毛、白毛を除くと、黒鹿毛が勝率、連対率ともにトップ。以下、鹿毛、青鹿毛、栗毛、芦毛の順となった。ちなみに栗毛のダート出走率は新潟と同様、ほかの毛色と比べて高いものとなっている。

ダートも夏の開催、さらに晴れの日に絞って出したデータを通年と対比してみる。勝率1位だった黒鹿毛が何と4位に転落。新潟と同様に勝率、連対率ともに数字を下げている。一方の芦毛はというと、通年と同じく5位のままで、こちらも数字を下げていた。

札幌編

都市別の平均気温(1981~2010)ⒸSPAIA

ダートの毛色別成績(2010~2019)ⒸSPAIA

札幌は8月の平均気温が22.3℃で、新潟や小倉に比べるとかなり低い。とはいえ、北海道も暑い時は暑いので(当たり前)、8月の札幌競馬の全ダート競走、そして晴れの日に絞ってみた。結果は勝率1位が芦毛で、5位が黒鹿毛。ちなみに比較的涼しいであろう7、9月の札幌競馬だと黒鹿毛の勝率は3位だった。面目躍如の芦毛はともかく、暑い8月の札幌でも黒鹿毛の好走率が低くなっている。

これまで導き出されたデータから推測すると「芦毛が夏に強い」というより「黒鹿毛が夏に弱い」、さらにいえばダートでより顕著、という検証結果になった。結論だが、夏競馬に通用する格言というか傾向があるとすれば「夏のダート競走で黒鹿毛の好走率が下がる」となる。夏競馬の馬券で相手に迷った時、この格言に頼るのもありかも?

小倉競馬場の毛色と気候別データ

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《ライタープロフィール》
門田 光生(かどた みつお)
競馬専門紙「競馬ニホン」で調教班として20年以上在籍。本社予想などを担当し、編集部チーフも兼任。現在、サンケイスポーツにて地方競馬を中心に予想・記事を執筆中。個人的には、顔に愛嬌のある馬が多い芦毛が大好き。川崎競馬場では芦毛&白毛限定のレースが行われているのですが、いつか見に行けたらと思っています。